鷹と孔雀、或いは犬と豚のはなし。

山本律磨

流言飛語(脚本)

鷹と孔雀、或いは犬と豚のはなし。

山本律磨

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〇黒
琵琶法師「栄華を誇った平家一門一人残らず壇ノ浦の露と消え・・・」
琵琶法師「・・・てなどおらぬ」
琵琶法師「死にきれず山へ島へと落ちた武者」
琵琶法師「青墓に落ち男共の慰み者となった女官」
琵琶法師「人ならばそれもまた業」
琵琶法師「ただ情けなきはその棟梁が源氏に媚びへつらい、生きながらえようとしている醜態」

〇海辺
琵琶法師「この歌はもう宜しいか?」
琵琶法師「されすばこれより奏でるは平家一門今一人の生き残りの歌にございます」

〇和風
  『かの人の名は平徳子(トクコ)スエクニの妹にして壇の浦の露と消えた幼帝の母』
  『今は仏門に入り建礼門院と号する絶世の美女』
民「戦の犠牲になるのはいつも女よ!政なんて女だけでやれば未来永劫平和になるのに!」
民「だけどだけど。噂によるとクロウ様と建礼門院様とは幼馴染で恋の相手だとか」
民「源氏と平家の争いによって引き裂かれた、禁断の恋ね。切ないわ」
琵琶法師「源クロウと平トクコ」
琵琶法師「今宵二人は陣の片隅の天幕で、運命と共に再会する」

〇養護施設の庭
クロウ「クロウ判官である」
トクコ「お初にお目にかかります」
トクコ「入道相国が娘大臣殿が妹。建礼門院にございます」
  建礼門院トクコ
クロウ「建礼門院殿。此度の仕義まことに・・・」
トクコ「うつせみに情けなど無用にございます」
クロウ「うつせみ?」
トクコ「私の心は亡き帝、そして一門の方々と共に既に十万億土へ旅立っております。それに」
クロウ「それに?」
トクコ「戦が始まりし折より巷に流れる不快な噂も囚われの身なれば聞かずに済んでおります」
クロウ「不快な噂とは何だ?」
トクコ「口にするのもはばかられます」
クロウ「俺とそなたが幼馴染で恋仲だという噂か? ただの下々の戯れ言だ」
トクコ「その戯れ言が今、私と一門の名をおとしめているのです」
クロウ「はははっ!この英雄クロウとの噂。むしろほまれではないか?」
トクコ「・・・」
クロウ「いやいや。これも戯れ言戯れ言」
トクコ「私の事だけではありません。兄、宗盛の噂も聞くに堪えぬものがあります」
クロウ「今は宗盛ではない。スエクニだ」
トクコ「民の間に流れる大臣殿『宗盛』卿の悪評」
クロウ「チッ・・・!」

〇海辺
琵琶法師「平家にあらずんば人にあらず」
琵琶法師「スエクニの傲慢が一門を破滅に導いたのだ」
民「そりゃあどういう事だい?」
琵琶法師「源平争乱の少し前、源氏一族に仲綱という武将あり」

〇古い洋館
  『武勇に秀でた仲綱は己にふさわしい名馬を持っていた』
  『ところがスエクニは平家の権力にものを言わせ、その名馬を強引に奪い取った』
民「全く!武人の風上にもおけねえ野郎だ!」
民「嫉妬よ!醜い男の醜い嫉妬!」
琵琶法師「お待ち下され。歌はまだ続きます」

〇後宮の庭
公家「ほほう。これが噂の名馬コノシタですか」
  『お歯黒に白粉を塗りたくったスエクニ、いや当時は内大臣宗盛卿』
  『歪んだ笑みを湛え指差したその先には』
スエクニ「ごらんあれ♪」
公家「こ、これは!」
  『なんと宗盛は名馬の尻に、持ち主だった源仲綱の名の焼印を押していた』
スエクニ「これ!暴れるでない仲綱!」
スエクニ「この内大臣が源氏のバカ馬を躾けてくれようぞ!」
スエクニ「大人しゅうせい!仲綱!いうことを聞かぬかこの馬鹿仲綱めが!」
スエクニ「あひゃひゃひゃひゃーーーーーーーー!」

〇古い洋館
  『その噂を聞いた仲綱は激怒した』
ナカツナ「おのれ宗盛!」
ナカツナ「馬は武人の命!坂東武者が手塩にかけた馬を奪うばかりか、この仲綱までも侮辱しおって!最早、断じて、許せぬ!」
  『怒髪天突く仲綱の憤りは、それまで平家に侮られ虐げられていた全国の武者達の心をも動かし遂に平家打倒の狼煙が上がる』
  『惜しくも戦に敗れ命果てた仲綱だったがその意志は木曾冠者義仲』
  『右兵衛佐頼朝』
  『そしてクロウ判官義経へと受け継がれ、平家一門は西海に沈むこととなった』
  『平家滅亡、宗盛の傲慢こそが発端なり』
トクコ「左様な話、根も葉もない噂にございます!」

〇養護施設の庭
クロウ「火の無い所になんとやらと言うぞ」
トクコ「確かに兄は才乏しく小心な所もあります」
トクコ「ですが人を愚弄し嘲るような、そのような非情下劣な真似などいたしませぬ」
クロウ「平家にあらずんば人にあらず」
トクコ「出た出たその言い回し(フレーズ)」
トクコ「そも、誰が言ったというのですか」
クロウ「清盛の弟だとも。スエクニだとも」
トクコ「埒もない」
トクコ「仮にまことだとしても『殿上人』にあらずくらいの軽口にございましょう」
トクコ「我が一門に人を人とも思わぬ悪党などおりませぬ。いたとしても勝つためには何でもする東夷に罵られるいわれはありませぬ」
クロウ「言ってくれる」
トクコ「どっちが」
クロウ「だがこれだけはまことの事だ。スエクニは俺の前ではっきりと命乞いをした」
トクコ「・・・」
クロウ「憎んでも憎みきれぬであろうの源氏の陣中で、奴は弟達を殺した俺に媚びへつらい、鎌倉に向かって手を合わせ笑みすら見せた」
トクコ「・・・兄様」
クロウ「そういう男なんだよ。お前の兄・・・」
クロウ「生き残った平家の棟梁は」
トクコ「・・・何か」
クロウ「・・・」
トクコ「何か目算があるのでは?」
クロウ「は?」
トクコ「兄は何か考えあって、左様な醜態を晒したのではないでしょうか?」
クロウ「あやつの名誉を守りたい気持ちも分るが、残念ながらあの笑顔は天然だった」

〇カラフル

〇養護施設の庭
トクコ「判官様」
クロウ「何だ」
トクコ「兄の心中を探ってはくれませぬか?」
クロウ「探るとは?」
トクコ「侮辱でも挑発でも構いませぬ。兄が平家の棟梁としての誇りを忘れているなら、何とかそれを思い出させて下さい」
クロウ「何で俺が左様な真似を」
トクコ「武士の情けにございます!」
クロウ「・・・」
トクコ「大臣殿宗盛卿を今一度、武人として目覚めさせて下さいませ!」
クロウ「知ったことか」
トクコ「私はどう扱われても構いません。ですが我が棟梁が左様な様では泉下の一門に顔向けできませぬ」
クロウ「おい」
クロウ「・・・どう扱われてもなどと言うな」
トクコ「どう扱われても!」
クロウ「強情な女め!」
トクコ「貴方様におすがりするしかないのです! 天下一の英雄クロウ義経様!」
クロウ「英雄・・・」
クロウ「それは違う」
クロウ「俺はそんな器じゃない」
トクコ「・・・」
クロウ「兄の為、鎌倉の為、身を粉にし働いているただの凡人だ」
クロウ「鬼でも勇者でもない」
クロウ「ただ、そうならねば平家を倒せなかった」
クロウ「それだけの事だ」
トクコ「クロウ様・・・」
クロウ「情けない兄を奮い立たせる・・・か」
クロウ「考えておこう。建礼門院殿」
トクコ「・・・トクコで構いませぬ」
クロウ「・・・」
クロウ「と、・・・トク」
トクコ「ただし」
トクコ「兄が真っ当な武人に戻った後です」
クロウ(さすが平清盛の娘)
トクコ「何か?」
  続く

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