〇赤い花のある草原
スエクニ「・・・」
クロウ「・・・」
ヘイザ「平スエクニ！源氏方大将の御前である！」
ベンケイ「頭を垂れい！」
スエクニ「・・・」
クロウ「クロウである」
スエクニ「・・・我が名は内大臣平宗盛」
スエクニ「改め！平スエクニにございますううう！」

〇赤い花のある草原
スエクニ「此度は比類なき坂東武者棟梁！稀代の英雄源頼朝様より新しき名を頂き有難き幸せに存じまするうううううううううううう！」
クロウ「う、うむ」
スエクニ「このスエクニ、敗軍の将にもかかわらず、クロウ判官様と共に鎌倉の地を踏める事、並びに御大将頼朝公にお目もじ仕る事」
スエクニ「まっことに有難き幸せに存じまするうう！」
クロウ「・・・左様に幸せなのか」
ヘイザ「それ以前にまず、そなたはまことに大臣殿であらせられるか？」
ヘイザ「影武者ならばもっと真面目に成りすまされるがよいかと・・・」
スエクニ「大臣殿？」
スエクニ「・・・フッ」
スエクニ「その名は最早壇の浦の底に沈めて参れとの御大将の思し召しでしょう」
ヘイザ「御大将？」
クロウ「誰が？」
クロウ「いや、誰の？」
スエクニ「誰がとは無論源頼朝様」
スエクニ「そして誰のとは、この、生まれ変わった平スエクニ・・・」
スエクニ「源氏の末席に名を連ねる源スエクニにござあああああああある！」
ヘイザ「勝手に末席に座るでないわあああああ！」
スエクニ「ごもっともおおおおおおおおおおおお！」
クロウ「それと、サラッと源氏名乗るのやめてくれぬか？意味が分からん」
スエクニ「フッ、それほどまでに心服しているという決意表明のようなものにございます」
スエクニ「カマクラ、最高！」
ヘイザ「その表明、すぐ取り下げろ」
スエクニ「そちらはもしや源氏名高き忠臣梶原ヘイザ景時様で？」
ヘイザ「だったら何じゃ？」
スエクニ「泣く子も黙る大目付。いや身共（みども）も貴方の様な忠義の士が欲しかった～」
ヘイザ「気色の悪い佞言を吐くな」
ベンケイ「全く、べらべらとよく舌の回る男だ」
スエクニ「あ！」
スエクニ「その僧形！」
スエクニ「まさか！」
スエクニ「あなたは判官殿いちの家来！」
スエクニ「一騎当千！」
スエクニ「武蔵坊！ベ―――――ンケ――――――！」
クロウ「やかましーーーーーーー！黙れーーーー！」
スエクニ「御意！」
クロウ「大臣殿」
クロウ「いや、今はただのスエクニ殿」
クロウ「平家一門の想いを一人背負い図らずも生き残ってしまった無念。恥辱。おなじ武人としてお察し致す」
スエクニ「勿体なきお言葉」
クロウ「この上は、一日も早う一門の方々とお会い出来るよう名誉の自刃を取り計らいましょうぞ」
スエクニ「あ、あいや」
クロウ「どうぞ心安らかに」
スエクニ「あいやあいや。ああ、いやいや」
クロウ「なにか？」
スエクニ「ええと、そうですね。分かりましたっ」
スエクニ「身共を源氏の末席になどという世迷言、 お忘れ下され」
ヘイザ「もとより記録しておらん」
スエクニ「このスエクニ。残りの人生の全てを賭して平家の菩提を弔いまするぞっ！」
スエクニ「無論！この後に及んで反旗を翻そうなどとは努々思ってもおりませぬぞっ！」
クロウ「だろうな」
スエクニ「なれば、源氏の方々にはお心おきなく世を治めて下されませ！」
ヘイザ「いわずもがなだ」
スエクニ「平家の御霊はきっとこの身共が」
クロウ「それには及ばん。平家の菩提はいずれ名のある高僧にでもお願いし弔ってもらう」
スエクニ「いえいえ大事ございませんぞっ！生き恥を晒してでも身共が終生鎮魂の祈りを・・・」
ベンケイ「ようは死にとうないのか？」
（言っちゃった・・・）
スエクニ「な、な、何を言ってるんだ失敬じゃないか」
スエクニ「ぼ、ぼかあ平家の総帥だよ」
スエクニ「内大臣だよ、超内大臣なんだよ」
スエクニ「超超超いい感じの内大臣なんだよ！」
スエクニ「そんな身共が死を恐れるなんてありえないじゃないか～。もうハゲ丸クンってば～」
ベンケイ「御曹司！ただちにお下知を！」
ベンケイ「拙僧が速やかにこの者のそっ首刎ねてくれまする！」
スエクニ「ひいいいっ！お助けを！命ばかりはお助け下されええ！」
ベンケイ「あっさりと馬脚を現しおって。貴様、虚言を貫く根性もないのか」
スエクニ「嘘のつけぬ可愛い男と言って頂きたい」
ベンケイ「ええい奇怪至極な白粉武者め！お祓い込みで処刑してくれる！」
ヘイザ「それはならぬ」
スエクニ「そ、そうじゃ。ならぬぞ～ピカ丸君」
ベンケイ「軍監どのには聞いておらぬわ」
ヘイザ「それがしもクロウ殿に申しておる。郎党は控えておられよ」
ベンケイ「チッ！」
ヘイザ「いかに武人の風上にも風下にも置けぬヌメヌメした臭いたつ汚物とて鎌倉殿の命なくして処理いや処刑する事まかりなりませぬ」
クロウ「左様なこと、いちいちお前に言われずとも分かっておる」
スエクニ「も、もうご両人。身共の事で喧嘩はやめて頂きたいですな～」
スエクニ「いやいや、さすがは日本一の武人。まこと慈悲深い！」
スエクニ「そして冷徹なる戦奉行殿も実に思慮深い！」
スエクニ「どこぞの脳筋坊主とはえらい違い～っ」
ベンケイ「おのれはああああああああああああ！」
クロウ「勘違いするなよ平スエクニ」
スエクニ「へ？」
クロウ「お前の寿命が鎌倉到着まで伸びただけだ」
クロウ「兄上はもとより全ての坂東武者は、断じてお前の生存を認めはしない。つまり」
ヘイザ「我等は凱旋その方は死出の旅路。それだけのことである」
「さ、て、と・・・」
「ひったてーーーーーーーーーーーい！」
スエクニ「ひいいいいいいいいいいいいいいいい！」

〇赤い花のある草原
　　続く