鷹と孔雀、或いは犬と豚のはなし。

山本律磨

平家滅亡(脚本)

鷹と孔雀、或いは犬と豚のはなし。

山本律磨

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〇動物
WATASHI「どうもでございます」
WATASHI「令和の子泣き爺、やまもとでございます」
WATASHI「夢見るぞっ」
WATASHI「私、先日ちょっと足のばしてこういうとこ行ってみたんですよ」
WATASHI「かつてはナガトと呼ばれていた町です」
WATASHI「で、こういうとこも行ってみたんです」
WATASHI「本州と九州ってこんなに近いんですね」
WATASHI「もう私、感動して思わず・・・」
WATASHI「夢見るぞっ」
WATASHI「じゃあ海の方もっとよく見てみましょうか」
WATASHI「で、ですね。距離が近いという事は当然」
WATASHI「こうなっとるわけですいね」
WATASHI「渦、すごいっすね~(物書きにあるまじき低語彙力)」
WATASHI「さて・・・」
WATASHI「51本目の作品は、またもご当地ネタ」
WATASHI「この海峡で800年程昔に繰り広げられた、とある戦いにまつわる物語」
WATASHI「・・・の、後日談」
WATASHI「・・・の、パロディ」
WATASHI「つまりは嘘八百」
WATASHI「・・・800年後だけに」
WATASHI「・・・」
WATASHI「夢見るぞっ」

〇朝日
  祇園精舎の鐘の声
  諸行無常の響きあり
  沙羅双樹の花の色
  盛者必衰の理をあらはす
琵琶法師「聖地の鐘の音は常に生まれて消えてゆく」
琵琶法師「ツバキの花はみな白く枯れてしまった」
琵琶法師「美しく咲き乱れようとも、それは瞬く間の出来事」
琵琶法師「人の世もまた同じ。春の夜の短き夢」
琵琶法師「栄華を誇りし者もやがては滅びゆく」
琵琶法師「何もかも、風の前の塵」

〇黒
  鷹と孔雀、或いは犬と豚のはなし。

〇海辺
琵琶法師「正しきが勝ち禍々しきは敗れた」
琵琶法師「勇猛果敢な坂東武者が、おごり高ぶる白粉武者を打ち破った」
琵琶法師「哀れ平家一門は海の藻屑」
琵琶法師「これよりこの国に新たな時代が到来する」
民「新しい時代?何だそりゃ?」
琵琶法師「土の匂いも潮の匂いも知らぬ殿上人の時代が終わり、山野を駆け海を渡る武人(もののふ)が国を動かす時代だ」
民「で、そのモノノフがウチらの暮らしをどう良くしてくれんのさ?」
琵琶法師「おお・・・聞こえる」
琵琶法師「馬の蹄が近づいて来る」
琵琶法師「かの馬蹄はクロウ判官義経様と正義の軍団」
琵琶法師「源氏の御曹司にして、平家討伐の立役者に率いられし武士達の凱旋が聞こえて来る!」

〇空
  クロウ判官源義経
クロウ「・・・!」
ヘイザ「・・・」
  その目付、梶原ヘイザ景時
ベンケイ「・・・」
  その腹心、武蔵坊ベンケイ
クロウ「進め進め!新たなる時代に!」
クロウ「さあ、都に凱旋だーーーーーーッ!」

〇戦線のテント
  坂東武者が棟梁、偉大なる我が主君源頼朝様にご報告仕る
  此度怨敵平家一門を打ち滅ぼしたるは真にめでたき事であります
ヘイザ「されど・・・」
  今だ草薙剣は海中深く沈みて見つからず、三種の神器奪還は果たされておりませぬ
ヘイザ「にもかかわらず!」
  申し上げにくき事ながら、御舎弟義経殿の昨今の増長は目に余るものがあります
ヘイザ「そもそも・・・」
  『ヘイザ!ヘイザはここか!』
ヘイザ「・・・全く。つくづく落ち着きのない大将じゃ」
クロウ「おい!」
クロウ「陣の隅にコソコソ隠れて何を書いておる。また兄君への讒言か?」
ヘイザ「其は、この戦で見たままのことを鎌倉殿にご報告するのが務めにござりますゆえ」
クロウ「ふん。俺達兄弟の絆がそんな紙切れ如きで切れるものか」
ヘイザ「絆を断つなどと。妙な勘ぐりはやめて頂きたい」
ヘイザ「ご用件は?」
クロウ「建礼門院に会う。どこに隠した?」
ヘイザ「隠してなどおりませぬ。今は夜更け。面会は明日になされませ」
クロウ「いつ捕虜に会うかはこのクロウが決める」
ヘイザ「されば順序が逆でございましょう」
クロウ「逆?」
ヘイザ「捕囚に面会するならまず建礼門院の前に、その兄にして平家棟梁、宗盛めに会うのが筋にございましょう」
クロウ「宗盛かあ~」
クロウ「なるほど~」
クロウ「う~む」
クロウ「男は明日でよい」
ヘイザ「御曹司!」
クロウ「チッ、戯言だよ。頭の固いヤツだ」
クロウ「はいはい。全ては明日。明るい日と書いて明日だ。それでいいだろ」
ヘイザ「全く。あなたは仮にも源家の総帥頼朝公の弟君なのです。いわば我ら坂東武者の顔」
ヘイザ「そのご自覚を持って、今少し言と動に思慮深くなられるが宜しいかと」
クロウ「・・・どういう意味だ?」
ヘイザ「蛮勇を剥き出しにするのはお控え頂きたいと申しておるのです」
クロウ「蛮勇?」
ヘイザ「率直に、蛮行と申しましょうか?」
ヘイザ「目的の為ならどんな非道な所業も厭わぬという意味です」
クロウ「貴様・・・」
クロウ「俺が建礼門院を手籠にするとでも言いたいのか!」
ベンケイ「お、御曹司!如何なされました?」
クロウ「この蝙蝠野郎の羽をむしり取ってやる!」
ヘイザ「好きにされよ。むしられた我が羽も添えて頼朝様にご報告致す」
クロウ「おのれは!」
ベンケイ「ご辛抱ですぞ御曹司。全ては鎌倉に戻られればはっきりします。源氏を勝利に導いた御曹司が正しいか。この蝙蝠が正しいか」
ヘイザ「ふん。大将も大将なら家来も家来よな」
ベンケイ「なんだと貴様あああああああああああ!」
ベンケイ「御曹司のことはいい。だが俺の事は・・・」
ベンケイ「ああ、いや、逆だ!すまん!いや、違う!すまんとは御曹司に対して!いや、すまんではない、いや、ありませぬ!」
クロウ「もうよい武蔵坊。下がっておれ」
ベンケイ「し、失礼をば」
クロウ「・・・チッ」
クロウ「ところで景時よ」
クロウ「平家の棟梁宗盛は兄君から『スエクニ』の名を与えられている」
ベンケイ「そうだ『スク〇ニ』だ」
クロウ「スエクニ!」
クロウ「お前その間違い、絶対ダメなヤツだからな」
ベンケイ「重ね重ね申し訳ありません」
クロウ「いいか。奴は国の末路、スエクニだ」
クロウ「二度と大臣殿(おおいとの)宗盛卿などと名乗らせるでないぞ」
ヘイザ「承知」

〇沖合
  『平家一門が敵ながら天晴れ勇猛果敢に死んでいった中、ただ一人無様にも生き恥を晒している卑怯未練な白粉武者』

〇海辺
琵琶法師「平家の棟梁平宗盛」
琵琶法師「亡き相国清盛公が三男」
琵琶法師「しかれども、その人徳長兄重盛に及ばず。その知謀四男知盛に及ばず。その武勇五男重衡に及ばず」
琵琶法師「かくの如き噂、今、こうして源氏の捕囚となっている事実が証拠なり」
民「何でも源平争乱のきっかけをつくったのも宗盛の傲慢が原因だとか」
民「弓ひとつひいた事もないゆえ戦さ場のことも分らず、そのくせ知将知盛の作戦をことごとく退けたとも」
民「それって優れた弟に対する醜い嫉妬ねっ!」
民「いや噂によると、お武家様お公家様、全てに対する妬み嫉みとも言うわ」

〇和風
  『平宗盛。そのみすぼらしき姿。父とも母とも兄弟とも、どの縁者とも似ておらぬ』
  『世に流れし(かの噂)平家の穢れと封印される。が、それはまた別の話』
  『まず奏でまするは地に落ちし殿上人宗盛が判官義経様と対面する歌』
民「どのツラ下げて」
民「どのツラ下げて」
クロウ「どのツラ下げて現れることか」

〇赤い花のある草原
ベンケイ「さりとて宗盛も平家棟梁。最後の一太刀を御曹司に浴びせぬとも限りませぬ」
ベンケイ「くれぐれもご用心下さりませ」
クロウ「ははは。その為にお前がいるんだ。しかと俺を守ってくれよ」
ベンケイ「・・・お、御曹司」
ヘイザ「ごほん!」
ベンケイ「ち、違う!」
ヘイザ「まだ何も言っておらんが・・・」
ヘイザ「御曹司。平宗盛改めスエクニ。引っ立てて参りました」
クロウ「うむ」
クロウ「だが腰抜けとはいえ、スエクニなどと呼ばれ虚仮にされたとあれば怒りで我を忘れるかも知れん」
ヘイザ「左様。よくよく用心めされよ」
ヘイザ「滅びたる平家、その総帥をこれに!」
  大臣殿平宗盛卿改め、スエクニ
  続く

次のエピソード:大臣捕縛

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