〇教室の外
　　兄は生きたまま、死者の世界を彷徨っている・・・らしいです。いわゆる神隠し状態なのだとか
妹「私もこの目で見たけど・・・そう簡単には信じられないよね」
　　私だって信じられませんから
梓「まあ、そうだね。ピンとはこないかな。でも、私が視ているものだって似たようなものでしょ」
妹「共感覚と霊能力はまるで別物だと思うけど」
梓「他の人に見えないなら、似たようなものだよ」
妹「そんなものかなぁ」
梓「そんなもの──」
梓「あった！」
　　話の途中で、梓がゴミの山から壊れた板片を掴みあげました
梓「前に見たときより、砕けてる。あのあと、砕いたのか」
妹「全部見つけたら、パズルかぁ。苦手なんだよなぁ」
梓「はいはい。愚痴ってないで手を動かす。時間がないんだから」
妹「はーい」
　　私達は板片探しに戻ります
　　兄が行方不明のさなか、何でゴミ漁りなんてしてるかと言えば、これがその兄を連れ戻せるかも知れない方法だからです
　　神隠しの伝承では戻ってくる人もいますから、兄もそのうち戻ってくると思ったのですが

〇レトロ喫茶
妹「退去日を過ぎたら、帰って来れない？」
霊能力者「細かいとこは違うけど、まあ結論だけ言っちゃうとね」
　　霊能者の子の話では、今はまだ兄とマンションの縁が繋がってるから、こちらへ帰れる可能性があるそうです
　　しかし、退去日を過ぎたら、マンションとの縁も切れる。要は帰り道がなくなって、こちらに戻ってこれないらしいです
妹「お兄ちゃんが・・・戻ってこない・・・？　あのお兄ちゃんが？」
妹「・・・ダメだ！　全然、イメージできない！　なんか普通に戻ってきそうだもん」
霊能力者「何者なの、あなたのお兄さん・・・」

〇教室の外
　　理由はスピリチュアルでよくわかりませんが、兄が戻ってこれるリミットは退去日まで
　　ほっといても帰ってきそうな気がしますが、残り僅かな時間、こちらとしてもやることはやっておこうと思いました
　　このゴミ漁りはそのためなんです
梓「細かい破片はもう無理だね。出来たとしても時間がかかりすぎる」
妹「まあ、ある程度の形が出来たし、良いでしょ。さあ、次はパズルの時間だ」
　　私達は板片を組み合わせて、元の形に戻してゆきます
　　歪んだドアノブ、奥行きの狂った扉、次第に元の形になる絵
　　これはかつて学校全体を恐怖に貶めた（誇大し過ぎ）、トリックアートでした
梓「やっぱり形だけ直しても何も起こりそうにないか」
妹「やっぱり予定通りいこうか」
梓「了解」
　　その日、私達は人知れず、トリックアートを削るのでした