6月2日 生霊 ①覚悟 #シナリオ(脚本)
〇中規模マンション
〇マンションの共用廊下
兄がいなくなった家は、あまりにも空虚でした
兄が家にいないというのは、初めてではありません。兄が大学進学で一人暮らしを始めたとき、バイトで帰ってこないとき
それでも今まで、こんな気持ちを味わったことはありませんでした
きっと、認めたくないけど頭では既に理解しているから
そう、兄は・・・
兄は怪奇現象の歯止め役だったんです
妹「認めたくない。でも、認めざるを得ない」
昨日のヴェノム以降、怪奇現象が次々と襲ってくるのです
〇清潔なトイレ
トイレに見知らぬ女性が入ってたり
〇おしゃれなキッチン
台所で小豆をとぐ老人がいたり
〇汚い一人部屋
明らかに人間じゃないのが、兄の部屋で宴会開いていたり
〇マンションの共用廊下
そのたびにあの世タクシーに連れていってもらいました・・・
兄が不在の間、夜は梓の家に泊めてもらっています。が、もし夜もこの家にいたらどうなっているのでしょうか?
妹「出来ることなら退去日まで梓の家に泊めてもらいたい。梓の家族も歓迎してくれるし」
妹「けど、出来ない! 家に誰もいない状況が続くのはよくないっていうから」
事故物件を生き抜いた田中さんに教えてもらったことです
長く離れると、無意識に家に戻ろうとするらしいです。まるで夢中遊行のように、ふらふらと夢見心地のままに
それだけでも怖いですが、もしそこでエレベーターを使ってしまったら?
実際、田中さんははっと気づいた時には、開いたエレベーターの前にいたとか
なので帰らなくちゃならないのです
妹「はぁ・・・お兄ちゃん、さっさと帰ってこないかな」
玄関の前にくると、郵便受けに書類が差し込まれていました
取り出すと、窓の修理に関する書類でした。修理の立ち合いは管理人さんにお願いしたので、書類はここに入れておいたのでしょう
妹「おや?」
郵便受けには書類以外にも何か入っていました
一つはちぎられたメモ
もう一つは人形?
薄汚れた人形で、お腹に雑な切れ込みが入り、それを赤黒い糸でこれまた雑に縫ってあります。縫い目からは綿と生米がこぼれました
妹「また怪奇現象の類かな?」
妹「これは霊能者の子に処分してもらうとして、こっちのメモは何?」
『先送りの究極の結果は”死”』
妹「これは・・・何?」
後で調べたら、マイケル・ボルダックというカナダのコーチの言葉でした
問題に対して、何ら行動を起こさないことを非難する言葉。兄が残したのでしょうか?
妹「あの感性が死んでるお兄ちゃんが?」
まさかとは思いますが・・・もしそうだとするなら
〇中規模マンション
兄はこの事故物件の解決に乗り出したのではないでしょうか?
その結果、異世界に取り込まれた
あのトリックアートは異世界とこちらの世界と繋がっていて、偶然、こちらに戻ってこれたから?
〇マンションの共用廊下
妹「ないね。全くありえない」
けれど──
『先送りの究極の結果は”死”』
その言葉が胸に刺さります
妹「いつまでも目を背けていられないことくらい、わかってるよ」
私は空っぽの家から、エレベーターへと視線を向けるのでした