6月4日 霊視 #シナリオ(脚本)
〇女性の部屋
その子はとても大事にされていました
部屋を飾り立てるお人形ではなく、一人暮らしの寂しさを埋めてくれる小さな同居人として大切にされていました
大切にされた人形には魂が宿ると言いますが、さすがにそんなことは滅多にありません
この子も普通の人形として、大切にされる日々を過ごすだけでした。それは魂がなくとも、きっと幸せだったでしょう
しかし、そんな日は突然、終わりを告げました
あの火事です。ある夜、目が覚めたら、部屋の外から黒煙が迫ってきた
喉を焼く熱、逃げ道を奪う恐怖。持ち主は、ただ空気を求めて、ベランダへとかけてゆきました
持ち主はそのまま、戻ってきませんでした
それからどれだけの時間が過ぎたでしょうか
ある日、ベッドの下で人形は目を覚ましました。それが魂を得たと知るには、さほど時間はかかりませんでした
外の世界を徘徊する、異形の存在達が剥き出しで持つものが、自分の中に宿るものと同じだと分かったから
ここはそういうものが留まりやすい環境のようでした
外の世界は怖いです。異形は魂を喰らいあい、足りないものを埋めようとします
足りないものがなんなのか、そんなの解らないまま
人間達は、自分を恐れます。外に出されたら、異形に襲われるため、ベッドの下に隠れるしかありませんでした
そんな不安に怯える日々で、一人の女の子に会いました
彼女は、最初は他の人達と同じように人形を怖がりました
でも、それでも、仲良くなろうとお菓子をくれたりしました
人形は魂を持ってからはじめて心が安らぐのを感じました。自分を守ってくれる人なんだと感じたのでしょう
それから、人形は彼女になつきました
最期の最期に、この世に居場所のない人形は、幸せな時間を得たのでした
〇レトロ喫茶
妹「私も、なんだかんだで大切に思ってたよぉ」
妹「でも、私が余計なことしたから、あの子はあの世にいっちゃったんだ」
霊能力者「違うよ。あの子はやっとあるべき場所に行けたんだよ」
妹「あるべき場所?」
霊能力者「魂は生き物に宿るのが普通なの。生きて、死ぬ。それがこの世の理」
霊能力者「なのに、人形に宿るとか、魂だけとか、そんな理から外れたのは、この世にいても幸せになれないんだよ」
霊能力者「生きた人間が、いきなりあの世にいって幸せになれると思う? なれないでしょ」
霊能力者「その人形はやっと自分のいるべき場所にいけたんだよ。だから、笑顔でバイバイできたの」
妹「そうなんだ」
霊能力者「だから、あなたもさよなら言って、すっぱり切り離す。わかった?」
妹「うん・・・。まだちょっと複雑だけど、そう考えてみるよ」
霊能力者「なら、よし」
妹「・・・それと、もう一つ聞きたいんだけど」
霊能力者「なに?」
妹「私が向こうの世界を見た時、お兄ちゃんがそこにいたの」