6月1日 ヴェノム #シナリオ(脚本)
〇中規模マンション
〇高層マンションの一室
帰宅したら、窓ガラスが割れていました
妹「泥棒・・・じゃないよね」
床には壊れたドローンが転がっていました
これが原因でしょう。しかし、私の意識はそんなものに向いてません
ガラスの破片を踏み抜いた、血だらけの手形。四つが等間隔に、床から壁、天井を伝って、部屋の奥へと進んでいます
蜥蜴の足跡を彷彿とさせるそれが、人のものではあるわけありません
割れた窓からの冷たい風が、血と獣臭さをそっと運んできました
妹「お兄ちゃんがいないときに限って」
昨日から兄の姿は見えません。スマホは家に置きっぱなしで、靴もありました
トリックアートの中に閉じ込められたのかも知れませんが、あの兄ならそのうち自力で出てくるでしょう
妹「今はこの状況を切り抜けることに集中しないと」
妹「まあ侵入者はヴェノムだよね。外にはあれしかいないもの」
ヴェノムと名付けたそれは、見かけた霊を無差別に襲う狂暴な動物霊。実際、外にいたお化けを襲うところを何度もみました
妹「それで助かったこともあるけど、今は私が獲物にされかねないからね。気づかれる前に早く逃げ」
妹「ちゃ、ダメだ。あの子がまだ中だ」
あの子・・・あの人形です
怖いのが近づいたら一人でベッドの下に隠れるし、私に守ってもらおうとする、頼りない子です
でも理由はどうあれ、何度も私を助けてくれました。愛着が湧いてしまったんです。可愛くなってしまったんです
妹(幸い、手形は私の部屋と反対側に向かってる。今ならまだ間に合う)
私は極力、音を立てないように、慎重に自分の部屋へ向かいました
〇部屋の前
ドアノブを回すとき、開くとき、廊下を進むとき、早く逃げたい気持ちを抑えて、ゆっくりと動いて、僅かの物音もさせず
同時に耳をすまして、自分以外の物音に気を付けて
やってることは秘密諜報員ですが、気分は猛獣の檻に入れられた小動物です
〇女性の部屋
妹「とうちゃーく」
妹(自分の部屋へこっそり忍び込む。なんとも類まれな経験をしてしまった)
部屋を探すまでもなく、ベッドの下に手を入れれば、すぐに人形は見つかりました
妹「後は脱出すれば──」
安堵も束の間。扉の向こうから酷い悪臭が流れてきました
血と獣臭さ。むせるほどの酸っぱい臭い
音もなく、気配もなく、でも臭いはどんどんと強くなる
今までと桁外れの恐怖――お化けというより、野生生物のそれ――に体が強張って動かない
命の危機なのに、死を意識すればするほど、身体はいうことをきかない
妹(ダメ・・・ 誰か助け――!)
そのとき、人形が大きく震え・・・
妹「あ、スマホだった」
前にもあったな、こんなの
その出来事は私を少しだけ恐怖から解放してくれました。私は急ぎ、スマホで電話を掛けます
妹(お願い、間に合って!)
扉が開く音がに振り向けば、見たこともない異形の姿がありました
それはヤモリのような体躯で、四つの腕を足代わりに、壁に張り付いていた
一個体ではなく、黒ずんだ何人もの手が重なり合って出来た体。表面は力なく垂れた指が獣毛のように騒めいている
顔面は横にぱっくりと裂け、内に鋭い牙が、唾液を垂らして光っていた
それはぐっと身を屈める。獣が獲物へと跳躍する姿を想起させる
妹(やられる──)
その瞬間、車の急ブレーキの音が響き渡り──
「こりゃあ、随分と肥えた動物霊じゃねぇの。あのババア、骨の折れる仕事押し付けやがって」
背後から声がしました
「やれやれ、この程度でお疲れですか? 年はとりたくないものですね」
また別の声がして、二人の黒装束の死神が私の前へでました。これがあの世タクシー
妹(なんかバディっぽい! ていうか、セリフがタクシーの運転手じゃない)
死神コス「下がってな、嬢ちゃん。ここは俺達に任せて」
死神コス「先に行きますよ、先輩!」
死神コス「あ、こら! 勝手に突っ走んじゃねぇ!」
タクシーVSヴェノムの激しい戦いまでは、私には見えませんでした
部屋の外で戦ってましたから
激しい戦いを思わせる音が数分響いて
収まった頃に車の出る音がしました。無事に終わったみたいです
〇部屋の前
激しい戦闘音こそしましたが、どの部屋も荒れた様子はありません。ただ、あの獣臭さはもうどこにもしませんでした
妹「これがあの世タクシー」
あのヴェノムすら打ち破る力を持つ死神
妹「これなら、もしかしたら・・・」
〇エレベーターの中
全部、解決できるかもしれない