5月31日 トリックアート ④処分 #シナリオ(脚本)
〇ハイテクな学校
〇学校の廊下
妹「最近は学校も静かになったね」
梓「あんなことがあったら、誰も関わりたがらないでしょ」
妹「それならいいんだけどねぇ」
あれほど騒がしかったトリックアートの噂ですが、最近ではすっかりと下火になってます
被害者がでたことが、恐怖心と好奇心を拮抗させ、良くも悪くも皆に冷静さを取り戻させたのです
おかげで今は七不思議の一つになることで、熱狂は収まりそうでした
妹「でも、なんか物分かりが良すぎる気がするんだよね」
私はそう言って窓の外を見ました
〇空
この頃は放課後でも、太陽は高いです
日中こそ異様な暑さに苦しめられていますが、それでも放課後はまだ空気の冷たさを心地よく感じられる日が続いていました
〇学校の廊下
梓「それに、あんなのもう処分してるんじゃない?」
妹「それならいいけど」
しかし、怪奇現象というのは、常に私の期待を裏切ることに全力を傾けるのが好きみたいです
窓から美術室を眺めると、数人の生徒が戸口に引っかかるほど大きな板を運んでいました
妹「あれ、まさか、トリックアート?!」
あの大きな板。一つしか思い当たりません
梓「どこ?」
妹「美術室!」
梓「なんでまだあるのよ」
妹「きっと怖くて出来なかったんだ」
心霊写真や不幸の手紙すら、処分に困るものです。あんな得体の知れないものなら、なおさらでしょう
妹(お兄ちゃんなら、普通に燃やしそうだけど)
梓「止めないと!」
妹「待って! 跡をつけよう」
妹「私も見たい・・・! ううん、確かめたいの。扉の向こうを」
梓「なんでそんなこと」
妹「前に見た時、扉の向こうが、私の家・・・事故物件の一室に見えたんだ。もし、そうなら、あれは・・・」
梓は苦々しく頭を振ってから、自分の口元を手で押さえました
梓「私、コントロールは悪いけど、球威には自信があるんだ」
妹「うん?」
梓「あれだけ大きければ、どこか当たるでしょ」
梓はペーパーウェイトを手にして笑いました
妹(壊せる人がここにもいたかー)
〇教室の外
生徒達の動きを見れば、どこへ向かうのかは簡単に予測がつきました
校舎裏です。普段から人通りがなく、壁側にトリックアートを置けば、廊下の窓からは死角になって気づかれません
私達は少し遠巻きに、木の陰に隠れて様子を伺いました
生徒達はちょろちょろと場所を移して確認していましたが、今のところ何も起きません
妹「何か視える?」
梓「何も。普通の絵だね」
共感覚で感情を色として視る梓でも、何も視えないようです
梓「初めて見た時も、普通の絵だったんだ。案外、何かを見たって言うのも、そんな気がしただけじゃないかな」
妹「・・・本当に普通の絵だったの?」
梓「そう・・・だけど?」
私の心臓の鼓動は痛むほど強く打ち付け、背筋がすっと冷たくなる感じがしました
妹「梓が視えるのは感情だよね」
梓「そうだよ」
妹「物に向けられた感情も視えるんだよね」
梓「そう・・・だけど」
そこで彼女は左手で右腕を強く握りしめました。おかしさに気付いたのでしょう
妹「あれだけの噂があったトリックアートに、なんで感情の色がつかないの?」
叫び声に驚き、すぐにトリックアートへ目を向けます
妹「扉が開いてる」
〇壁
扉の向こうは、赤いコンクリートに塞がれた部屋。そこに佇む影が、こちらを伺っていました
〇教室の外
決して油断していたわけではありません。でも、それに直面したら、身体は震えてまともに動きませんでした
妹(タ・・・タクシーを!)
そう考えても、手が震えて、スマホを持つことすら出来ませんでした
扉の向こうの影は
じわり、じわりと、こちらに近づいてきて
( ´∀`)「どこだ、ここは?」
兄がでてきました
妹「え?」
( ´∀`)「家の中にいたはずなのに、なんで外に?」
妹(確かに家と繋がってるかもと思ったけど! 向こうから何か来てるかもと思ったけど!)
梓「うわぁぁぁぁぁ!!」
隣で絶叫。振りむけば、大きく振りかぶった梓の姿
あとはまるでスローモーションのように
梓の投げたモノが兄の胴体にぶち当たるのを見ました
( ´∀`)「ぐはぁっ!」
兄はそのままよろめいて、再びトリックアートの中へ消えて──
扉は閉まり──
トリックアート全体に大きなヒビが走って、地面に倒れたのでした
梓「や、やった?」
妹「あー、うん・・・」
梓「あの扉の向こう、物凄い量の黒いモヤが渦巻いてた。まさか、あんなのが近くにあったなんて」
妹(その中にお兄ちゃん入っちゃったよ)
まあ出てきた場所だから大丈夫でしょう
〇中規模マンション
しかし、その日、兄は家に帰ってきませんでした