5月30日 危機感(脚本)
〇中規模マンション
〇高級マンションの一室
編集長「彼が事故物件に住んで、もうすぐ三ヶ月か」
編集長「もうすぐロンダリングバイトの契約は満了だ」
大家「これで怪奇現象は収まりを見せるんじゃなかったのか?」
管理人は積もり積もった怒りと焦りを、編集長へぶつけた
それも当然か。今まで決まった部屋でしか起こらなかった怪奇現象が、マンション全体に広がっている
雇った側にとっては、改悪もいいところだ
編集長「落ち着きたまえ」
大家「これが落ち着いていられるか」
大家「ここだけの話、今はまだ公になっていないが、住人の一人と連絡が取れなくなった」
編集長「行方不明なのか?」
大家「分からん。住人と同じ会社に勤める知り合いから、ここ数日、無断欠勤して問題になっていると聞いたんだ」
編集長「警察には届けたのか?」
大家「今のところはそこまでいってない。だが、このまま連絡が取れないなら、やむなしといったところだ」
大家「もし、これが公になれば、怪奇現象と紐付ける輩は・・・」
編集長「出るだろうな。原因を探ろうともしない。今までのイメージの積み重ねが、事件と怪奇現象を繋げてしまうんだ」
大家「どうしてこうなったんだ。まるで、お前の目論見と正反対だ」
編集長「そうだな。奴が何事もなく過ごせば、怪異は静まる算段だった」
編集長「本人は気づいてないが、あいつには生まれ持った霊能力と捉えようのない性格、死んでいる感性という武器がある」
大家「霊能力はともかく、他二つは何の意味が・・・」
編集長「怪奇現象があっても騒がないこと、むしろそれが怪奇現象だと気づかないことは大事なのだ」
編集長「ただあるがままに受け入れて、そのまま対処する。それはなにより怪奇現象キラーとなるのだ」
編集長「実際、彼が妹を迎え入れるという想定外こそあったが、それでも順調にロンダリングは進んだ・・・と思われた」
大家「だが、怪奇現象は事故物件のみならず、マンション全体に広がっているじゃないか」
編集長「そうだ、彼がのらりくらりと生き残れば、悪い噂もただの噂となってたち消えて、霊の集まる土壌が崩れさる」
編集長「そうしてロンダリングは完了するはずだったんだ」
大家「今はその想定から大きくはずれた事態だ。何がどうなってるんだ?」
編集長「・・・私が思う以上に何か・・・、根が深い何かがあるのかもしれない」
大家「なあ、これで二人が退去したらどうなるんだ?」
大家「次の入居者がくるまで怪奇現象はおさまるのか? それとも抑えがなくなるのか?」
編集長「それは・・・」
編集長が言い淀んでいると、部屋の外からエレベーターの音が聞こえた
動くはずのないエレベーターの到着音。こんな部屋まで響くはずのないその音に、二人は心底凍り付いた
震える管理人をそのままに、編集長は一人、急いで外に出た
〇マンションの共用廊下
エレベーターの扉は開いていた。まるで彼を待っているように
編集長「誘っているのか?」
編集長は震える手をぐっと握りしめ、懐から手帳とペンをとりだす
紙にさっと書きなぐり、それを破って兄の部屋の郵便受けに入れた
編集長「頼んだぞ」
編集長はそう言い残し、エレベーターの中に向かった
〇エレベーターの中
そこで待っていたのは、入居時に会った白いワンピースの女と、見たことのない少女
女性「何が知りたいの?」
恍惚とした薄い微笑を向ける彼女の問いに、編集長は痛いほど打ち付ける心臓を抑えながら、こう切り返した
編集長「君達は一体、何者なんだ?」