5月27日 おとりかくれんぼ ②逃走 #シナリオ(脚本)
〇中規模マンション
〇散らかった部屋
夜、男が目覚めるとあたりは真っ暗だった。雲の間から僅かに差し込む月あかりだけが、心細い頼りだった
おっさん「停電か?」
それにしては静かすぎた。まだ寝ている時間なのなのかと、男は時計を見るためスマホを探る
おっさん「確か、このあたりに置いたはず」
手で探るも、触れるのは空き缶やゴミばかり。この暗さでは探し当てるのは困難だ
諦めて、もうひと眠りでもしようとしたときだった
ザッ・・・、ザッ・・・ ザッ!
誰かの足音が隣を通り抜けていった
おっさん(泥棒・・・?!)
男に心臓が張り裂けそうなほど緊張が走る
おっさん(泥棒と鉢合わせて刃傷沙汰なんて洒落にならねぇ)
暗闇で気づかれずに済んだのだろう。足音は家の中をグルグルと徘徊するにとどまる
おっさん(なんでここなんだよ。もっといい家行けよ)
男は物陰から足音の主の動向を探る。が、足音は止まることなく、一定の速度で歩き続けた
おっさん(金目のものなんてねぇよ。さっさと出てけ)
不意に月明りが差し込み、泥棒の姿があらわになると、男は戦慄した
それは小さい子供だった。古びた着物、薄汚く汚れた肌、手には光るもの
包丁だとわかるのに時間はかからなかった
子供は包丁を、昔話の山姥を想起させる逆手持ちで、振りかぶっては、力強く振り下ろすを繰り返した
おっさん(殺される!)
男は音をたてないように、子供から距離をとりつつ、玄関へ向かった
〇部屋の前
住み慣れた家だ。目を瞑ってもたどり着ける。落ちているものに気を付けながら、ゆっくり、ゆっくり進んでゆくと
カタッ・・・!
固い、箱かなにかに手がぶつかった
「置いてかないで!」
おっさん「なっ?!」
突如、そこから若い女の叫び声がした
「お願い、ここを開けて! 助けて! あいつに殺される!」
悲痛な叫びが静寂を破り、家中に響きわたる
おっさん「な、なんなんだよ、くそ!」
〇玄関内
男はなりふり構わず玄関へ急いだ。扉に鍵はかかっておらず、勢いよく開いて──
〇マンションの共用廊下
閉じる時、子供が箱をメッタ刺しにしてるのが垣間見えた。箱からは血飛沫があがっていた
「助けて! 助けて! 置いてかないで!」
扉を閉じても、声にならない叫びが続いた
〇マンションの非常階段
男は非常階段へ転がり込むと、中よりはわずかに明るいことに安堵して息をつく
おっさん「なんなんだ、今のは?!」
心もとない明るさに、それでも暗闇よりかはまだ安心できる・・・はずだった
カン、カン・・・カン!
ずるりと、巨大な影が男を覆った。非常階段の外を、大人程の大きさの影が、ヤモリのような動きで通り抜けたのだ
ただそれは、無数の手が絡み、重なって形を成す何かだった
おっさん「ば、化け物・・・!」
男は自らの口を塞ぎ、声をかみ殺した
声を抑えても、荒い鼻息はかき消せない
「そんなでは捕まってしまうわ」
混沌とした闇の向こうから、清流のような透き通る声がした
おっさん「な、何者だ?」
姿を現したのは、白いワンピースを着た若く美しい女と、にこやかな女の子だった。姿かたちは普通の人間だった
しかし、その恍惚とした微笑は、あまりにこの場に似つかわしくなかった
おっさん「な、なんだお前ら!」
女性「私達に構ってていいの? 鬼が追ってくるわよ」
おっさん「鬼? さっきのアレか?」
女の子「違うよ。かくれんぼの鬼! 自分で始めたじゃん」
おっさん「かくれんぼ? ・・・まさか!」
兄妹に嫌がらせのつもりでやったおとりかくれんぼ
本当に何かあるなんて思ってない。ただここなら何か起きるんじゃないかと、そうしたら面白いんじゃないか。その程度のことだった
おっさん「いや、なんで俺なんだ? 人形は郵便受けにいれたのに」
女の子「あそこのお兄さんとかくれんぼは嫌なんだって」
おっさん「嫌ってなんだよ?!」
女の子「だから、頑張って逃げてね。そうしないと・・・」
女の子はどこからか、汚い布束を引きずり出した。土気色で汚れた、いくつも縫い合わされた
それはいくつもの死体だった
おっさん「うわぁぁぁぁぁ!!」
〇中規模マンション
その日、はじめて事故物件以外での行方不明者がでた
もっとも住民たちがそれに気づくのは、もっと後のことである