5月23日 兄の一日(脚本)
〇中規模マンション
〇汚い一人部屋
「助けて・・・! お願い、ここから出して!」
窓から眩しい陽ざしと、どこからか助けを求める声がして目が覚める。時計は七時前、まだ起きるには早い時間だ
机に向かいながら眠ってしまったせいか、節々が痛む。ぐっと背伸びをすると、ボキボキと音が鳴った
「助けて! ここから出して、お願い!」
さっきから助けを求める小さな声がしっきり無しにする。テレビがつけっぱなしだったか
電源タップごとコンセントから抜く。声はまだするが、そのうち切れるだろう
( ´∀`)「さあ、今日も一日頑張るか」
〇おしゃれなキッチン
部屋を出て、まずは朝食をとることにした。朝夕の食事は妹が作っている。当番制ではない。俺が作ると不味いとのことだ
妹の作ったのはご飯とみそ汁、作り置きのおかず。これに自作のスムージーを加えて、朝食とした
自作のスムージーだけ、不味かった
おまけに、どこで入ったか黒く長い髪の毛が大量に混ざっていた。誰の毛だよ
これは衛生的に良くないと理由をつけ、クソ不味いスムージーは流しに捨てた
〇白いバスルーム
食後は身だしなみを整える。洗面所で顔を洗い、歯を磨き、髪をセットする。鏡にちらちらと見知らぬ人影が映る
何度、後ろを向いても誰もいない。この鏡には、テレビ機能でもついているのだろうか?
〇汚い一人部屋
自室に戻り、クローゼットを開けると、また髪の毛が生えていた。ムカついたので引っ張ったら抜けた
( ´∀`)「カツラ用に売れないかな?」
〇古い大学
時計の針が九時を過ぎる頃、大学へ向かった。講義はしっかりと受ける。それが俺の流儀だ
〇講義室
高い金を払っているのだ。しっかりと元を取らなければならない
「代返頼む!」
( ´∀`)「毎度!」
稼ぎにもなるので決して手は抜けない
〇コンビニの店内
学業が終わったら、バイトの時間だ。学費と生活費を稼ぐため、入れているバイトは多い
今日は客の少ないコンビニでのバイトだ。コンビニのバイトは楽なイメージを持たれやすいが、決してそんなことはない
うちの店は壊れたヘルメットを被ったままの客や、店内をうろうろするだけの客など、不審な客が後を絶たない
万引きをしないかと常に目を光らせる必要があるのだ
外で大きな衝突音がして、ガラスがガタガタと響く。外を見れば黒煙が空高く立ちのぼっていた
( ´∀`)「また事故か」
月に二三件は事故があるのだ。決して見通しの悪い道路でもないのにな
〇汚い一人部屋
バイトを終え、家に帰ると、疲れがどっと押し寄せてベッドに倒れこみたくなる。それが出来たらどれほど心地よいだろう
だが、いけない。俺はテレビをつけ、適当にニュースを流し――朝、コンセントを抜いたような気がしたが気のせいか――椅子に座る
( ´∀`)「ようやく小説を書ける」
俺の夢は小説家だ。両親には反対され、弟妹には無理だと言われたが、諦めるつもりはなかった
大学は自力で入学し、仕送りも生活費しか貰ってない。奨学金を貰えなかったので、大学の費用はバイトで返済している
夢のためとはいえ、バイト三昧の日々。このままでは小説を書く時間すら取れないと思う日もあった
だが、天は俺の才能を見放さなかった
このロンダリングバイトだ。家に住み、住み心地を文章にするだけで金になる、いいバイトを紹介して貰えた
ご近所とも大してトラブルもなく、平穏に暮らせている。こんなので家賃なし、むしろ金を貰っていいのかと思うほど好待遇だ
おかげで小説を書く時間をかなり取れるようになった
・・・だが、もうすぐこのバイトも終わってしまう。本当に残念だ。どうにかして延長できないだろうか?
「お兄ちゃーん!」
おっと、また妹が何か騒いでいる
やれやれ、俺はただ落ち着いて小説を書きたいだけなのにな
窓の外を散歩をする人を眺めながら、重い腰を上げるのだった