〇ハイテクな学校

〇美術室
　　トリックアートの扉の奥には、何かがいる

〇学校の廊下
生徒「友達が扉から覗いている怪物を見たって」
生徒「先輩は怪物と目があったって」
　　件のトリックアートはにわかに色めき立つブームになっていました
　　教室でも、廊下でも、見たか聞いたか、あることないこと大騒ぎ。噂に尾ひれどころか背びれ胸びれ、いっそ足でも生えてそうな勢い
　　どこまでが本当でどこから作り話か、とっくにわからなくなっていました
　　ちなみにトリックアートは先生に隠されたみたいです。事実か噂かは不明です。先生は答えてくれませんから
　　これ以上、騒ぎが大きくなるを危惧してのことでしょうが・・・
普通科の女生徒「見つかった？」
生徒「ここにはないみたい。やっぱり職員室とか？」
生徒「それはないって。気味悪がってる先生もいるんだから」
普通科の女生徒「じゃあ、次は旧校舎を重点的に探してみよう」
　　隠したのは悪手でした。トリックアートをただの噂から、本当かもと思わせる噂へ変えてしまったのですから
梓「よくやるよ」
妹「ダメと言われたら、余計見たくなるのさ。人間だもの」
梓「たかが噂話なのに」
　　本来なら恐怖が心理的ハードルになるのですが、タブーによって強められた好奇心はそれを上回ってしまったのです
　　特に扉が開くところを見ていなかった生徒の抱く熱は強く燃え上がっているようです
　　その熱気のとばっちりを受けた子もいます
梓「気分悪い」
妹「保健室行く？」
梓「学校の中はどこいっても同じだと思う」
妹「そんなにひどいの？」
梓「明暗入り交じった極彩色が渦巻いてる」
妹「めちゃくちゃ酔いそう」
　　感情を色として視てしまう共感覚を持つ梓には、噂に荒れる学校は生き辛いみたいでした

〇ハイテクな学校
　　しかし、この騒ぎは思いのほか早く、終結することになります。わりと最悪な形で、ですが・・・

〇中規模マンション

〇女性の部屋
妹「学校から電話？」
　　電話の内容は、夜の学校で侵入者が捕まったとのこと
　　侵入者といってもトリックアートのではなく、物見遊山の生徒数名ですが
　　以前の美術室で起きた盗難事件のこともあり、足跡についても学校側は警戒をしていたそうです
　　そんなことはつゆ知らず、トリックアートを探しに夜の学校へ侵入した生徒が、御用となったのだとか
　　これを受け、学校は『出歩いてる生徒はいねがー』となまはげのよう全員に連絡を取ってきたのです
妹「うちはわざわざ見に行かなくても、連日怪奇現象は起こってるんです」
妹「そういうことじゃない？」
　　本題は別のところにありました
　　一人、行方不明・・・だというのです
　　一緒に行くはずだった生徒が見つかっていないのだとか
　　先に学校に行ってたはずなのに、どこにも見当たらない。何か知らないか？　とのこと
妹「先生が怖くて隠れてるだけじゃ」

〇ハイテクな学校
　　行方不明の生徒は、翌朝、美術室の戸棚の中に隠れているところを、無事発見されました
　　錯乱した彼女は、こんなことを言っていたそうです
　　トリックアートから怪物がでてきた
　　初めて見たのに、私達のよく知ってる、強い既視感のあるのっぺらぼう
　　私達の声で喋る四つ足の人間だった──