5月20日 トリックアート ①人食い絵画 #シナリオ(脚本)
〇ハイテクな学校
〇美術室
放課後、美術室へ入ると、妙な騒ぎが起きてました
いつもなら絵の具の匂いに迎えられるところが、今日は部員たちのざわつきが真っ先に来たのです
妹「何の騒ぎ?」
普通科の女生徒「準備室から変な絵が見つかったんだって」
梓「変?」
私達は一度顔を見合わせてから、部員たちが取り囲むそれをのぞき込みました
妹「なるほど、これは変だね」
それは学校の開き戸より少し大きいサイズのベニヤに描かれた、やけにバランスの崩れた扉の絵でした
遠近法をこれでもかと間違えたような絵です。特に目立つのは引き延ばされたドアノブ。こんなの握れません
ただ絵そのもののは非常に優れていました。かなり写実的で、普通に描いていればかなりリアルになっていたことでしょう
妹「扉を歪ませることで、何かを表現してる?」
普通科の女生徒「これは七不思議の一つ、人食い絵画だね」
私が頭を悩ませていると、美術部の友人がニヤリと笑い、そう切り出しました
妹「この前の絵の具泥棒お化けよりは強そう」
〇美術室
「これはね、まだ学校が建つ前。ずっと昔のことなんだけどね」
「この学校の初代校長は、とても有名な画家で、たくさんの弟子を育てていたの」
「その弟子の中に、天才的な技術を持った画家がいたの。それこそ誰より出世して、後世にも名を残すだろうと噂されていたわ」
「でも、いつまでたっても彼の作品が評価を得ることはなかった」
「彼の描く絵は時代に合わなかったの。まあ流行から外れていたんだね」
「それで彼は、貧乏で、誰にも認められない鬱屈とした日々を過ごしていたわ」
「けれど、彼に転機が訪れた。彼を高く評価するパトロンが現れたの!」
「彼はパトロンの協力を得て、徐々に評価をあげていったわ。生活にも困らなくなり、画業に専念できるようにもなった」
「これでめでたしめでたし・・・と、誰もが思った」
「ある日、彼は大作を完成させるため、一人でアトリエにこもったんだけど」
「それから一ヶ月、二ヶ月、彼はいつまで経っても、出てこない」
「始めのうちはかなりの大作だろうと期待をしたけど、いくらなんでも長すぎる」
「四ヶ月、五ヶ月・・・半年を過ぎた時、パトロンと友人たちは耐えかねて、アトリエの扉を壊して中に入った」
「すると、そこには一枚の大きな絵画とメモが残されているだけだった」
「メモには、彼の遺書ともとれる苦痛の声が溢れていた」
「彼はパトロンに、時代に迎合した絵を描かされていた。それなら売れるから」
「確かにおかげでいくら金も名声も得られた。けどね、望まぬ絵を描き続けることは彼には苦痛でしかなかった」
「だから、彼は最後だけは自身の望む絵を描き切った」
「その絵は扉の向こうに、逆さまの世界が広がっていた」
「向こうの世界には、いなくなった彼そっくりの人物が笑って佇んでいたという」
〇美術室
普通科の女生徒「その絵は、師匠である初代校長が受け取り、美術学校創立時に美術室に飾ったの」
普通科の女生徒「だけどね、悩みを持つ生徒がその絵の前に立つと・・・」
普通科の女生徒「絵に描かれた彼が、おいでおいでしてるんだって」
妹「それがこれ・・・なの?」
妹「学校創立前の絵画にしては新しすぎない?」
普通科の女生徒「やっぱ偽物かー」
そんなことを談笑していました。まだこのときは、この絵の恐ろしさに気付けてませんから
扉一つ隔てた恐怖を、私はたくさん知っていたというのに・・・