5月14日 拡大 #シナリオ(脚本)
〇中規模マンション
得体の知れない彼らは、徘徊を始めました
今までのように、薄暗く安心する縄張りに留まることをやめ、眩しく麗しい外の世界へと這いだしたのです
事故物件――真偽不明の噂で飾られた、しかし実際に命を脅かすマンションの一角
今まではそこだけに留まっていた不吉が、マンションの他のフロアにも姿を見せたのです
〇マンションの共用廊下
――夜、寝ていると、廊下を通り過ぎる足音がする
一人や二人じゃない、何人も、何人も。なのに帰ってくる足音は一人もいない
〇おしゃれなキッチン
――換気扇が急に動かなくなる
故障かと外すと、そこにはびっしりと髪の毛が絡まっていた
〇高級マンションの一室
――深夜、窓の外で子供の遊ぶ声がする
不自然な時間に、不自然な声。そして、そこは五階だった
〇中規模マンション
事故物件の被害が他の階に広がってました
梓「モヤが広がってるんだ・・・」
梓もまた異変に気付いていました
彼女は感情を色で視る、共感覚の持ち主です。彼女はマンションに纏わりつく、不吉な感情を黒いモヤとして視認していました
妹「こういうことは、今までになかったの?」
梓「いつもは大きくなっても、すぐに萎んでたから。ここまで大きくなったのは・・・」
梓「そうだ、一度だけあった」
妹「いつ? そのときはどうなったの?」
梓「入居者がずっと生き残ってるって噂になってたときだよ」
妹「田中さんだ」
事故物件、唯一の生還者の田中さん。強力な守護霊に守られて、事なきを得たと聞いてます
梓「あのときも、今みたいに黒いモヤがマンション全体に広がっていったんだ。あの時のモヤはまるで目のようだったよ」
梓はそう言って、ぶるっと身震いします
梓「たくさんの目がきょろきょろと忙しなく動いて、やがて一つが腐った果実のように地面へ落ちるんだ。そうすると大抵、悲鳴がする」
妹「まるで、お化けの実だね」
梓「実というより、膿かな。モヤはただただ大きくなり続けていて、熟し過ぎた果実が裂けるように、不吉が漏れ出した感じだから」
妹「それが育ちきったら、どうなるの?」
梓「分からない。あのときは破裂する前に、萎んでいったから。退去したからか、次の入居者に何かあったのか知らないけど」
編集長「田中さんの退去後、すぐに入居者は入ったよ。数日ともたなかったけどね」
妹「編集長?」
編集長「記録では、その入居者の不幸と共に、異変は霧散したとある」
編集長「すまない、話が話だけについ口を挟んでしまった」
梓「誰?」
妹「私が事故物件に住むことになった張本人?」
編集長「私は君の兄以外は済まないように忠告したぞ」
妹「お兄ちゃんがそんなの理解するわけないじゃないですか!」
編集長「そ、それは・・・否定できないが」
梓(何その、嫌な信頼・・・)
編集長「と、ともかく、マンションの異変は、広がり続ける」
編集長「事故物件は、更に執拗に我々の命を脅かしてくるということだ」
妹「・・・私達の退去まであと一か月。逃げ切れるかな?」
梓「わからない。以前より早いペースで膨らんでるから」
私には、ただのマンションに見えるけど、不穏は確実に育っていました
編集長「一つ、朗報がある」
編集長「エレベーターの女優。やっと彼女と連絡が取れた」
妹「生きて・・・たんですか?」
編集長「あぁ。当時の状況を知る数少ない人物だ」
編集長「彼女から事故物件の真実を暴きだし、生き残りの一手にするんだ」
退去まであと一か月──
生き残りを賭けた戦いは、正念場を迎えるのでした