5月11日 成功報酬(脚本)
〇団地
ずっと追われてました
目的地へ向かって、よく知る団地の道を駆け抜けてました。行ったことのない道を、とにかく走り続けてました
息は切れて胸は苦しく、汗に濡れて冷たくなった服が、火照った体にへばりつきます
それでも足を止めないのは、あれが迫ってくるのが分かるから
私の後を追い続け、木の影、建物の中から、様子をうかがう道化師。白く塗りたくった顔に、赤く染まった髪、黄色いツナギ
なんかどこかで見たような道化師が、姿を見せることなく追いかけてました
逃げそこねたら、二度と戻れない
言い知れぬ焦燥と不安。こんな思いは、大事なテストの日に寝坊して、間に合うか合わないかの瀬戸際を味わったあの日以来でしょう
この恐怖から助かる方法は、二つだけあります
一つはゴールまで逃げ切ること。もし逃げ切れたら、どんな願いでも叶うので、こっちがベター
もう一つは、誰かにこの夢のバトンを渡すこと。私は解放されますが、悪夢は渡した相手に移ります
ただし、なんでも望みが叶うチャンスも譲ることになります。せっかくのチャンスというのに、むざむざ人に渡していいものか
妹「・・・ん?」
妹「って、私、バトンなんて受け取ってないんだけど?!」
と、いうか、私は今、夢の中のようです。どうりで言ってることも、やってることもなんかチグハグだと思った
でも、この夢には心当たりがありました
最近、学校で噂される、夢の叶う夢
追ってくる何かから逃げ切れば、夢が叶う
捕まってしまったら、永遠に夢の中に囚われる
噂が頭にこびりついて、こんな夢を見てしまったのでしょうか?
妹(違うな・・・)
踏み込むアスファルトの固さ、風を切る感触、呼吸の苦しさや胸やわき腹の痛み、汗のにおいや冷たさに至るまで
視界が灰色なことを覗けば、全てがリアルを訴えてました
自力で目覚める方法がない以上――まさか、自分の首を切らないと目覚めないとかないよね?──
夢を終えるには逃げ切るしかありません
妹「ここは夢を夢と理解しているんだから、とんでもアクションで逃げきろう」
――と、思いましたが無理でした
〇車内
妹「キーがない?!」
手近にあった車に乗り込みましたが、キーがありません。車は諦め、外に出ることにしました
車が激しく揺れました。窓に人影が張り付いているのが見えます
妹(追いつかれた!)
それの吐息でガラスが白く曇るのが、だんだんとこちらへ近づいてきます
妹(逃げ切れない!)
ガチャリ・・・
車のドアを開ける音がして──
〇女性の部屋
妹「はっ!」
そこで目が覚めました
夢の中と同じように、汗びっしょりで呼吸は乱れ、胸が苦しかったです
妹「危ないところだった」
腕は震えが止まりません。あとちょっと目覚めるのが遅かったらどうなっていたか
妹「車に入ったのは致命的だったな」
妹「でも今度は行ける気がする!」
妹「失敗を糧に、次の成功へ活かす。そうすることで夢を叶えることが──」
コツン、と何かが頭に当たりました
人形が落ちてきたのでした
妹「あー、うん、大丈夫。冗談だから。もうあんな夢みないようにするから」
〇ハイテクな学校
学校では、まだ夢の噂が絶えません
報酬に釣られてなのでしょうか
それとも既に夢の手の内なのでしょうか