4月19日 美脚 #シナリオ(脚本)
〇中規模マンション
〇エレベーターの中
入居者「もう一度、会いたい人がいるんだ」
入居者「彼女にもう一度会いたくて、私はここに入居したんだ」
女性「とても情熱的ね」
入居者「彼女と出会ったのは数か月前、このマンションの前だ」
入居者「その日は残業と電車の遅延が重なり、帰宅時間は既に午前を回っていた」
入居者「タクシーも捕まらず、歩いて帰っていたから、あれは深夜二時くらいか」
〇マンションのエントランス
誰もいない道を、自分の足音しか聞こえない静寂の中、心細く歩いていると
・・・コツ、コツ、コツ
マンションの中から、足音が聞こえてきた
入居者(こんな時間に誰が出かけるんだ?)
人気のない寂しさもあって、私は相手に気付かれないよう、横目で足音の方を見た
まず階段を降りる長い美脚が見えた。黒い短めのタイトスカートからすらりと伸びる、白く細い見事な美脚だ
雑音のない夜という神秘性と、その白さの魔性は、きっと私以外の誰でも魅了しただろう
当然、その先の姿にも期待した。どれほどの美人が拝めるのかと思った
コツ、コツ・・・コツ!
次第に明らかになるその姿に、私は思わず目が離せなくなっていた
それは人ではなかった──
下半身は女性だったが、腰から上はイソギンチャクのように、得体の知れない触手がぞわぞわと揺れていた
あの触手はなんだ? 臓物? 腕? 血管? どれも違う。あれは長い長い芋虫だ。ウジかもしれない
それはくちゃくちゃと音を立て、直立して肉を食らっていた。いや、肉を食っているなら、逆立ちしてるのか
こんなものを見たら、普通は悲鳴をあげて逃げ惑いそうだが、意外なもので声は出なかったし、逃げ出しもしなかった
コツ、コツ、コツ!
吐き気がするほど甘ったるい、化粧の匂いが漂うほど、近くに寄ってきても私は動かずにいた
見惚れていたんだ。あんなにもおどろどろしい姿なのに、その美脚で歩く姿はモデルのように凛として、とても見事だった
〇エレベーターの中
入居者「それからというもの、同じ時間にこの場所を通ったが、二度と会うことはなかった」
入居者「せめてもう一度・・・それだけ願いなのに、いつまで経っても叶わない。手に届きそうなのに届かない」
入居者「もどかしさは、燃え盛る執念になって──」
入居者「だから、自分で作ってみたんだ」
入居者「絵描きは絵を、造形師はフィギュアを作るだろう? それと同じさ」
入居者「けど、私はそういうものに疎くて、とにかく苦労したよ」
入居者「遺体は手に入らない、手に入ってもすぐ腐る。始めのうちは遺体を切りすぎたり、長く直立するウジもなかった」
入居者「四五十体も作る頃には、なんとか形だけは様になったが・・・作るうちに審美眼も養われたんだろうね。まるで満足できなかった」
入居者「技術だけじゃダメなんだ。やはり、材料から拘らないと」
女性「それで?」
入居者「君は人間じゃないんだろ?」
女性「だとしたら?」
入居者「君なら、最高の作品になるだろう」
〇高層マンションの一室
妹「お兄ちゃん、引っ越し業者さんが、下の部屋に入っていくの見たんだけど。まさか、入居者?」
( ´∀`)「いや、それがだな」
( ´∀`)「なんか、入居予定の人は、エレベーターの前で死んでたらしい」
〇マンションの共用廊下
エレベーターの前に上半身だけの姿で突っ伏して倒れてたそうだ。腹からはやたらと長いウジが伸びて、内臓を食ってたとか
しかもウジは動かないはずのエレベーターの扉に挟まれて、千切れてたんだと
〇高層マンションの一室
( ´∀`)「おまけに、引っ越しの荷物の中から下半身だけの遺体が何体もみつかったとか」
妹「まさか・・・」
( ´∀`)「あぁ、そうだ」
( ´∀`)「まさかBさんの記録を塗り替える奴が現れるとは」
妹「何言ってんの、この人」
妹「人が死んでるのに、不謹慎なこと言わないでよ」
( ´∀`)「いや、でも会ったこともない奴だし」
妹「それでも不謹慎なことは言わないの」
( ´∀`)「へいへい」
この一件が、事故物件の呪いを紐解く鍵であることを、この時の私はまだ知る由もありませんでした