4月18日 小箱(脚本)
〇中規模マンション
〇部屋の前
「開けて! ここから出して!」
兄の部屋の前を通りかかった時、中から、微かに女性の叫びが聞こえました
妹「お兄ちゃんってば、また動画つけっぱなしで出かけたな」
もしこれがネット動画なら、ギガの消費がとんでもないことになります。兄の部屋はあまり入りたくありませんが仕方なし
〇汚い一人部屋
部屋の扉を開けて、中を確認します。室内は服や紙が散らかっており、ここから目視で探すのはウォーリー並の高難度です
妹「目視は無理ゲーだ。と、なると音で探すしかないか」
微かに聞こえる声を頼りに場所を探ります
「ここよ、助けて」
妹「こっちかな?」
「違う、そっちじゃない!」
妹「今、私の声に応えた・・・? ただの偶然だよね?」
毎日のように怪奇現象に見舞われているせいで、こんな些細な偶然ですら、背筋にゾッと冷たいものが走ります
妹(そう、偶然に決まってる)
「お願い、早く! 助けて!」
「ここなの! ここから出して!」
「お願いだから、ここから出して!」
私が呆然としている間も、叫び声は悲痛さを増しながら続いていました。喉が枯れるほどに何度も何度も、ずっと・・・
妹(いくらなんでも長すぎない?)
閉じ込められて叫ぶシーンなんて、ほんの二三回叫んで、別のシーンへ移るものでしょう。けど、この叫び声はずっと続いています
「早く! あいつが戻ってきたら、あなたも同じ目にあうかもしれない!」
あいつ? 兄の顔が頭に浮かびます
妹「いやいや、それはない。動画のセリフに何を考えてるの」
「違う、私はここにいる!」
それは明らかに私の言葉に反応してました
目を背けていた事実が、明確に対峙してきて、たまらず胸の奥から喉にかけて強い嘔吐感が迫ります
妹(いる・・・)
「わたしはここよ。早く、ここから出して」
哀切な響きのこもった懇願は、声の主の姿を幻視するほど身に詰まされます。とても嘘なんかに聞こえません
妹「まさかお兄ちゃんがやっちゃった? いや、でもまさか」
「お願いだから、ここから出して・・・」
消えかかった蝋燭のように声は揺らぎ、力なくかすれてゆきます
妹「ダメだ。迷ってる場合じゃない。とにかく助けないと」
耳を澄まして、声のするところを探ると、数冊のグラビアの乱雑に重なっているところから聞こえてくるのに気づきます
妹「まさか、グラビアに閉じ込められた?!」
「違う。その下・・・」
妹「この下?」
グラビアをどかすと、赤を基調に可愛らしい花模様をあしらった千代紙の貼り付けられた小箱が出てきました
兄の持ち物で、こんなものは見たことありません
「あぁ、やっと出られる・・・。お願い、早く開けて」
箱の中から聞こえる声は、希望と安堵に満ちていました。長い長い苦しみから解放される、その瞬間に手を伸ばしているようで
妹「待ってて、今開け──」
私は箱の蓋に手をかけると
「違うよ」
何かが私のスカートの裾を引っ張りました
それは以前にも同じことがありました。乗ってはいけないエレベーターに誘い込まれたときと同じです
それに気づいた瞬間、脳裏に命の危機を告げる警鐘が鳴り響いていることに気付きます
「お願い、開けて。ここから出して」
妹(なんで、こんな小さな箱の中から声がしてるの?)
「あぁ、離れないで! 私をここから出して」
妹(どこから私を見てるの?)
「開けて! ここから出して! お願い! 助けて!」
妹(中には、何人いるの?)
私は何も聞こえないふりをして、箱の上にグラビアを乗せたら、すぐに部屋をでます
〇部屋の前
それからも、兄の部屋の前を通りかかると、時折、痛切な叫びが漏れてきます
「お願い、ここから出して!」
今でも不意に思います。あれを開けた方が良かったのではないかと
それほどまでに、その叫びは痛切に助けを求めていたから
「ここから出してー!」
兄が出てこないと真っ当なホラーのようでいいですね!
もしかしたら、あの声は兄の声かな?
間違っても妹に助けを求めないかww