アナタを追って・・・(脚本)
〇明るいリビング
優奈「理花と面会は出来ますか?」
理花の母親「出来ることは出来るけど、きっと話しをするのは無理なんじゃないかしら・・・ 何故なら、それをずっと唱えてる状態だから・・・」
理花の母親「私達が病室に来てもね、ずっと敬太くんの話しをしたり、俳句みたいなのをずっと唱えたりする毎日で、正直私も参ってるの」
〇線路沿いの道
優奈「まさか理花が、精神科に入院してたなんて・・・」
裕介「事態は最悪だな・・・」
優奈「ねぇ、明日理花に会いに行かない? 「チヲビザクラ」のことも話したいし・・・」
裕介「そうだな・・・」
〇講義室
翌朝
田辺「緒方くん、安堂さん。 ちょっといいかしら?」
田辺が二人を呼び出した。
〇学校の廊下
田辺「佐藤さんのことなんだけど、彼女大学を辞めることになったわ。 彼女、精神科に入院してるんだって」
優奈「知ってます。 実は昨日、佐藤さんの家に行って来たんです。ずっと、大学にも来てなかったので・・・」
田辺「そうだったの・・・ 彼女のご両親から今朝連絡があってね、回復の見込みは厳しいからって、あちらから退学を申し出たの」
田辺「あなた達、彼女には会いに行った?」
裕介「実は今日面会に行くんです。 理花のお母さんには、話しをするのは難しいって言われたんですけど、色々と話したいことがあって」
田辺「そう。 じゃあ、私も時期を見て佐藤さんに会いに行ってみるわ」
優奈「よろしくお願いします」
〇田舎の総合病院
夕方、二人は市内から少し離れた病院を訪れた。
そこは静かでのどかな場所だった。
〇田舎の病院の病室
優奈「理花、久しぶりだね。 元気だった?」
「我が身こそ 何れ儚く散ぬるなら 末夢見して 共に朽ちろう・・・」
優奈「理花? 何を言ってるの?」
裕介「俺たちが分かるか?」
「・・・敬太? 会いに来てくれたの? 嬉しい・・・ ねぇ、また二人で桜を見に行きましょう? 「チヲビザクラを」・・・」
優奈「・・・理花」
するとそこに医者がやって来た。
精神科の医者「佐藤さん、お薬の時間ですよ。 あら?今日はお友達がお見舞いに来てくれたんですね」
「先生・・・ 友達じゃなくて、彼氏です。 私、早くここを退院して敬太と桜を見に行くんです。羨ましいでしょ?」
精神科の医者「えぇ、羨ましいわ。 だから、早く薬を飲んでここを退院しないとね。 あなた達、少し席を外してもらえないかしら・・・」
〇田舎の病院の廊下
優奈「あの、先生・・・ 理花は、元に戻るんでしょうか?」
精神科の医者「はっきり申し上げて、今の状態では無理です。日常会話も出来ず、食事もろくに取れてません」
精神科の医者「彼女の体、見たでしょ? 今は点滴でしか栄養を摂ることが出来ないんですよ」
優奈「そんなっ!?」
精神科の医者「彼女が「敬太」と言ってる方は来られないんですか?その方が来れば、多少は良くなるかもしれませんが・・・」
裕介「彼は、もうここにはいません・・・」
精神科の医者「いない? それはどういうことですか?」
裕介「敬太は・・・死んだんです。 脳内出血で・・・」
精神科の医者「そういうことでしたか・・・」
〇電車の中
二人は病院を後にし、電車に乗る。
優奈「理花、今までの理花とは違って別人だったね・・・」
裕介「あぁ、まるで違う人を見てる様だった」
優奈「理花が呟いてた俳句みたいなのって、あれ和歌だよね?もしかして、宗政が詠った和歌なのかな?」
裕介「そうかもしんないな・・・」
優奈「けど、何で理花がそんな和歌知ってるんだろう?」
裕介「ひょっとして、「チヲビザクラ」のせいなのか?」
優奈「裕介、明日もう一度橋本さんの所に行かない?和歌のことについて、何か知ってるかもしれない」
裕介「そうだな。 そうしよう」
〇講義室
翌日
田辺「緒方くん、安堂さん。 佐藤さんの様子はどうだった?」
裕介「彼女、すごく痩せ細ってました。 食事も取れなくて、今は点滴で栄養を摂ってます」
田辺「そんなに酷いの? 佐藤さん・・・」
優奈「はい。 会話もろくに出来なくて、私達のことも忘れてるみたいでした」
田辺「まぁ、橘くんのことがあったから、相当ショックは大きかったわよね」
裕介「はい。 ずっと、敬太の名前呼んでました。 それから、また「チヲビザクラ」を見に行こうって・・・」
田辺「「チヲビザクラ?」 それは・・・何なの?」
裕介「実は俺たち、花見をしに行ったんです。 けど、何処も花見客でいっぱいで俺たちは花見を断念しようとしたんです」
優奈「その時、敬太が別の花見場所を見つけてくれて、そこで花見をすることになったんですが、その場所がとても異様な光景で・・・」
田辺「異様な・・・光景って?」
裕介「そこには「チヲビザクラ」と言う真っ赤に染まった桜並木があったんです」
裕介「その桜は垂れ桜の仲間で、まるで血が滴ってる様な感じがしました」
優奈「私達は敬太の機嫌を損ねない様、そこで花見をすることにしたんですが、敬太はその桜を見て、気味が悪いと言ったんです」
裕介「おまけに、飲んだ空き缶やゴミをその場に投げ捨てたりして」
優奈「早めに花見を終わらせたくて、折角だからと思い、理花と敬太の写真をスマホで撮ろうとしたんです。 けど、ピントが合わなくて」
裕介「だから、俺の一眼レフカメラで二人を撮ったんです。 ですが、その現像した写真は敬太だけが何故か真っ赤に染まっていて・・・」
優奈「それから、敬太は謎の頭痛を引き起こし、あんなことに・・・」
田辺「だから、あなた達は桜に詳しい人を探してたわけね・・・」
裕介「・・・はい」
田辺「それで、橋本さんからは何か聞けたの? その「チヲビザクラ」のこと・・・」
裕介「はい。ですが、橋本さんは「チヲビザクラ」の歴史しか知りませんでした」
裕介「誰が植えたのかも、誰が「チヲビザクラ」と名付けたのかも・・・ ただ、近くにある廃れた神社の先祖が植えた説もあるって」
田辺「廃れた神社?」
裕介「はい。 「朱血神社」っていう神社が、桜並木を通る時にあるんです」
裕介「ですが、その神社の神主も謎の死を遂げ誰も桜のことを知る人はいないそうです」
田辺「そういうことだったの・・・」
裕介「俺たちが、あんな所で花見なんかしなければ、敬太や理花はあんなことにならずにすんだのに・・・ 俺たちのせいで・・・」
田辺「そんな、自分たちを責めてはダメよ! あなた達は知らなかったんでしょ? 「チヲビザクラ」のことを」
裕介「・・・はい」
田辺「きっと、佐藤さんなら大丈夫。 あなた達が信じなくてどうするの? 彼女はまた元気になるわ。 今はそれを願うしかない」
優奈「そうですね・・・」
〇古めかしい和室
それから二人は橋本の家を訪れ、理花の容態を橋本に話した。
橋本「そうですか・・・ それは大変でしたね」
裕介「はい。 それで一つ、橋本さんに聞きたいことがあるんです」
橋本「聞きたいこと? 何です?」
裕介「実は理花が病室で、俳句の様なものを呟いてたんです。 「我が身こそ 何れ儚く散るのなら 末夢見して共に朽ちろう」って」
裕介「この俳句に何か心当たりはありませんか?」
橋本「それは、もしかすると宗政が詠った和歌かもしれません。 宗政はそれを、今で言う遺書の様に書き残したんでしょう」
裕介「やはりそうでしたか・・・」
〇川に架かる橋
優奈「これから一体どうなるんだろう・・・ もう、どうしていいか分からないよ。 理花だって、これからどうなるか分からないし」
優奈は泣いていた。
裕介「不安なのは俺も一緒だよ。 けど、今は理花が元気になることだけを願おう」
〇男の子の一人部屋
数日が経った夜、優奈から電話があった。
「優奈?どした?」
「裕介、大変なの! 理花が・・・ 病院から居なくなったって!」
裕介「何だって!?」
「さっき、理花のお母さんから電話があったの。 理花がそっちに来てないかって・・・ どうしよう・・・」
裕介「分かった。 俺たちも探そう。 優奈、落ち着くんだ」
〇黒背景
だが、理花の居場所は数時間探しても分からなかった。
優奈「理花、何処に行ったんだろう・・・ 思い当たる場所は何処も探したのに・・・」
裕介「だとしたら、あそこしかない・・・ 優奈、「チヲビザクラ」の所に行くぞ」
〇桜並木
久しぶりに訪れた「チヲビザクラ」はすっかり葉桜に変わっていた。
優奈「裕介! あそこに倒れてるの・・・理花じゃない?」
裕介「間違いない・・・ 理花だ・・・ 急ごう!」
駆けつけると、理花は手首から血を流していた。
「理花・・・嘘だよね・・・?」
「ねぇ、嘘だと言ってよぉ・・・!!」
優奈はその場で泣き崩れた。