チヲビザクラ

りをか

絶望と希望(脚本)

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〇桜並木
「理花!死ぬなんてあんまりだよ! 理花・・・ お願いだから、目を覚ましてぇ!」
裕介「優奈っ! 落ち着け! まだ息がある。 今すぐ救急車を呼ぶんだ!」

〇病院の廊下
  理花は救急車で搬送され、すぐに処置が行われた。
優奈「裕介、理花大丈夫だよね? ちゃんと、生きててくれるよね?」
裕介「大丈夫。 理花はちゃんと生きてるよ」
  するとそこに、医者が現れた。
医者「佐藤さんのお知り合いですか?」
優奈「はい。 先生、理花の容態はどんなですか?」
医者「発見が早かったこともあり、命には別状ありませんよ」
医者「ただ・・・」
裕介「ただ・・・?」
医者「彼女、相当リストカットをされてるようですね。 彼女の手首、ご覧になりました?」
裕介「リストカットですか?」
医者「はい。 彼女、何かに追い詰められてたんですか? 所持品の中に、精神科の診察券が入ってたのですが・・・」
裕介「実は彼女、今精神科に入院してるんです」
医者「そうでしたか・・・」
医者「でしたら、こちらから彼女の入院先に連絡をしておきましょう」
優奈「先生、理花と面会は出来ますか?」
医者「薬で眠っていますので、面会は明日がよろしいかと思いますよ。 では、失礼」
裕介「ありがとうございました」
優奈「とりあえず、一命は取り留めてよかったね。 私、理花のお母さんに連絡してくる。 きっと心配してるはずだから・・・」
裕介「あぁ、その方がいいな・・・」
「すみません。 佐藤理花さんのお知り合いですか?」
裕介「はい。 失礼ですが、どちら様ですか?」
刑事「私、県警の飯沼と言います。 佐藤さんの件で、お聞きしたいことがありまして・・・」
  飯沼は、警察手帳を見せた。
裕介「聞きたいこと・・・ですか?」
刑事「はい。 佐藤さん、亡くなった橘敬太さんの恋人だったんですよね?」
裕介「はい。 けど、何でそのことを刑事さんが知ってるんですか?」
刑事「佐藤さんのご両親から電話がありまして、そのことを聞きました」
刑事「まぁ、今回の件は亡くなった恋人の後追い自殺とでも言いましょうか」
裕介「刑事さん、それ本気で言ってます?」
刑事「ん?それは一体どういう意味ですか?」
裕介「刑事さん、これは自殺とかではなくて「チヲビザクラ」の仕業なんです」
刑事「「チヲビザクラ」? それはなんですか?」
  裕介は「チヲビザクラ」のことを刑事に話した。
刑事「なるほど、そういうことでしたか。 まぁ、あなたがそう思いたくなるのも無理はありません」
刑事「ですがこの事件、今回だけじゃないんですよ。先月くらいから起きてることなんです。死因は全て脳内出血」
刑事「亡くなった人には、皆さん恋人がいた。 その恋人は、自殺未遂や自殺をして います。これは明らかに後追い自殺なんですよ」
裕介「だから、これは全て「チヲビザクラ」の仕業なんです。刑事さん、信じて下さい!」
刑事「そう言われましても、何の証拠もありませんからね。まぁ、頭には入れておきますよ。お時間取らせて頂きありがとうございました」
  飯沼はそう言い残し去って行った。

〇開けた交差点
  翌日。
  大学の帰り道、裕介と優奈は理花に会うため、再び病院を訪れることにした。
優奈「裕介、昨日からずっと元気なかったよね? 何かあったの?」
裕介「昨夜あの後刑事が来てさ、今回のこと後追い自殺だって言ったんだ」
裕介「だから俺は、この件は「チヲビザクラ」が関わってるって言って、これまでの経緯を刑事に話したんだ」
優奈「それで? 警察は何て言ったの?」
裕介「信じてはくれなかった。 しかも、この様な事件は今回だけじゃないらしいんだ」
裕介「あそこで恋人が脳内出血で亡くなり、またその相手も自殺未遂や自殺をしてるらしい」
優奈「そんなっ!? 知らなかったわ・・・」
裕介「証拠もないから信じようがないし、まぁ頭には入れとくって言われて、正直腹が立ったよ」
優奈「まぁ、警察がそう言うのも仕方ないよね」

〇病室のベッド
  病室に着くと、理花はベッドの上で仰向けになり、天井を見つめていた。
優奈「理花、体調はどう? とりあえず、無事で良かったよ」
「どうして・・・ どうして死なせてくれなかったの? 私、敬太の所に行きたかっただけなのに・・・」
優奈「理花、なに言ってるの? 死ぬなんて言っちゃダメだよ」
裕介「そうだよ。 理花、俺たちは理花が助かってホッとしてるんだ」
「私は助かりたくなかった・・・ 敬太がいない日々なんて、生きてても何も意味ないんだから!」
  理花はベッドの上で暴れ始める。
優奈「理花、落ち着いて! 傷口が広がっちゃうよ! 裕介、誰かお医者さん呼んできて!」
裕介「わっ、分かった」

〇病室の前
  応急処置を終え、医者が病室から出てくる。
優奈「あの、お騒がせしてしまってすみませんでした」
医者「佐藤さん、来週にでもかかりつけの精神科に転院させることにしました。 我々も佐藤さんには、手が負えませんでしてね・・・」
裕介「そうなんですね。 分かりました・・・」

〇線路沿いの道
優奈「結局、理花と何も話せなかったね」
裕介「あぁ、また精神科に入院だし、しばらく面会は控えた方がよさそうだな」
優奈「うん、そうだね・・・」

〇線路沿いの道
  会話を終え無言で道を歩いていると
「優奈ちゃん、祐介くん」
  一人の女性が声を掛けて来た。
優奈「あっ、理花のお母さん・・・」
  二人は驚いた。
理花の母親「久しぶりね」
理花の母親「優奈ちゃん、祐介くん。この度は理花のことで色々と面倒掛けてしまってごめんなさいね・・・」
  母親は涙ぐんだ。
優奈「そんなっ、気にしないで下さい。今日は理花さんに会いに行ってたんですか?」
理花の母親「ううん。今日は敬太くんの所に行って来たの。お線香をあげに・・・」
裕介「そうでしたか。あれから、理花さんの所には行ったりしたんですか?」
  母親は静かに首を振る。
理花の母親「いいえ。会いに行こうともしたんだけど、先生の話では今はそっとしておいた方がいいって電話で言われたの」
理花の母親「病院でも暴れたり、食事も取ってないみたいだから。二人は?あの子に会いに行ってるの?」
優奈「はい。たった今行って来たんですが、暴れて話しも出来ない状態でした」
理花の母親「そうなのね・・・」
裕介「理花さん、また前の病院に転院させるって言ってました」
理花の母親「えぇ、知ってるわ。来週には前の病院に戻るって。あなた達には、本当に迷惑掛けたわね。もう、娘には関わらなくていいから・・・」
優奈「何言ってるんですか!私達は、どんなことがあってもずっと理花の友達です。ねっ?祐介」
裕介「はい。絶対に理花さんを一人にはさせません」
理花の母親「あの子は本当に素敵な友人を持って幸せね」
理花の母親「そうだ、これ敬太くんのお母様から預かったんだけど、もしよかったら娘に渡してもらえないかしら?」
理花の母親「私は、仕事や家のことがあって中々行けそうにもないから」
裕介「分かりました」
  祐介は、母親からある物を預かることにした。
理花の母親「それじゃあ、また」
  二人は母親と別れた。

〇田舎の総合病院
  数週間後、二人は久しぶりに理花の入院先を訪れたが、理花の様子は今までと何ら変わりはなかった。

〇田舎の病院の廊下
精神科の医者「彼女、ついに治療も受け入れなくなったわ。よっぽど彼の元に行きたいみたいね」
  医師は溜め息をつきながら言った。
裕介「そんなっ、先生まで何言い出すんですかっ!諦めないで下さい!」
精神科の医者「そう言われても、もう成す術がないのよ。 こちらも、出来る限りのことはしたつもりよ」
優奈「先生、一体どうしたらいいんでしょうか・・・」
精神科の医者「何か彼女に生きる希望を与えることが、一番の薬だと私は思うわ」
裕介「生きる・・・希望か」
優奈「祐介、この間敬太のお母さんから、理花に渡す物預かったよね?あれ、今持ってる?」
裕介「あぁ、カバンに入ってるけど?」
優奈「それ、理花に渡そうよ。もしかしたら、これが理花の生きる希望になるかもしれない」
裕介「そうだな。よしっ、理花に直接渡そう」
  二人は再び理花の病室を訪れる。

〇田舎の病院の病室
「何だ・・・ まだいたの?もう帰んなよ。 てか、帰って!こんな変わり果てた私を見て二人だって辛いでしょ?」
「自分でもそう思うもん。 私にはもう、絶望しかないんだからっ!」
  理花は泣き叫びながら、布団を被った。
「そんなことないよ・・・ 理花、これ敬太のお母さんから預かってきたの。理花に渡してほしいって・・・」
「敬太が・・・私に?」
  優奈は理花にそれを渡す。
  理花は青白い手でゆっくりとそれを開いた。
「これ・・・」
  そこには、一冊のアルバムとネックレスが入っていた。
「懐かしいなぁ。敬太のやつ、いつの間にこんなに撮ってたんだろう・・・」
  理花は噛み締めながら、アルバムを捲っていく。
  そして最後のページには
  理花。
  これからもたっくさん思い出作っていこうな!
  と敬太の字で書かれていた。
  アルバムに、理花の涙がこぼれ落ちる。
「理花、そのネックレス付けてみたら?」
  祐介は理花にネックレスを付け、鏡を見せた。
「理花。すっごく似合ってる」
「これ、私が前に欲しがってたネックレス。 敬太、覚えてたんだ・・・」
  理花は涙ぐんだ。
優奈「理花、敬太はもうここには居ないけど、こうやって、理花のこと想ってたのは分かるよね?」
理花「・・・うん」
優奈「ならさ、死ぬことを考えるんじゃなくて、生きることを考えなきゃダメなんじゃないかな?」
裕介「そうだよ理花。敬太と思い出を作ることは出来ないけど、アルバムの中で敬太は生きてる」
裕介「アイツの分まで生きなきゃダメだ。 敬太は理花の死なんて望んじゃいない!」
優奈「祐介の言う通りだよ。理花、お願いだから死にたいなんて言わないでっ!」
  優奈は理花の手を優しく包み込んだ。
理花「ごめん、優奈。私、どうかしてた。二人のことも家族のことも考えないで、自暴自棄になって・・・」
理花「私、生きるよ。敬太の分までちゃんと」
  優奈は理花の顔を見上げる。
  そこには、久しぶりに見た理花の笑顔があった。
優奈「約束だよ?理花」
理花「うん。約束」
  三人の笑い声が病室に響き渡った。

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