死への誘い(脚本)
〇古めかしい和室
橋本「君たちには申し訳ないが、私の口から「チヲビザクラ」のことを語ることはない。 すまないが、帰ってもらえないだろうか?」
裕介「そんなっ、いきなり困ります! お願いです。 教えて下さい」
橋本「何度も言わせないでくれ。 ・・・・語りたくはないんだよ」
〇川に架かる橋
優奈「「チヲビザクラ」のことを語りたくないなんて、やっぱりあの桜は曰く付きの桜なのかしら」
理花「ねぇ、私たち死んじゃうの? そんなことないよね?」
敬太「んなこと、あるわけねーだろ!」
敬太「それより、裕介。 お前、これ一体何だよ?」
敬太は、自分だけが真っ赤に染まった写真を裕介に見せた。
裕介「敬太っ! お前、この写真どうしたんだよっ」
敬太「さっき、玄関のとこに落ちてたよ」
敬太「・・・お前、確か現像に失敗したって言ってたよな? 何で現像に失敗した写真をお前持ってんだよ?」
裕介「そっ、それは・・・」
敬太「まさか、これもあの桜の仕業って言いてぇのかぁ?」
敬太は裕介の胸ぐらを掴んだ。
理花「ちょっと!敬太落ち着いて!」
理花が間に入り、ケンカを止めようとする。
敬太「俺は信じねーからなっ! 桜に殺されるなんて、バカバカしい。 お前らも、ビビってんじゃねーよ!」
敬太は写真を思いっきりその場で引きちぎり、川へ投げ捨てた。
裕介「おいっ!何すんだよ」
投げ捨てられた写真は、ゆっくりと下流へ流れて行く。敬太はそのまま無言で走り去って行った。
理花「敬太、大丈夫かな・・・ あんなに怒った敬太、初めて見たよ」
優奈「今はそっとしといてあげよう。 これ以上刺激させると、もっと大変だから・・・」
裕介「あぁ、そうだな」
〇桜並木
AM 25:00
敬太は一人で、チヲビザクラの並木を訪れる。
「ふざけやがって・・・ 俺がこいつに殺されるだと? たかが桜じゃねーか。 殺れるもんなら殺ってみろよっ!」
敬太は、チヲビザクラの幹を思いっきり蹴り上げた。
〇講義室
翌日、敬太は大学に来なかった。
裕介「敬太、来なかったな・・・」
優奈「仕方ないよ・・・ 昨日の今日だもん。 明日は来るよ」
理花「うん、明日は来てくれるよね・・・」
〇黒背景
だが、敬太は次の日も、そのまた次の日も大学には来なかった。
〇講義室
裕介「なぁ、さすがに敬太のやつ来なさすぎじゃないか? まさか、また頭痛が悪化してたりして・・・」
優奈「うん。 私も思った。 理花、敬太から何か連絡あった?」
理花「それが、ずっと音信不通なの。 何回掛けても繋がらなくて・・・」
裕介「なぁ、今日大学終わったら、敬太の家行かないか? 何か、ものすごくイヤな予感がするんだ・・・」
優奈「うん。 そうしよう・・・」
〇二階建てアパート
夕方、三人は敬太の自宅を訪れた。
裕介「敬太っ! 大丈夫か!? いたら返事してくれ!」
だが、中から返事は一切無かった。
裕介「くそっ! 何で出ないんだよ 理花、電話繋がったか?」
理花「ダメ。 電源入ってないっぽい・・・」
優奈「こうなったら、大家さんにカギ借りて中に入るしかないんじゃない?」
裕介「そうだな・・・ そうしよう・・・」
〇散らかった部屋
カギを借りて部屋に入ったが、敬太の姿はどこにもなかった。
裕介「敬太のやつ、どこに行ったんだ。 スマホも置きっぱなしだし」
優奈「理花、敬太の行きそうな場所知らない?」
理花「そんなこと急に言われても、よく分かんないよ・・・」
理花「ねぇ、実家とかは? あり得そうじゃない?」
裕介「よしっ、今から敬太の実家に行こう」
〇一軒家
三人はアパートを離れ、敬太の実家を訪れる。
「はい、どちら様ですか?」
裕介「夜分遅くにすみません。 僕、橘敬太君の友人で緒方と言いますが、敬太君いらっしゃいますでしょうか?」
「敬太?敬太なら、ここには来てませんよ? 何かあったんですか?」
裕介「いえっ、何でもないんです。 分かりました。 ありがとうございます」
〇テーブル席
優奈「実家にも帰ってないなんて、ほんとどこ行っちゃったんだろ・・・」
理花は優奈の隣で泣いていた。
優奈「理花、大丈夫だから・・・ 敬太、無事に帰って来るよ。 信じて待とう?」
理花「・・・うん」
〇講義室
翌朝
田辺「緒方くんたち、ちょっといいかしら?」
田辺が、真っ青な顔で三人を呼び出した。
〇応接室
田辺「ごめんなさいね。 急に呼び出したりして・・・」
裕介「いえ、それよりどうしたんですか?」
田辺は震えていた。
裕介「先生?一体どうしたんですか?」
「あなた達、最近橘くんと会ったりしたかしら?」
裕介「敬太!? 先生、敬太に何かあったんですか?」
裕介「実は、俺たち敬太を探してたんです。 ずっと大学にも顔出さないし、音信不通だし。だから、敬太の実家を訪れたんです」
裕介「けど、実家にも帰ってなくて・・・」
「あなた達、落ち着いて聞いてちょうだい・・・」
「橘くん、亡くなったらしいわよ・・・ 「チヲビザクラ」っていう桜の木の下で・・・」