4月16日 鏡(脚本)
〇ハイテクな学校
〇学校の廊下
放課後、私達は美術室へ向かって、廊下を歩いているときのことでした。突然、被服室からガラスの割れる音が響きました
「大変、姿見が割れてるよ!」
私達を含め、近くにいた生徒達は教室を覗くと、中では姿見が割れて、破片が散らばっていました
妹「何か当たったのかな?」
梓「それにしては、割れ方が均等すぎない?」
梓の言う通り、鏡は蜘蛛の巣状でなく、全体的にヒビがいって割れています
間もなく、先生が来て、その場にいた私達から事情を聞いてまわると、さりげなく片づけを言いつけるのでした
〇教室
妹「なにこれ?」
割れた鏡を片付けていると、破片の裏にたくさんの傷が見えました
軍手で大き目の破片を掴み、裏面を確認すると、文字が彫ってありました
妹「何か彫ってある」
梓「本当だ」
他の破片と組み合わせると、何か文章であることはわかりました
ただそれはアルファベットだけど、ローマ字や英語ではありません
妹「何語?」
梓「ちょっと待って。調べてみる」
梓は軍手を外し、スマホに鏡の裏の文章を打ち込みます
見慣れない単語に苦戦してか、何度も文字とにらめっこを繰り返してました
梓「これ、イタリア語だ。内容は──」
梓「なにこれ、凄くエ・・・情熱的に思いの丈を綴ってる」
妹(エロいんだ)
妹「この姿見って、寄贈品だったよね。元々の持ち主へ向けての言葉かな」
梓「そりゃそうでしょ。学校にあんなメッセージ送ってどうするの」
妹「それをいうなら、鏡の裏にメッセージを入れても、誰も気づかないよ」
梓「それはほら、叶わぬ恋だったとか?」
妹「そういう場合は、エロいのじゃなく、奥ゆかしいメッセージにするんじゃない?」
梓「まあ、そうだね」
妹「しかも、なんで鏡? 裏面に書いたら、イメージ的に反対になって──」
そこまで言ったところで、何か触れてはいけないものに触れた気がした
妹(あのメッセージは、本当に好意だったの?)
梓をちらりと見れば、彼女も苦い顔をしていました
妹「黒いモヤとか見えたりは?」
梓「何色も見えなかったよ。文字や絵は感情が残りやすいけど、それでもよほど強い感情でなければ、時間と共に薄まってゆくから」
妹「そうなんだ」
梓「まあ感情が残ってくれてたら、もう少し読みやすかったかもだけど」
妹「読みにくい?」
梓「なに? 変なこと言った?」
妹「いや、黒地に対して、削ったところは銀色だから、読みにくいことないでしょ?」
梓「銀色? 黒地に黒文字じゃ・・・」
強い感情でなければ残らない。逆に言えば、相当強い感情なら、時間が経っても残っているということ
妹「さっさと片づけよう」
梓「そうしよう」
私達は顔を見合わせ、それからはもう何も喋らず、一心不乱に全ての破片を片づけました
これはもう、知るべきことではないのだから