事故物件サバイブ ~心霊現象総スルーな兄が最強すぎる、致死率150%呪いのロンダリング・バイト~

資源三世

4月10日 桜の樹の下 #シナリオ(脚本)

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〇中規模マンション

〇マンションのエントランス
梓(やっぱり変なのは最上階の方だけ。エントランスは、むしろ清々しさまである)
女性「おはよう」
梓「お、おはようございます」
女性「お友達を待ってるの?」
梓「あ、はい」
梓(ビックリしたぁ。急に声をかけるんだもの)
梓(ここの人かな。こんな綺麗な人、今まで見かけたことないけど)
  その人は、とてもクリアで濁りのない、純氷を太陽に透かして見た時のような、美しさがあった
女性「桜がとても綺麗ね」
梓「丁度、満開になった今が見頃ですね」
女性「桜の樹の下には屍体が埋まっている」
女性「これは信じていいことなんだよ」
梓「何故って、桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか」
梓「梶井基次郎の『桜の樹の下には』ですね」
女性「嬉しいわ、知っているのね」
梓「ええ。桜をあんなにも美しく表現した作品は、私の知る限りありませんからね」
梓「生き生きと見事に咲き誇る桜と、その下に埋まる腐り崩れた屍体。その生と死の連なる美しさの表現は見事ですよね」
女性「ええ、とても美しいわ。けれど──」
女性「本当にそれだけかしら?」

〇マンションのエントランス
梓(なんだろう、色が変わった?)
女性「桜の放つ神秘的な美しさが、ただそれだけ、理由もなく存在することは怖いと思わない?」
梓「だから、そこに生と死を見て」
女性「いいえ、もっと単純。美しさに釣り合う真っ暗な理由(惨劇)を当てはめて、安心したいだけじゃないかしら」
梓「安心?」
女性「だって、花はいずれ散る、生はやがて死に至る、幸せは常に終わる可能性を秘めている」
女性「恐怖に理由をつけて不安を拭うように、美しさにも理由をつけて不安をかき消すの」
梓「とても変わった解釈ですね。美しさと恐ろしさを重ねているような」
梓(なんだろう、この人と話してると目が眩む。頭が、ぼーっとしてくる)
女性「ありがとう。でもね、これはあるいは惨劇を、重ねて視ることでしか、美しさを認められなかっただけかも知れないわ」
梓「美しさを、認められない?」
女性「美しさの裏に、陰惨たる理由がなければ、美しさに向き合えなかった」
女性「私はそのよるべない心もまた、美しいと感じるわ」
梓「それは美しさ? それとも・・・」
梓(ダメだ、立ってられない・・・)
女性「だって、それはまるで──」
「あずさー」

〇マンションのエントランス
妹「おまたせ、おまたせー」
梓「あれ?」
梓(あの人がいない?)
妹「どうしたの?」
梓「いや、なんでもないよ」
梓(夢でも見てたのかな。さっき感じた重苦しさもないし)
梓「学校いこ」

〇エレベーターの中
女性「いまはまるで桜の樹と一つとなって、どんなに頭を振っても離れてゆこうとしない」
女性「今こそ俺は、あの桜の樹の下で酒宴をひらいている村人たちと同じ権利で、花見の酒が呑のめそうな気がする」
女性「あぁ・・・本当に美しいわ」
女性「まるで、私達やあなた達のよう」

次のエピソード:4月11日 パソコン

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