〇中規模マンション

〇高層マンションの一室
　　弟はとても社交的です。兄弟、いや家族の中でも群を抜いており、見知らぬ人とも平気で話ができます。とってもフランク
　　その性格は相変わらずで、今も玄関の外から、楽しげに会話する声が聞こえています
弟「ただいまー。いやー、結構な収穫があったぜ」
妹「収穫？」
弟「もちろん、昔、ここで何があったかだよ」
弟「事故物件ってことは、昔何かあったんだろ？　だからさ、色々聞いてみたんだ」
妹「相変わらず恐れ知らずな」
　　と、いいつつも、私だって興味が無いわけではありません
　　ただ既に太古の地層のように心理的瑕疵が積み重なっていて、始まりを発掘する前に挫折したのです
妹「結論だけプリーズ」
弟「一番最初の事故は火事らしい」
妹「火事？」
弟「夜中にエレベーターの配線がショートしたかなんかで、ここら一帯まで燃えたんだってさ」
妹「それで事故物件に？」
弟「でも、死者が出たとかの話はないんだってさ」
妹「じゃあ違うね。致死率150％のくせに、死者０スタートはパンチが弱すぎるもの」
弟「でもさ、火事以降、エレベーターは動かなくなったのに、乗ったって言う人が出始めたんだって」
妹「それ、絶対に火事が事故物件に関係あるでしょ。事故物件とエレベーターは明らかに関係あるもの」
弟「だけどさ、それから犠牲者が出るまで、一年以上あったらしいんだ」
妹「じゃあ違うかな。期間が空きすぎてるもの。毎日のように心霊現象が起きるから事故物件だもの」
弟「でも姉ちゃんの部屋の壁に、煤のような黒い人型の跡が見つかったっていうし」
妹「あれかー。壁に煤のような人型の跡があるなら、焼死が関係・・・」
妹「って、やっぱりあそこには万苦死がいるの?!」
弟「万苦死？」
妹「いや、なんでもないよ」
弟「あとさ、この周辺、火事があったところ全部がなにかしら起こってるらしいぜ」
妹「あー、やっぱり」
　　事故物件はここだけじゃないのは薄々感じてました。隣や下の階も、それとなく事故ってるっぽいので
妹「それにしても随分調べたね。大変だったでしょ」
弟「いや、そんなことないよ。全部お隣さんが教えてくれたし」
妹「今なんと？」
弟「お隣さんだよ。古くから住んでんだろうな。かなり詳しく教えて貰えたよ」
妹「お隣さん、いないよ？」
弟「遺体がみつかったの右隣だろ？　俺が行ってるの左隣。玄関開けてゴミ捨てに出てきてたぜ？」
妹「そっちは前から空き部屋」
弟「・・・寮に帰っていい？」
妹「えぬじー」
　　『退去の時にエレベーターに乗らないといけない』が、今、一番生き残る可能性が高いです
　　退去前に乗ろうとしたら、きっと──
弟「新学期まで引きこもるかな」
妹「家の中でも出るから気をつけてね」
弟「なんてとこ住んでんだよ、バカ兄貴ー!!」
「うっせーぞ！」
　　誰もいない右隣から怒鳴り声が響きました

〇中規模マンション
「ぎゃーーー!!」
　　夕暮れのマンションに、弟の絶叫が響き渡るのでした