異世界バックパッカー

月暈シボ

エピソード6(脚本)

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〇けもの道
ルシア「美味しい! 本当に美味しかった・・・」
ルシア「森の中でこんな美味しい料理を食べられるなんて夢に思っていなかった!」
ルシア「ユキオ、君の本業は料理人なのか?」
  ユキオ特性のミネストローネ風パスタを平らげたルシアは顔を上気させながら、彼とその料理を褒め称える。
  実は余っていた食材で作ったとは、口が裂けても言えない反応だ。
成崎ユキオ「いや、俺は普通の勤め人で・・・料理はあくまでも素人です」
成崎ユキオ「たぶん・・・このコンソメが優秀な調味料なんですよ!」
  自分の料理を称賛されたことでユキオも満更な気分ではなかったが、
  直ぐにキューブ状のコンソメスープの素を見せて種明かしを行なう。
  今回は先程と違いルシア本人が所持していた干し肉を水の段階から入れて、
  出汁を取りながら、柔らかくして食べやすくしていたが、
  味の決め手となっているのは、やはり大手食品会社製のコンソメの素だろう。
  ユキオはこのインスタント調味料を普段の炊事でも何気なく使っているが、本来コンソメスープの素となるブイヨンは、
  牛肉、鶏肉、野菜等の各種の食材を一日くらい煮込んで作る、かなりの手間と費用が掛かる調味料だ。
  お湯に入れるだけで、コンソメスープを味わえる現代文明の発展ぶりを、ユキオはルシアの反応から再確認したのだった。

〇けもの道
ルシア「ふぁ・・・さて、そろそろ歩哨(歩しょう)の順番を決めるか。先と後、どちらが良い?」
  しばらくの間、日本の料理やお菓子に関する話題でユキオを質問攻めにしていたルシアだったが、
  小さな欠伸を上げるとユキオに選択を迫った。
成崎ユキオ「ほ、ほしょう?」
ルシア「見張りのことだ。・・・オーガーは倒したが、この森には狼や熊もいるからな」
ルシア「二人いるなら交代で警戒すべきだろう?」
  ユキオの質問に『ここがどこだが分かってないのか、こいつ!』とばかりに顔をしかめるルシアだが、
  直ぐに彼の正体を思い出したのだろう、苦笑を浮かべながら詳しい説明を告げる。
成崎ユキオ「狼と熊・・・」
ルシア「ああ、私からすれば敵ではないが、寝込みを襲われると厄介だ・・・」
成崎ユキオ「じゃ・・・俺が先に見張りに就きます!」
成崎ユキオ「なので、良かったら・・・俺のテントと寝袋を使って下さい」
  ルシアの意図を理解したユキオは最初の見張りを買って出る。
  日本では野生動物にそこまで気を使う必要はないが、ここは異世界である。大型の肉食獣は現実的な脅威なのだった。
  ユキオも疲れてはいたが、本当にそれらが出現したらルシアに頼るしかない。
  まずは、彼女から先に休息してもらうのが正解だろう。
ルシア「そうか。では、お言葉に甘えてユキオの寝床を試してみるか」
ルシア「・・・ところで君は本当に丸腰・・・武器を持っていないのか?」
成崎ユキオ「えっと・・・一応、薪のバトニング・・・薪わりやブッシュクラフトで使うために鉈は持っていますけど・・・」
ルシア「そうか。なら、武器は常に身に着けておくことだ」
ルシア「この世界で武器を持たないのは、年端も無い子供か奴隷くらいだからな!」
成崎ユキオ「・・・わ、わかりました」
  ルシアの警告とそれに含まれた奴隷という言葉に、ユキオは固唾を飲み込みながら頷く。
  この世界でのファーストコンタクトがたまたま彼女だったので、
  これまで平和的かつ円滑にコミュニケーションを取ることが出来たが、
  本来ここは現代の日本とは価値観が通用しない世界だ。人権という概念等、影も形も存在しないと思われた。
  基本的に自分の命を守れるのは自分だけという世界観なのだろう。
  これまでユキオは鉈を武器として認識したことはない。『薪を割るのに丁度良い大きさの刃物』でしかなかった。
  だが、これからは〝武器としても使える刃物〟と扱う必要があるようだ。

〇テントの中
成崎ユキオ「・・・どうぞ」
  異世界とのギャップを感じつつも、ユキオはテントの中からバックパックを取り出すとルシアを中へと誘(いざな)う。
  感傷的になるのはルシアが寝ている間、見張りの最中になれば良いと割り切ったのである。
ルシア「ありがとう・・・」
ルシア「おお! これは凄いな。こんなに薄くて丈夫な生地があるとは・・・」
ルシア「おい、これ! 何が入っているんだ! 凄い柔らかいぞ!」
  招かれたルシアだが、まずは強化ナイロン製のテント生地に感嘆の声を上げ、
  続いて寝袋とその下のエアマットレスの感触に驚愕する。
  これまでマント一枚で野営していた彼女からすれば、ユキオのテント環境は天と地ほどもあるだろう。
成崎ユキオ「その寝袋の中身はダウン・・・水鳥の胸毛ですね。その下のマットは空気を入れて地面からの緩衝材としています」
ルシア「水鳥の胸毛だと! 王侯貴族並みだな!」
  ユキオの回答にルシアは呆れたように声を荒げる。
  彼女の方も現代日本とのカルチャーギャップを感じていたようだが、これは今までで一番驚いたようだった。
成崎ユキオ「いえ、俺の世界ではダウンはそこまで高価な素材でもないんですよ」
成崎ユキオ「おそらく、養殖の技術等が確立されているからでしょう」
成崎ユキオ「まあ、それでもその寝袋は安くはなかったのですが・・・」
  変な誤解をされないようにユキオはルシアに補足を施す。
  ダウンは日本でも比較的高価な素材だが、既に産業として確立されているので、決して一部の金持ちだけの特権ではなかった。
  もっとも、ユキオが使用している寝袋は一流アウトドア会社の逸品で、価格も性能に比例して高価だったのだが、
  寝具の性能は使用者の命と健康に直結するので、ユキオは妥協せずに大枚を叩いた経緯があった。
ルシア「そうなのか・・・だが、本当に借りていいのか?」
成崎ユキオ「ええ。どうそ、使ってください!」
  改めて確認するルシアにユキオは笑顔で答える。
  正直に言えば彼女の身体は僅かに匂うのだが、我慢出来ない程ではないので気にしないことにする。
  ユキオも野外生活中は風呂やシャワーを浴びる機会がないので、
  人のことは言えないが、デオドラントシート等で最低限のエチケットは行っていた。
  だが、これは日本でのマナーである。日本人の基準を異世界の住人であるルシアに求めるのは酷だろう。
  それに彼女は命の恩人とも言える人物で、おまけに美人だ。匂いに関することだが、けち臭いことはしたくなかった。

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