〇映画館の座席
映栄杉太郎丸「さすが最新の４D設備を備えた映画館、シートの座り心地も上々にござるな」
映栄杉しのぶ「この映画観たかったんだよ。で、その４D上映ってのはなんなんだい？」
映栄杉太郎丸「映画の内容に合わせて様々なからくりが稼働して、まるで映画の中にいるような没入感を味わえるのでござる」
映栄杉しのぶ「あぁ、吊り天井とか落とし穴とかかね」
映栄杉太郎丸「いや、全然違うでござるが」
映栄杉太郎丸「吾輩、最新鋭のからくりをしかと目に焼き付けるつもりで予習してきたでござる。楽しみにござるな」

〇黒

〇船着き場

〇映画館の座席
映栄杉太郎丸（水分を噴霧する『フォグ』と強い照明『ストロボ』で、波止場の演出でござるな）
映栄杉太郎丸（さっそくからくりの同時稼働で複合的な演出とは、結構なお手前）
映栄杉しのぶ「霧隠れの術・・・!? 　どこの手の者だい！ 太郎丸、忍が侵入したよ！」
映栄杉太郎丸「ちょ・・・母上!? これ仕掛けでござるから！ からくり！」
映栄杉しのぶ「どこの世界に霧が出る映画館があるってんだい！」
映栄杉太郎丸「だから、ここでござる！ それが４D上映！ スクリーン前の装置で霧を発生させてるでござる！」
映栄杉太郎丸「とにかく、その忍刀しまってくだされ」
映栄杉しのぶ「そ、そうかい。くノ一時代のクセで、つい気を張りすぎたかね」

〇黒

〇幻想2

〇映画館の座席
映栄杉太郎丸（む、この甘い香りは『セント』のからくり。恋の雰囲気を香りで演出とは、お洒落でござる）
映栄杉しのぶ「こ、この香りは！ 太郎丸、息を止めな！ 眠りを誘う忍の香だよ！」
映栄杉太郎丸「モガ、モガガっ！（く、苦し・・・！）」
映栄杉しのぶ「吸ったら最後、眠ったところをグサリとやられちまう！」
映栄杉太郎丸「ムググ・・・！（母上の手で最期を迎えそうでござる・・・！）」
映栄杉太郎丸「ぷはっ！ こ、これもからくりでござるから！ その目の前の排気口から香りを出してるでござる！」
映栄杉しのぶ「ん？ この背もたれの穴かい？ なんでまたそんな珍妙な・・・」
映栄杉太郎丸「ですから、映画の演出だというのに」
映栄杉太郎丸「いいですか、次の別れの汽車の場面ではシートが振動するでござるが、お気を確かに持ってくだされよ」
映栄杉しのぶ「そこっ！」
映栄杉太郎丸「そこ違ーう！ 何してござるか！ 床にそんなに手裏剣刺して！」
映栄杉しのぶ「畳返しの術だよ！ 仕留めたか!?」
映栄杉太郎丸「だから予告したでしょう！ シートが！ モーターで！ 揺れてるだけでござる！」
観客「おいそこ、さっきからうるさいぞ！」
映栄杉しのぶ「そこかっ！」
観客「ん？ 今、何か顔をかすめて・・・」
映栄杉太郎丸「お、おやぁー!? 蜂が飛び回ってござるなー！ 顔を出すと危ないでござるよー！」
映栄杉太郎丸「こ、この調子ではクライマックスの大仕掛けでは何をされるか・・・母上、もう帰りましょう！」
映栄杉しのぶ「忍が侵入したというのに放って帰れるかい！」
映栄杉太郎丸「だからそんなの居ないと言うのにー！」

〇黒

〇豪華なクルーザー

〇映画館の座席
映栄杉太郎丸「ついに来てしまった・・・場内全体を嵐が包む大仕掛け、『ストーム』の稼働する場面が・・・！」
映栄杉しのぶ「こ、これは！ 頭領クラスしか使えない秘伝・竜巻の術!?」
映栄杉しのぶ「こいつを打ち消すには、こちらも嵐を起こすしかないっ・・・！」
映栄杉太郎丸「わー！ もうダメでござる！ 皆、母上の術で吹き飛んでしまうでござる！」
映栄杉しのぶ「いくよ、最大奥義！ 忍法・花吹雪！」

〇黒

〇幻想2
映画の主人公「愛してるよ・・・」
映画のヒロイン「私も・・・！」

〇映画館の座席
女性客「わぁー！ キレイ・・・！ 花びらがこんなに！」
男性客「すげぇ！ ４D技術もここまできたか！」
映栄杉しのぶ「あたしの術の勝ちだね！ 無事かい太郎丸？」
映栄杉太郎丸「は、母上とは、二度と映画に来ないでござる・・・」