勇者にはほしい才能がある

東龍ほフク

29/エルム・ナキュ⑧離婚の慰謝料(脚本)

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〇西洋の城

〇謁見の間
禁煙中の兵士「ユ、ユルシャ家の人だったんすか?  先生‥‥‥」
キン・ユルシャ「え? そうだよ?」
オージュ・ウォゲ「‥‥‥‥‥‥」
オージュ・ウォゲ「王よ」
オージュ・ウォゲ「この者を本名で呼ぶのは、 控えていただけないでしょうか」
オウシ・ヤマ王「何故だ」
オージュ・ウォゲ「奴は自身の本名を酷く嫌っておりまして、 なので‥‥‥」
キン・ユルシャ「え? そうなの?」
キン・ユルシャ「別にいい、いい」
キン・ユルシャ「“今の俺”、そんなコト 気にしない」
オージュ・ウォゲ「‥‥‥‥‥」
オウシ・ヤマ王「── だ、そうだぞ」
オウシ・ヤマ王「── とにかく、キン・ユルシャ よくやった。報酬は山ほど出してやろう」
キン・ユルシャ「あぁ、はぁ‥‥‥」
オージュ・ウォゲ「‥‥‥‥‥」

〇西洋の住宅街
  『エルム・ナキュ』呼びすら
  やめてしまったら
  “あいつ”が完全に消えてしまう気がして。

〇洋館の階段
禁煙中の兵士「せ、先生があの『魔界に単身乗り込んで いって、法王の娘を救い出してきた』 鬼神の家系の人だったなんて‥‥‥」
禁煙中の兵士「ガキの頃、親から「悪い事したら ユルシャの人間が尻ぶっ叩きに来るぞ」 って、よぅ言われたなぁ‥‥‥」
オージュ・ウォゲ「『それから、十何代目だと思ってるの? もう私なんて”普通の人”だよぉ(声真似)』 ‥‥‥と、奴はよくボヤいていた」
禁煙中の兵士「いやいや、バチクソ強いくせによぅ言う‥‥‥」
禁煙中の兵士「‥‥‥先生は、いつから徹底してペンネームな人生を?」
オージュ・ウォゲ「子供の頃からさ」
オージュ・ウォゲ「近所のクラスメイトに 「♪金玉ユルユル キン・ユルシャ〜」と イジメられてからだな」
禁煙中の兵士「‥‥‥‥‥あん?」
オージュ・ウォゲ「それ以降 ──」
オージュ・ウォゲ「『私、もうペンネームで生きてくっ!!!』 (声真似)」
オージュ・ウォゲ「『だから、これからは クソ親父の前以外では“エルム・ナキュ” って呼んでね!!!!』(声真似)」
オージュ・ウォゲ「『実は、前からペンネーム  考えてたんだ‥‥‥えへへ』(声真似)」
オージュ・ウォゲ「── っていう」
禁煙中の兵士「‥‥‥‥‥」
禁煙中の兵士「ま、まぁ‥‥‥イジメから逃げるための、 可愛いささやかな逃げ方で‥‥‥」
オージュ・ウォゲ「あ。奴には全然 同情できんぞ」
禁煙中の兵士「?」
オージュ・ウォゲ「『金玉ユルユル〜』と茶化されたナキュは その相手をベソ泣きしながら もれなく撲殺寸前までボコったからな」
オージュ・ウォゲ「あれはもう、どっちが被害者か わからんレベルだったなぁ‥‥‥」
禁煙中の兵士「‥‥‥‥」

〇お化け屋敷

〇お化け屋敷

〇宝石店
オージュ・ウォゲ「おい、今日は嫁にこの『喜劇』を 説明しに行くんだぞ」
オージュ・ウォゲ「しゃんとしろ」
キン・ユルシャ「ぅ‥‥‥‥」
キン・ユルシャ「ヨメ、いわれても‥‥‥」
キン・ユルシャ「あまり、きおく ない、し‥‥‥」
オージュ・ウォゲ「ハッカ強めのハーブティーで ちょっとは目が覚めるかな」
キン・ユルシャ「‥‥‥‥‥」
キン・ユルシャ「‥‥‥‥‥」
キン・ユルシャ「‥‥‥‥‥」
キン・ユルシャ「嫁‥‥‥」
キン・ユルシャ「美乳だった気がする‥‥‥」
オージュ・ウォゲ「あん?」
キン・ユルシャ「‥‥‥ハッカティーってスゴイな‥‥‥ ちょっとだけ、頭が冴えたぞ‥‥‥」
オージュ・ウォゲ「”頭が冴えて”思い出したのがソレか?」
オージュ・ウォゲ「‥‥‥え? ハッカで頭 冴えるの?」
オージュ・ウォゲ「なら、ハッカ‥‥‥直接食う?」
キン・ユルシャ「え‥‥‥おいしくないからヤダよ」
オージュ・ウォゲ「それで頭スッキリして、また小説が 書けるようになるかもしれないんだぞ」
キン・ユルシャ「“今の俺は”小説なんざ、どうでもいいし‥‥‥」
キン・ユルシャ「‥‥‥‥‥」
キン・ユルシャ「なぁ」
オージュ・ウォゲ「?」
キン・ユルシャ「”小説を書けなくなった俺”って そんなに無価値なの?」
オージュ・ウォゲ「‥‥‥‥‥」
オージュ・ウォゲ「‥‥‥‥」
キン・ユルシャ「創作に興味がなくなって、心にぽっかりと 穴が空いた気はするんだけど」
キン・ユルシャ「“今の俺は”‥‥‥それはそれで 気分よかったりするんだ」
キン・ユルシャ「心 穏やかで」
オージュ・ウォゲ「‥‥‥‥」
オージュ・ウォゲ「── そうだったな」
オージュ・ウォゲ「まずは、お前に言わなきゃ いけない事があったな」
オージュ・ウォゲ「おかえり‥‥‥お疲れ様」
オージュ・ウォゲ「無事に戻ってきてくれて嬉しいぞ」

〇西洋の住宅街

〇おしゃれな居間
オージュ・ウォゲ「── と! いうわけで! こいつがエルム・ナキュで〜す!」
編集担当ちゃん「‥‥‥‥‥‥あ゙?」
編集担当ちゃん「ふざけないで」
オージュ・ウォゲ((だろうなぁ‥‥‥‥))
編集担当ちゃん「『冗談は顔だけにしろ』って いつも言ってるでしょ」
オージュ・ウォゲ「でも、状況証拠やら何やらの全てが 『コイツはエルム・ナキュ』だと示している」
編集担当ちゃん「あの人が、こんなんなわけないじゃない」
オージュ・ウォゲ「文系女子が感情だけで物事をジャッジ するなんて、恥ずかしくないのか?」
編集担当ちゃん「黙れ」
キン・ユルシャ「ふ、2人とも‥‥‥ケンカしないでくれ‥‥‥」
キン・ユルシャ「あの、本当にすみません‥‥‥ あなたの事は「美乳だった」事しか 思い出せなくて‥‥‥」
編集担当ちゃん「何よアンタ! キッモチワルイ!!」
  ※キンは胸ぐらをつかまれた!
編集担当ちゃん「じゃあ、付き合うきっかけになった作品は? 初デートの場所はぁ?」
キン・ユルシャ「う‥‥‥! イイ香りする!//////」
編集担当ちゃん「かっ‥‥‥‥」
編集担当ちゃん「嗅ぐな!!!!!」
キン・ユルシャ「にゃあ!!」
編集担当ちゃん「はぅあっ‥‥‥‥!!」
編集担当ちゃん「こ、この感じ‥‥‥」
オージュ・ウォゲ「お前も感じたか」
オージュ・ウォゲ「この“殴るまでの”流れ、殴った感覚‥‥‥」
編集担当ちゃん「まるで、あの人のような‥‥‥」
キン・ユルシャ「『エルム・ナキュ』ってどういう人 だったんです‥‥‥?」

〇おしゃれな居間
編集担当ちゃん「‥‥‥小説関係の事は何も覚えてないの?」
キン・ユルシャ「すみません」
編集担当ちゃん「ウチで新しく始めるはずだった メルヘンファンタジーの草稿は どうしました?」
キン・ユルシャ「‥‥‥わかりません 何も覚えてません」
編集担当ちゃん「『セイ・ベル』、すごくいい所で 放置されて私も読者も会社も困ってるんですけど」
キン・ユルシャ「‥‥‥‥‥」
キン・ユルシャ「他の、小説を書ける人に続きを おまかせしちゃうのはどうです?」
キン・ユルシャ「俺はもう、字を書くどころか 字を読むのも怪しい感じだし」
編集担当ちゃん「‥‥‥‥‥‥‥」
編集担当ちゃん「”ちょっと運動”してきただけで、 そんなアホになります?」
オージュ・ウォゲ「“ちょっと”どころではないから、 こんなんなっているのだが」
編集担当ちゃん「黙れ」
編集担当ちゃん「私、」
編集担当ちゃん「細身でカッコよくて才能あって 髪がキレイなあの人が好きだったんですよ」
編集担当ちゃん「爪もおキレイで姿勢も良くて、 それでいてイイ感じに抜けてて可愛くて‥‥‥」
オージュ・ウォゲ「今のコイツも『抜けてて可愛い』と思いまぁす」
編集担当ちゃん「失せろ」
編集担当ちゃん「‥‥‥‥‥」
編集担当ちゃん「それを全部 除去した人って‥‥‥」
編集担当ちゃん「私にとって“無価値”でしかないんですよ」
キン・ユルシャ「── !」
オージュ・ウォゲ「こんの、クソアマ‥‥‥!」
キンにぶん殴られて吹っ飛ぶオージュ「いってぇ??!!!!」
キン・ユルシャ「‥‥‥ですよねぇ」
編集担当ちゃん「どれだけ『他人を救ってきた』とか どうとか、知ったこっちゃないですよ」
編集担当ちゃん「知ったこっちゃない」
編集担当ちゃん「── 知ったこっちゃない」
キン・ユルシャ「‥‥‥‥‥‥‥」
キン・ユルシャ「『エルム・ナキュ』は死んだ事に してくれませんか?」
編集担当ちゃん「‥‥‥確かに、その方が【追悼特集】として 既存本や関連本が売れますけど」
編集担当ちゃん「正直に『書けなくなって引退』の方が ダサくて、話題性あっていいと思います」
キン・ユルシャ「‥‥‥‥‥はい」
編集担当ちゃん「‥‥‥‥‥」
編集担当ちゃん「『カッコよくて才能あるまま』で いてくれなかったあなたの落ち度から くる離婚の慰謝料は‥‥‥‥」
編集担当ちゃん「どんなもんになりますかね?」
キン・ユルシャ「‥‥‥‥‥‥」
キン・ユルシャ「あぁ! 離婚の慰謝料なら、いいものがある!」
キン・ユルシャ「エルム・ナキュの本の印税、 これからは全部あなたが受け取ってください」
オージュ・ウォゲ「── !!! おいおいおい!  そりゃあ、やりすぎだっ‥‥‥!」
キン・ユルシャ「覚えてませんが、けっこう売れてる 作家だったんでしょう?」
キン・ユルシャ「あなたと”2歩3歩”して作った小説の 売り上げなんだから、あなたが全部 もらっていいんじゃないですかね?」
編集担当ちゃん「‥‥‥『2人3脚』と言いたいのかしらね」
編集担当ちゃん「バッカじゃないの」
キン・ユルシャ「王様から、遠征のお礼として もらったのもあげる×2!」
編集担当ちゃん「そんなモノもらっても、私が好きだった エルム・ナキュは戻ってきませんけど‥‥‥」
編集担当ちゃん「もらえるものは、もらいます ありがとうございます」
編集担当ちゃん「‥‥‥‥‥」
編集担当ちゃん「── じゃあ、私はコレをあげます」
編集担当ちゃん「ねぇ、ちょっとコッチ来てぇ〜」
キン・ユルシャ「えっ‥‥‥」
編集担当ちゃん「この子を知性派に育てようと 計画していたんだけど、」
編集担当ちゃん「何かのはずみであなたみたいな ”ぶっといアホ”になってしまうのかと思うと、」
編集担当ちゃん「お金かけて育てるの、アホらしいというか」
キン・ユルシャ「お、おい‥‥‥それはあんまりじゃ‥‥‥」
キン・ユルシャ「あなたに似てますから、俺のようには ならないと思いますよ‥‥‥?」
編集担当ちゃん「‥‥‥どうかしらねぇ」
編集担当ちゃん「この子、ほっとくと平気で丸1日 本屋で立ち読みし続けるのよ?」
編集担当ちゃん「2日かけて、隣町の本屋に 1人で行ってきたり‥‥‥」
編集担当ちゃん「体力バカの片鱗はあるわよ‥‥‥」
キン・ユルシャ「‥‥‥‥‥」
編集担当ちゃん「こんな幼い頃から、我が子が 『”親が願っている将来の姿”に ならないかもしれない』‥‥‥」
編集担当ちゃん「と、思いながら育てていくの しんどいわよ」
キン・ユルシャ「‥‥‥‥‥‥」
キン・ユルシャ「‥‥‥たとえ、」
キン・ユルシャ「子どもがどっちの方向に育っても、」
キン・ユルシャ「かわいいモンじゃないですか‥‥‥?」
編集担当ちゃん「‥‥‥‥‥」
編集担当ちゃん「私が理想とした家族構成は、」
編集担当ちゃん「スリムで知的な夫と知的な私と、 知的な子どもの3人家族なの」
編集担当ちゃん「あと、長毛種のネコ」
編集担当ちゃん「戦闘狂の類人猿共に囲まれる 可能性のある人生は想定してないのよ」
キン・ユルシャ「‥‥‥‥‥」
キン・ユルシャ「── そうかぁ」
キン・ユルシャ「あなたの“夢”を壊しちゃって、ごめんな!」

〇西洋の住宅街
キン・ユルシャ「なんだよぉ〜 やっぱ、俺『無価値』だってぇ〜」
幼少ギン「でも、ハナシをきくかぎり たいそう ごかつやく なされたそうで」
ギン「母は、じゃっかん ヒステリーなので 気にしないでください」
キン・ユルシャ((なんでこんなに  落ち着いてられるんだ‥‥‥))
キン・ユルシャ「‥‥‥ごめんな?  俺がアホになったおかげで」
幼少ギン「いえ」
キン・ユルシャ「‥‥‥‥‥‥‥‥あれ?」
キン・ユルシャ「俺、何を怒られたんだっけ‥‥‥」
キン・ユルシャ「オージュ、俺‥‥‥何を怒られたんだっけ?」
オージュ・ウォゲ「‥‥‥‥‥」
オージュ・ウォゲ「お前ら、とりあえず私ん家に 帰って休んでろよ」
オージュ・ウォゲ「私は、少し行く所がある」
キン・ユルシャ「うんこ?」
オージュ・ウォゲ「うんこ」
キン・ユルシャ「いってらっしゃーい」
幼少ギン「‥‥‥あのぉ」
幼少ギン「きょうみがあるので ちょっと かたぐるま していただけません?」
キン・ユルシャ「いいぞぉ〜」

〇西洋の城

〇上官の部屋
オウシ・ヤマ王「‥‥‥‥ふぅ」
オウシ・ヤマ王「そろそろ休むか‥‥‥」
オウシ・ヤマ王「なっ、何事だっ‥‥‥?!」
???「王様よぉ‥‥‥」
オージュ・ウォゲ「アイツにもっと、報奨金 出せや!!!!!」

次のエピソード:30/エルム・ナキュ⑨「ちょうちょ……?」

コメント

  • 奥さんそんなひどい言い方せんでも……と思いつつ、ギン君を生んで育てながら一人で待っていた時間とか、先生をせっつきながら編集として仕事して出版した本の思い出とか、そういう大切な記憶を何も共有できなくなってしまった悲しみを思うと、一概には責められなくて辛いです…💦
    肩車する父子の姿に涙腺をやられました。もっと早くこうしていたかったろうに…記憶を保ったまま帰りたかったろうに…王様許すまじ。

  • 考えさせられる回でした。人の価値って難しい…。
    無価値かぁ〜と照れ笑いで言ってるキンさんですがだいぶ傷ついてると思うと悲しい😭
    オージュさんは絶対的にナキュさんの味方でニマニマしちゃいます🤭✨しかしペンネームを名乗り始めた理由www

  • 父子肩車のスチル、かわいいし和むけどちょっと切ない……息子に「無価値じゃない」と言ってもらえたのがせめてもの救いでしょうか😢
    嫁さんは夫と息子をばっさり切り捨てたのはもとより、「書けなくなって引退のほうが話題になる」発言がヤバい😱
    親父さんのためにいろいろしてくれるオージュさんがぶん殴られてて、不憫やら頑丈さに感心するやら😂

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