忍び忍びに濡るる袖

ましまる

第三帖・形代(脚本)

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〇学校の部室
せんせー「さて、前回は 源氏の君と小君クンの甘い一夜について」
せんせー「原文を示しながらご紹介してきたけど、」
ぶちょー「ですから、そんな描写は どこにもなかったですよ!」
ぶちょー「書いてもいないことを勝手に想像するのは 作品に対して失礼です!」
せんせー「「書いてもいないこと」 ・・・これこそが重要なことなのよ」
ぶちょー「・・・へっ!?」
せんせー「そもそも、『源氏物語』において 源氏の君と女性方との「夜の秘め事」を」
せんせー「艶めかしく、イヤらしく、 事細かに描写している場面はあるかしら?」
ぶちょー「・・・ないです」
せんせー「でも、女性と何らかの行為があったことは 容易に想像できちゃうじゃない」
せんせー「さらに、翌朝の様子や 贈られた和歌の内容を見て それが確信に変わるでしょ?」
ぶちょー「・・・はい」
せんせー「これこそが『源氏物語』の 魅力的な特徴と言えるのじゃないかな」
るる「プレイ内容が書いてないって、残念・・・」
ぶちょー「変な期待はしないで!」
せんせー「そう、ナニをナニしたとかいう記述は無し」
せんせー「それこそ、空蝉とのNTR不倫シーンでも、」
せんせー「座敷の襖を閉じ 二人っきりになってからは」
せんせー「会話シーンや それぞれの心情描写がずっと続き、」
せんせー「突然「鶏も鳴きぬ」と、朝を迎えてるわよ」
るる「朝チュンならぬ、朝コケコッコー!?」
せんせー「というように、ナニしたとか書かなくとも NTR不倫があったことは、 詠み手はみな想像できちゃうのよ」
るる「すごーい!」
せんせー「直接的に言い表さなくとも、」
せんせー「いや、直接的に言い表さないが故に」
せんせー「その場面や、登場人物の心情が ありありと伝わってくる・・・」
せんせー「これこそが『源氏物語』の 優れた特徴と言えるものじゃない」
ぶちょー「はいっ!」
せんせー「にもかかわらず、 『源氏物語』本文の字面だけ追って、」
せんせー「「書いていないから、行為は無かった」 なんて物言いは、却って作品に失礼では?」
ぶちょー「・・・スミマセン」
ぶちょー「でも、光源氏と小君との「行為」が あったとは読み取れません」
せんせー「それなら、今度は源氏の君のスタンスから 今回の件を見ていこうかしら」
ぶちょー「・・・スタンス?」

〇学校の部室
せんせー「源氏の君というのは、 関係を持った相手に「誠意」を見せる 立派な御方なのよ」
ぶちょー「・・・誠意?」
るる「誠意はゼニで示すもんや~!!」
せんせー「そう、経済的支援も行ったりしているわ」
ぶちょー「経済的支援といえば、末摘花ですねっ!」
せんせー「そうね、没落令嬢・末摘花の家を 経済的に支えたりもしているし、」
せんせー「後年、源氏の君の屋敷を増改築した際には」
せんせー「花散里や末摘花、さらには 夫と死別し出家した空蝉も呼び寄せて 住まわせているわよ」
るる「・・・ハーレム屋敷!?」
せんせー「源氏の君は、契りを結んだ相手に対し 基本的には手厚い対応をしているのよ」
せんせー「でも、軒端荻はヤリ捨てているけどね」
ぶちょー「せんせーー!!」
ぶちょー「で、この光源氏の「誠意」が 何と関係しているのですか?」
せんせー「そうそう、ここからが本題ね」
せんせー「源氏の君は小君クンに対しても ちゃんと「誠意」を見せているのよ」
ぶちょー「えっ!?」
せんせー「前回の場面から十数年後、 久方ぶりの再会の際に語られているわ」
せんせー「第十六帖「関屋」から引用するわね」

〇ソーダ
  昔、童にて、
  いとむつましうらうたきものに
  したまひしかば、
  かうぶりなど得しまで、
  この御徳に隠れたりしを・・・

〇学校の部室
せんせー「十数年後、小君クンは「右衛門佐」という 立派なオトナになっているのだけど」
せんせー「小君クン改め右衛門佐は、 源氏の君のお陰で出世できたという記述ね」
るる「ふぇー!?」
せんせー「源氏の君に寵愛されたおかげで、」
せんせー「「かうぶりなど得し」──冠を装着する 貴族階級に引き立てられているのよ」
るる「コレって、やっぱり・・・?」
せんせー「もちろん、関係を持った相手への 「誠意」よね」
ぶちょー「「甲斐甲斐しくお仕えしたご褒美」と 解釈できそうですが・・・」
せんせー「いいえ、この平安時代には 権力者が男色相手を出世させることは 普通にあったことなのよ」
ぶちょー「でも・・・納得が・・・」
せんせー「もう、強情ね・・・」
せんせー「だったら、話が大きくなるけど、」
せんせー「今度は、 ~『源氏物語』の愛とは~ というテーマから」
せんせー「源氏の君と小君クンとの関係を 見ていこうかしら」
るる「『源氏物語』の愛・・・?」

〇学校の部室
せんせー「『源氏物語』で描かれる恋愛って、」
せんせー「「形代の愛」と形容されることが多いのよ」
るる「カタシロ・・・?」
せんせー「形代という言葉の意味は 「身代わり」「代わりのモノ」というもの」
ぶちょー「それが恋愛とどう関係があるのですか?」
せんせー「そうね、実例を挙げたほうが 伝わりやすいかな・・・」
せんせー「じゃあ質問ね」
せんせー「源氏の君が、幼い紫の上に 心惹かれた理由は?」
ぶちょー「紫の上が、光源氏が恋焦がれた藤壺の姪で 容姿も藤壺に生き写しだったからです」
せんせー「なら、その藤壺中宮のことを 義母と息子の関係ながら 源氏の君が恋い慕った理由は?」
ぶちょー「藤壺の美しさが、幼い頃に死別した 母の桐壺更衣に瓜二つと耳にしたためです」
ぶちょー「光源氏の父の桐壺帝が、 桐壺更衣を失った悲しさを埋めるために 彼女を迎え入れたのですよね」
せんせー「そう、それが「形代の愛」なのよ」
せんせー「父帝は、桐壺更衣を失った悲しさから 「形代」として藤壺中宮を愛し、」
せんせー「源氏の君は、藤壺中宮への恋心が 「許されざる恋」だから、 「形代」として紫の上を愛した」
せんせー「こういった恋心こそが 『源氏物語』の一つの軸になっているわよ」
ぶちょー「確かに・・・」
るる「ヒカルゲンジが、 マザコンから■リコンになったってコト!?」
せんせー「ついでに言えば、」

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コメント

  • 形代として似たような人を求めてしまう気持ちは分るなー。どう頑張っても本人が手に入らないならそっちでいいやってなりますね。面白いですね。
    私もしこの宮中にいたら源氏物語回し読みに参加してたような気がします🙇

  • 奥深い世界ですね、勉強になりました‼😆
    やはり「秘すれば花」ですな。見えそうで見えない方がドキドキしますから♡
    形代というのは興味深いです。
    「マザコンから■リコンに」と仰っていたように、大抵本命より年下でしょうね。本人より年上の形代は少ない気がする。結局、若い相手にぶつけるのでしょう。自分が誰かの代用品というのは複雑ですね💦

  • 『もののあはれ』を思えば、るるさんの解釈も否定はできませんね〜🤭
    (稀代の色男がそれじゃ残念ですが💦)
    原文読んだことないけど、ママの方が余計に妄想を掻き立てられそうですね。
    分かってたつもりの源氏物語も、裏を知ればもっと興味深いです。
    楽しくタメになるましまるさん解釈話、今回も満喫させてもらいました♪最高です。
    いつも供給ありがとうございます🙇

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