『The Ninth Keys』/『九つの鍵』Ver.2.0

Watcher

一時(脚本)

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〇可愛い部屋
  ルーチェによって城に連れてかれたミニフェイカーとフリートウェイ。
  二人は、しばらく王族と共に過ごすことになった。
  第4回『一時』
ミニフェイカー「ここが、私の部屋なの?」
ルーチェ「うん、そうだよ! 今日からゆっくりのんびりしてね」
  ルーチェから部屋を与えられたミニフェイカーは辺りをきょろきょろ見渡す。
  新しい環境で慣れないのか、無表情のままだ。
ミニフェイカー「部屋・・・・・・ 研究所とは全く違う」
  不思議な雰囲気が漂っていた研究所とは違った暖かく優しい空気に、
  ミニフェイカーは少しの衝撃をもって受け入れた。
ルーチェ「何か探しているものがあるの?」
ミニフェイカー「うん。 大事な人を探しているの。 彼はどこにいる?」
  ミニフェイカーが『大事な人』と称した人物が誰だったのか、ルーチェは記憶を辿った。
  確か―
ルーチェ「・・・その人は、短い金髪の男の子・・・ だったよね?」
ミニフェイカー「うん。 名前、『フリートウェイ』って言うの」
ルーチェ「なかなか不思議な響きの名前なのね・・・ 覚えるね」
ルーチェ「彼は、治療を受けているよ。 傷だらけだったから、治さなきゃ」
ミニフェイカー「傷だらけ・・・? 彼は確かに疲れ果ててたように見えたけど・・・」
ルーチェ「でもね、ちゃんと治れば また会えるのよ。 だから、待っててくれる?」
  『また会える』、という言葉に反応したミニフェイカーはルーチェに少しだけ近寄った。
ミニフェイカー「それは『必ず』? 身体の傷を治せば、『必ず会える』の?」
  やけに詰めてくるミニフェイカーに、
  ルーチェは優しい微笑みを浮かべるが、
  上手く言葉を返すことは難しかった。
ルーチェ(きっと、過去に何か大きなことがあったのね・・・ 命のことについて、気になって・・・)
ルーチェ「うん! 必ず、会えるのよ! だから、待っててくれる?」
ミニフェイカー「『待つ』・・・・・・」
  言葉を反芻するように小声で繰り返すミニフェイカーはルーチェの言う通り、大人しく待ってみることにした。
ミニフェイカー「『待つ』のはいいけど・・・・・・ 貴女は一緒にいてくれる? 一人には慣れてないの」
ルーチェ「あー・・・成程、一人は寂しいのね! 分かった、メイドを・・・」
ミニフェイカー「嫌だ」
  ルーチェの言葉を遮ったミニフェイカーは無機質に言う。
  余程嫌だったのか、表情は僅かに歪んでいた。
  他人の干渉が嫌いな彼女にとって、これ以上人が増えるのは耐え難い苦痛なのだ。
  彼女はフリートウェイさえいればいいのだから。
ミニフェイカー「新しく人を入れる必要はない。 フリートウェイさえいればいいの」
ミニフェイカー「・・・・・・分かった?」
ルーチェ「・・・・・・・・・・・・」
  ミニフェイカーの唐突なまくし立てに、
  ルーチェは困惑しながら黙ってしまうのだった。

〇田舎の病院の病室
  一方のフリートウェイ・・・
  意識を取り戻したが、足の銃傷のせいで、
  なかなか動けなかった。
  片足にはキツく包帯が巻かれている。
  動かせないようにしっかり固定されていた。
フリートウェイ「・・・思っているより痛いな。 仕方ねぇか・・・」
フリートウェイ「これも『オレ自身が望んだ』ことだ」
  撃たれた部分には、少し赤が滲んだ包帯がぐるぐるに巻かれており、まだ痛みがある。
  それをぼんやり見つめながら、フリートウェイはため息をついた。
  それは自嘲か、それとも。
フリートウェイ「少々荒療治だが・・・いいか。 誰にも見られてねぇし・・・・・・」
フリートウェイ「これで治ったか?」
  フリートウェイは再生能力を持っている。これを使って人間として生きるには少々無理があるため、封印していたのだ。
  治ったばかりの片足の拘束具を外し、ちゃんと治っているか確認するために
  起き上がった。
フリートウェイ「痛っ・・・ 久しぶりに使うと鈍いな・・・」
  鈍くて重い痛みに顔を歪ませるが、
  傷は痕すら残さずに治っているようだ。
  ・・・流石に出てしまった血液の分は無理だが。
フリートウェイ「及第点、といった所か・・・・・・ さて・・・まずは立ち上がって・・・・・・」
フリートウェイ「おっと、危ない!」
  立とうとしたが身体がぐらつき、前に倒れてしまった。
  無理やり治した片足にあまり力が入らないようだ。
フリートウェイ「・・・・・・クソが・・・」
  小さく苛ついた声を出すと、身体の上半身だけを上げる。
  力を抜いて、ふわりと身体を浮かす。
フリートウェイ「結局こうなるよな・・・ 人間じゃないことがバレちまうけど、仕方ねぇか」
フリートウェイ「念のために、治した片足にはリボンでも巻いておこうかな?」
  片足を自力で治してしまったのを
  隠すようにリボンを巻いた。
  片結びで厳重にほどかれないようにキツめにした。
フリートウェイ「・・・・・・よし、会いに行くかな・・・ 寂しがり屋だから、オレのこと待ってるだろうし」
  病室のドアを開けたフリートウェイは辺りを見渡すと、浮遊したまま部屋を出た。

〇大きい病院の廊下
フリートウェイ「さて、どこにいるかな・・・」
  病室を出たフリートウェイは、ミニフェイカーを探していた。
  浮遊したまま移動するせいで、すれ違う者からは奇怪な目をされているが、本人は全く気にしていない。
フリートウェイ「人間は浮遊できないからな・・・ そんな不思議そうな表情をされても困るんだけど・・・」
「あ!もう動けるのね!」
フリートウェイ「!!」
  後ろから声をかけられたことで、思わず隠し持っている銃を構えてしまうが
  声をかけた人物が誰か分かると、無言で振り返った。
ルーチェ「そんなに警戒しなくても・・・」
フリートウェイ「いきなり声をかけられるのは勘弁願いたいんだが」
フリートウェイ「名を知っているとはいえ、貴女とオレは初対面だ。警戒するに決まってるだろ?」
  強烈な警戒心を見せるフリートウェイだが、長く息を吐くと落ち着いたように浮遊したまま話し始めた。
フリートウェイ「・・・貴女はオレ達を助けてくれた」
フリートウェイ「助けてくれて、ありがとうな。 本来なら、言葉ではとても足りないだろうが・・・」
ルーチェ「気にしないで! もっと明るくいきましょうよ!」
フリートウェイ「それはどうも」
フリートウェイ(わざわざ来て・・・・・一体、何を考えているんだ?)
  ルーチェが来てくれたことに
  少しの嬉しさと驚きを持って受け止めたフリートウェイは、ミニフェイカーの行方を聞く。
フリートウェイ「フェイカーはどこにいる? 部屋の鍵を渡してくれ」
ルーチェ「あの子は城の一番端の部屋にいるわ。 はい、これが鍵よ」
フリートウェイ「・・・そんな簡単に、部屋の鍵を渡すべきではないが」
フリートウェイ「感謝する。 思えば、貴女とは話していなかったからな」
フリートウェイ「オレはフリートウェイ。 ミニフェイカーの・・・・・・・・・友人だ」
  少々間を開けて、フリートウェイは続ける。
  ミニフェイカーとは本当はもっと密接な関係なのだが、説明が面倒なので『友人』ということにした。
フリートウェイ「オレとミニフェイカーは貴女達の種族である『人間』ではない。 どうか、これだけは他言無用で頼む」
ルーチェ(人間では無いの? 見た目は私たちと同じなのに)
ルーチェ(でも、この子は浮遊してる・・・ 彼の言う通り、人間じゃないのね)
ルーチェ「分かったわ。誰にも言わない」
フリートウェイ「それは良かった・・・・・・」
  安心したような表情をするフリートウェイを見たルーチェは自己紹介をしようと考えた。
ルーチェ「私はルーチェ。 ロア王国の女王だよ。 これから、よろしくね!」
  伝えたいことがいっぱいありすぎて、
  名前と身分しか言えなかったルーチェは
  気まずそうにフリートウェイから目を逸らす。
ルーチェ「あ、えっと・・・ 本当はいっぱいいっぱい話したいんだけど・・・」
ルーチェ「上手く、言えなくて・・・ ごめんね」
フリートウェイ「・・・いいさ。 貴女の優しさも何もかも、伝わったからな。 『友人として』よろしく頼む」
ルーチェ「うん! よろしくね、フリートウェイ君!」
フリートウェイ「君呼びは勘弁してくれ! 呼び捨てでいいから!」
フリートウェイ(困ったな・・・ どうやら、オレは彼女が苦手らしい・・・)
  ルーチェに苦手意識を抱いてしまうが、
  微笑みを見せると少しだけ優しい声色でフリートウェイは聞く。
フリートウェイ「ミニフェイカーは貴女に何か言ってたか?」
フリートウェイ「寂しい思いをさせちまったんだ、 きっとかなり精神的に不安定なはずだ」
フリートウェイ「あの子は繊細に扱わねぇと。 環境変化に弱いんだよ」
フリートウェイ「でも、多分・・・此処なら大丈夫だろうな。 居心地良いし」
ルーチェ「あら、そうなの? 嬉しいわ~!」
  花のような笑みを浮かべるルーチェを見たフリートウェイは彼女の優しさを知り、
  1つ提案してみることにした。
フリートウェイ「頼みがあるんだが・・・・・・ ただで住み着くわけにはいかねぇからな」
フリートウェイ「オレを『一人の従者』としてもらいたい。 本音を言うなら、専属の『薬師』になりたい」
ルーチェ「『薬師』に!?」
  驚いたルーチェは慌ててフリートウェイを止めた。
  何故なら、彼が無理をしているように見えたからだ。
ルーチェ「いやいや、いいのよ!? そんな無理したら・・・!」
フリートウェイ「別に無理はしてない。 何かしないといけない、そう思っただけだ」
フリートウェイ「オレは悪意をもって他人に接しているわけじゃないからな」
  フリートウェイを信じるか信じないか迷うルーチェ。
  数分悩んだ末に出した答えは・・・
ルーチェ「分かった。 貴方を従者として、受け入れるわ!」
ルーチェ「・・・だけど、人の道は外れないでね! 約束出来る?」
フリートウェイ「勿論だ」
  約束をしたフリートウェイは気が済んだのか、ミニフェイカーに会うために去っていった。
ルーチェ「・・・・・・・・・・・・」
ルーチェ「何かすごい人を従者にしちゃったような 気がするんだけど・・・・・・」
ルーチェ「頼もしい人らしかったわ! 私も頑張らないと!」
  フェイカーとフリートウェイの安全を確かめ、安心したと同時に、一人を従者にした事実に大満足したルーチェは
  軽快な足取りで自室に戻っていった。
  鼻唄を歌いながら、機嫌良さそうにしているその姿は無垢な少女そのものだった。

〇可愛い部屋
  ミニフェイカーは、フリートウェイにまた会えることを期待しながら一人で時を過ごした。
  精神が安定していないので、部屋の外から一歩も出ない彼女は、うとうとしながら昼食を食べていた。
ミニフェイカー「・・・・・・・・・」
ミニフェイカー「・・・こんなに食べられないんだけど」
ミニフェイカー「こんな体に悪そうな料理って、 本当にあるんだね・・・」
  色々言い、研究所にいた時の記憶を思い出しながら食べ進めていくミニフェイカーだが、考えていることは食事ではなかった。
ミニフェイカー「フリートウェイ、会いに来てくれるよね?」
「当たり前だろ?ほら、会いに来たぜ」
  ノックの後にドアを開けたのはフリートウェイだった。
  足の傷はほぼ完全に治っており、もう平気そうだ。
  そんな彼を三日ぶりに見たフェイカーは
  目を一瞬キラッとさせた後、手招きした。
  フェイカーの隣はフリートウェイだけだ。
ミニフェイカー「早速隣に来てよ!」
ミニフェイカー「やっと会えたから、『嬉しい』の!」
フリートウェイ「まさか、こんなに嬉しがるなんてな・・・ 余程寂しかったんだな」
フリートウェイ「ありがとう」
  素直に感謝したフリートウェイは
  ミニフェイカーの隣に座った。
  ぴったりくっついたまま離れない彼女の頭を優しく撫でる。
フリートウェイ「ずっとこの部屋にいたんだな。 ルーチェから何となく話は聞いているぜ」
フリートウェイ「しばらく、此処でゆっくりするか?」
ミニフェイカー「ゆっくり・・・ うん、少し休みたい」
ミニフェイカー「寝たい」
フリートウェイ「あー、うん。 食事中なのに眠たそうにしてるな・・・」
フリートウェイ「食べてから寝た方がいいぜ? 瘴透水を飲まなきゃいけねぇからな」
フリートウェイ(もう食えなそうだな・・・ だが、食えただけいいか・・・)
  フリートウェイは瘴透水を持ってきたバッグから出すと封を開けた。
フリートウェイ「飲みな」
ミニフェイカー「うん」
ミニフェイカー「不味いね・・・・・・」
フリートウェイ「不味かったか・・・ 改良が必要だな・・・・・・」
フリートウェイ「瓶はオレが預かるから、返してくれないか?」
ミニフェイカー「うん」
  黒く染まった瘴透水の瓶を渡すミニフェイカーは自分のベッドに入る。
  5分も経たずに寝息が聞こえ始めた。
ミニフェイカー「Zzz...」
フリートウェイ「相変わらず、寝るのは早いな・・・」
フリートウェイ「一度寝たら数日起きないのに、 まだ眠れるか・・・・・・ 普通なら、過眠で具合が悪くなるんだが・・・」
  呆れた口調だが、どこか心配の声色が混ざっていた。
  しばらくはミニフェイカーの寝顔を眺めていたが
フリートウェイ「・・・あっ」
フリートウェイ「オレのこと、伝え忘れたな・・・・・・ フェイカーが起きた時に伝えればいいか・・・」
フリートウェイ「寝ている間にオレは・・・」
フリートウェイ「・・・さて、やるか」
  机の上に図鑑のような分厚いノートと筆記用具を出した。
  薬を作るために、『感情』の研究をするのだ。
  ルーチェの期待に応えるべく、
  フリートウェイは食事も寝ることも忘れ、
  研究し続けた。

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