猫が決して死なない物語

資源三世

前編(脚本)

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〇雑居ビル
  冷たい風がだんだんと過ぎ去って、暖かな日差しが降り注ぐようになった頃

〇怪しい実験室
  町はずれの悪質ブリーダーの家の隅に、その年に生まれた子猫達がいました
  とら猫のハンス、三毛猫のペロー
  白猫のヤーコプ、黒猫のヴィルヘルム
  チェシャ猫のドジソン
  一匹、変なのが混じっていますが、誰も気にしません。今日も仲良く遊んでいます
  今日は、子猫達は大人の真似をして、会議をしています。議題は住環境について
  「もっと美味しいご飯が食べたい」
  ハンスとペローは言いました
  「いっぱい走り回りたい」
  ヤーコプ、ヴィルヘルムは言いました
  「トイレを綺麗にして欲しい」
  ドジソンは言いました
  みんな、口々に不満を口にします。それもそのはず、子猫達の暮らす場所は、とても住み心地の悪い場所でした
  ごはんは不味いくせして、しばしば出すのを忘れられるし、トイレは一週間に一度しか変えてくれません
  ケージには鍵がかけられ、外に出ることも出来ません
  もっともドジソンはチェシャ猫だったので、ケージの外に瞬間移動できます
  お腹が空いたらつまみ食いにいくし、遊びたければ脱走できます。ただ、トイレの臭いだけは逃れようがなかったのです
  こうして子猫達が会議をしたところで、何が変わるでもありませんでした
  ただ──
  トイレが臭いなら、全部、外でしてしまえばどうだろう?
  ドジソンのトイレの問題は解決しました

〇汚い一人部屋
  それからというもの、ドジソンは外でおしっこやうんこをするようになりました
  特に悪質ブリーダーの部屋は隠れるところが多く、トイレに最適でした
  ある日、ドジソンのおしっこは電化製品にかかり、漏電してしまいました

〇汚い一人部屋
  悪質ブリーダーの家は火事になりました

〇怪しい実験室
  火は猫たちの住むケージにも燃え広がりましたが、消防隊と動物保護団体の決死の活躍により、猫は全て助かりました
  悪質ブリーダーは、焼け死にました

〇寂れた一室
  ドジソン達は保護団体に引き取られました
  始めは警戒していた猫たちですが、温かく広い部屋に美味しいご飯、なにより綺麗なトイレのある生活に、次第に心を開いてゆきます
  子猫達は遊びながら社会性を身に着けてゆき、それぞれの性格もはっきりとでてきました
  義理人情に厚く、面倒見の良いハンス
  甘えん坊で人懐こいペロー
  遊ぶのが大好きで、いつもおいかけっこをしているヤーコプとヴィルヘルム
  何にも縛られない、自由気ままなドジソン
  子猫達は愛情を受けて、すくすくと元気に育ってゆきます
  まだ小さいドジソン達は、勉強もかかせません。先住猫は生きる為に大切なことをたくさん教えてくれます
  先住猫によれば、ここは猫のお世話係に志願する人間を選別する場所なのだそうです
  悪い人間がお世話係にならないよう、厳しい基準を通過した者だけが、猫に謁見できるのです
  特にブリーダーの家に生まれた猫は、金儲けを企む人間に狙われやすいから、気を付けるように言われました
  それでも人懐こいペローは、謁見にきた人間を気に入って、新しい家へ行きました
  しかし、ドジソンは家臣は自分で見つけたい派だったので、決して人間に懐いたりはしませんでした

〇寂れた一室
  飼い主が見つからないまま、何日かした夜、事件が起こりました
  真っ暗な中、電気もつけずに一人の人間が、施設に侵入してきたのです
  男は、ハンス、ヤーコプ、ヴィルヘルム、ドジソンを乱暴につまみ上げると、袋へ入れて、連れ去ってしまいました

〇渋滞した高速道路
  ドジソン達は車でどこかへと運ばれてゆきます
  しかし、ドジソン達はこの人間を家臣にしたくありませんでした。袋の隙間から抜け出して、座席の下に隠れてしまいます

〇赤レンガ倉庫
  車が止まると、ドジソン達は車から逃げ出しました
  誘拐犯は猫がいないことに気付かず、取引相手に空の袋を渡します
  もちろん、お金は貰えません。怒った取引相手は代わりに鉛の弾をあげました
  誘拐犯は魚の餌になりました
  可愛い猫との生活を夢見ていた取引相手は、絶望に塞ぎこみました
  彼は祈りました。二度と悪事をしないこと、これからは真っ当な人生を送ること、猫の為に全てを捧げることを
  その姿を見たハンスは、男を哀れみ、下僕にしてやることにしました
  男はハンスの優しさに心を打たれたのか、涙して、両ひざをつき、平伏して、服従の意を表現しました
  その後、男は己の財産全てを保護団体に寄付します
  そして、自身はハンスの幸せを守ると共に、法で裁けぬ悪質ブリーダーを始末してまわることに、生涯を費やすのでした

〇豪華なクルーザー
  ドジソン達は、家臣を見つけるべく、船へと乗り込みました

〇施設の廊下
  ドジソン達を乗せた船は港を出て、長い航海が始まります
  船の中は、揺れが激しく、船員も臭くて、ドジソンにはあまり居心地の良い場所ではありませんでした
  けれど、楽しみもあります
  ネズミ狩りです
  ネズミを捕まえて、狩りの下手な船員達に自慢すると、褒め称えてくれます
  たくさんの船員がいるので、ごはんを出すのを忘れられる心配もなく、トイレの掃除もきちんとしています
  船員が臭いのと、揺れることが気にならなければ、とてもよい環境でした

〇赤レンガ倉庫
  それでも、港についたら、ドジソンは船を降りました
  褒められるのは好きだけど、船の揺れと船員が臭いのに、我慢できなかったのです
  ヤーコプとヴィルヘルムは、揺れも臭いも気にしなかった為、船に残りました
  ドジソンは、また家臣を探す旅に出ました

〇海辺の街
  ドジソンは、街で一番、大きな家を探しました
  ブリーダーの家より大きい保護施設には、人がたくさんいました。保護施設より大きな船には、もっとたくさんの人がいました
  大きな場所には、たくさんの人がいます。たくさんいれば、自分の気に入る家臣もいると思ったのです

〇立派な洋館
  ドジソンは町はずれにある、大きな屋敷を見つけます
  外に人の気配はありません。雑草は伸びきって、手入れをしている様子もありません
  でも中からは何やら動物たちの声が聞こえます。耳をすませば人の足音も聞こえます
  ドジソンは、きっと中には、たくさんの人が詰まっているのだろうと思い、中へ入りました

〇古生物の研究室
  屋敷の中には、たくさんの動物達がいました
  ドジソンの見たことのない動物達。彼らはドジソンに何かを伝えようとしていました
  しかし、言葉は通じません。ドジソンはなんとか聞き取ろうとしていると──
  突然、誰かにつまみあげられて、ケージへ叩き込みました
  ここは秘密の実験施設だったのです。動物たちは、皆、実験のために捕まっていました
  動物達はドジソンに逃げるように言ってたのでした

〇古生物の研究室
  しかし、チェシャ猫のドジソンにケージなんて意味ありません。瞬間移動でケージを抜け出しました
  ドジソンは他の動物達も外に出たいのだと思い、ケージの鍵を探します
  すると机の上に置いてある瓶が目に入りました
  瓶は机の端に置いてあり、猫の手でもちょっと押せば落とせそうな場所にあります
  ドジソンは無性にその瓶を落したくなりました
  ドジソンが瓶をちょんちょんと、いじっているのを、研究所の職員が見つけます
  職員は驚いて、止めに入ろうとしますが、間に合いません
  瓶は割れて中のウイルスが辺り一面に飛び散りました
  ウイルスは動物には効果がなかったため、ドジソン達は無事でした
  人間には効果があったので職員達は、もれなくゾンビになりました

〇立派な洋館
  ドジソンは鍵をゴリラに渡して、代わりに開けて貰うことで、動物達は研究所から脱出できました
  ゾンビはごはんをくれないし、トイレも片づけないので、ドジソンは家臣を見つける旅に戻ります
  ドジソンがこれからどこへ行こうか考えていると、草むらをかき分けて女の子が現れました
  ドジソンは女の子に捕まりました
  つづく

次のエピソード:後編

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