第10話「悪の遺伝子」(脚本)
〇黒背景
黛ましろ「私、だけ・・・私だけが静の願いを 叶える事が出来るんだ・・・」
黛ましろ「ふふ・・・ふふふ・・・」
静が全てのカードを捨てて手に入れたもの
それはましろの更なる心酔だった。
静に依存すればするほど、
強くなるましろ。
そして――家畜が2人、
圧倒的な力の元に散った。
〇玄関内
『ピンポーン』
黛ましろ「・・・はい」
毛利陸男「どうもこんにちは~」
黛ましろ(・・・この人誰?)
男の後ろには少女が、隠れるようにして
やりとりを伺っている。
毛利陸男「わわっ! 構えないでくださいよっ! 確かに俺はストレイシープですけどっ!」
毛利陸男「今日は戦いに来たわけじゃないんですっ! お願いですから綾瀬さんと話しを・・・」
黛ましろ「・・・ストレイシープならなおさらだめ。 ――サモン」
毛利陸男「ちょ、ちょっと、待ってください! 綾瀬さん、綾瀬静さーんっ!」
綾瀬静「――なんだか騒がしいけど・・・ どうした?」
黛ましろ「静、なんでもないよ」
毛利陸男「ああっ! ちょうど良かった、 やっぱり綾瀬さんを呼んで良かった! 3回目でやっと殺されずに済みましたよ~」
綾瀬静「3回目? 殺されず? どういう意味だ?」
訝し気に眉を顰める静に
男は愛想笑いを浮かべた。
毛利陸男「あの、俺、 ストレイシープの毛利陸男って言います」
毛利陸男「こっちは小早川愛良さん、 俺の契約したスケープゴートです」
小早川愛良「・・・はじめまして・・・ 小早川愛良、です・・・」
何処か怯えたような表情で、たどたどしく
挨拶をする愛良は、ましろと同じ年頃か、
少し上の様だ。
毛利陸男「ちょっと長くなっちゃうんですけど・・・ 出来ればちゃんと説明したいので・・・ おうちにお邪魔して良いでしょうか?」
〇綺麗なダイニング
毛利陸男「単刀直入に言うと・・・」
毛利陸男「一定期間だけで良いんで、 俺達を襲わないで欲しいんです」
綾瀬静「却下だな」
毛利陸男「はやっ!」
綾瀬静「その申し出を受け入れるメリットが 俺達には無いからさ」
小早川愛良「そんなこと言わないでください! どうか・・・どうか、お願いします!」
陸男の隣で控えめな様子で座っていた
愛良が必死に食い下がる。
小早川愛良「私には弟がいるんです、 でも難病に侵されていて・・・」
小早川愛良「あと数年しか生きられないだろうって 言われてます・・・」
小早川愛良「・・・私は、弟が天国に旅立つ瞬間まで 見守ってあげたいんです」
小早川愛良「どうか私に、 弟の看病に専念させてくれませんか?」
毛利陸男「この休戦には綾瀬さんにも メリットがあると思います」
陸男はそう言うと2枚のカードを見せた。
綾瀬静「トゥルータロットか・・・ これは運命の輪と愚者、か?」
毛利陸男「はい。この2枚は俺達の切り札です。 きっと綾瀬さんはこのカードの力を 知りませんよね」
毛利陸男「運命の輪は時間を操る事が出来ます。 巻き戻したり、早送りしたり・・・ と言っても1分間だけですが」
毛利陸男「インターフォンを鳴らしてましろさんと 会話するのは・・・ 実は3回目だったんですよ」
毛利陸男「1回目はましろさんに瞬殺されかけて、 次は配達員を装ったら怪しまれて・・・ 3回目でやっと綾瀬さんと会えた」
毛利陸男「わかりますか? 俺達は勝つまで 勝負に挑む事が出来るんです―― 何十回でも何百回でも」
綾瀬静「・・・随分、気が長い話だな」
綾瀬静(だが・・・それが本当なら、 強力すぎる武器だ)
毛利陸男「俺、やり直しは得意ですから。 そして愚者は愛良さんのカードです」
毛利陸男「このカードは恥辱の仮面という刑具を 召喚します」
毛利陸男「仮面を被るとバカバカしい願望でも 1個だけ現実にする事が出来て、 そしてそれは継続出来るんです」
毛利陸男「たとえば・・・ましろさんと綾瀬さんの 契約を無かった事に出来るんです」
黛ましろ「契約を無かったことにする?」
毛利陸男「はい、その仮面を被って―― 綾瀬さんが他のスケープゴートと 契約している姿を想像する」
毛利陸男「するとその願いは現実になる」
黛ましろ「だめっ!」
黛ましろ(静が私以外のスケープゴートと契約? そんなのイヤだ!)
黛ましろ(静との契約が無くなったら・・・ 静と私の繋がりが、静と私の絆が・・・ 消されるの?)
黛ましろ(そんなのいやだ・・・あのカード、 怖い・・・すごく、怖い・・・)
ましろはすがるように、
隣に座る静のシャツの裾を掴む。
綾瀬静(ましろが不安がっている・・・ 何点かひっかかる事があるが・・・)
綾瀬静(相手にしなければならない6人のストレイ シープが、一時的と言っても1人減るのは 確かに悪い話ではないな・・・)
綾瀬静「・・・良いだろう、当分はお前達に 手を出さない事を約束するよ」
静は陸男から提案された休戦協定を
承諾したのだった。
〇総合病院
〇病院の廊下
毛利陸男「いやー、 綾瀬さんが話が分かる人で良かったよ」
毛利陸男「殺人ドクターなんて怖い感じがしたけど、意外にストレイシープの中では一番常識人! って感じだったしね」
毛利陸男「ましろちゃんも最初は怖かったけど、 愛良さんと年が近いし・・・ 仲良くなれたら良いね」
小早川愛良「・・・仲良くですか」
陸男の言葉に、愛良は歩みを止めると
複雑そうな表情を浮かべた。
小早川愛良「――私は・・・なるべくかかわりたくないです。あの人は・・・怖い」
毛利陸男「え? そうなの?」
小早川愛良「ご、ごめんなさい! 私ったら・・・こんなの陰口ですよね」
小早川愛良「それにましろさんが口添えしてくれた おかげで、綾瀬さんは休戦を約束して くれたのに・・・」
毛利陸男「いや、愛良さんの気持ちも分かるかな」
毛利陸男「ほら、2人で隠れてみてた教会の戦い ・・・あれは怖かったしね」
毛利陸男「俺は愛良さんがそうやって本音を話して くれて嬉しいよ・・・ほら、笑って」
毛利陸男「そろそろ病室の前だ。 そんな顔してると・・・愛良さんの可愛い弟の亜里寿君が心配しちゃうよ?」
小早川愛良「そう・・・ですね」
愛良は微笑んだ。
弟の前では決して悟られてはいけない。
哀しみも、不安も、恐怖も。
〇病室
毛利陸男「お見舞いに来たよ~」
陸男が開けた病室のドア。そこには
ベッドの上で微笑む亜里寿がいた。
小早川亜里寿「いらっしゃい、 お姉ちゃんに陸男お兄ちゃん」
〇病院の診察室
綾瀬静「――まさか、こんな形で君と会えるとはな」
綾瀬静「職業体験でましろの学校の優秀な生徒が くる、って聞いた時点で気付くべきだった」
海崎蓮「安心してください、 僕はあなたと争うつもりはないんです」
海崎蓮「これからも・・・出来ればこの先も」
海崎蓮は静の言葉に小さく笑った。
海崎蓮「僕、先生の生い立ちを調べました。 そして・・・すごく共感したんです」
綾瀬静「共感?」
海崎蓮「はい、貧困家庭に生まれて、 身勝手な両親に振り回されて・・・」
海崎蓮「僕も同じなんです」
- このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です! - 会員登録する(無料)