前編(脚本)
〇おしゃれなリビングダイニング
煉
オキナ「なんて読むんか?」
ママ「レンよ♪」
オウナ「意味は?」
ママ「う~ん」
ママ「炎(ファイア)」
ママ「みたいな?」
オキナ「み、みたいな?」
オウナ「子供の名前を『みたいな』でつけるんじゃないの!」
ママ「大きな声出さんで。煉が起きちゃうでしょ」
オキナ「まあまあ落ち着け。めでたい席じゃけ」
オキナ「さあ、君もガンガンいこう!」
パパ「僕はまあ、ほどほどで」
オキナ「おいおい!男たるもの一升や二升軽々飲めんといけんぞ!」
オキナ「これから父親になるんじゃろ!」
オウナ「もう、困っちょるじゃない。何でもかんでも九州男児感覚を押し付けちゃいけんいね」
オキナ「今、父親としての話をしちょるんじゃ! 女は黙っちょれ!」
オウナ「酒の話じゃろうが!」
ママ「うるさいわねいつもいつも!煉が泣いちゃうでしょ!」
ママ「喧嘩なら帰ってやって!」
「ご、ごめん・・・」
とまあ、こんな感じで。
私達お婆ちゃんお爺ちゃんの心配をよそに煉はすくすくと育ち
夏休みには東京から九州の私達の所に、
お泊りに来たりもして・・・
そして小学校に上がった夏、煉は・・・
〇雷
突然、こうなった。
〇商店街
オキナ「な、何があったんだ一体」
ママ「せっかくの夏休みだから思い切り変身してみたのよね~♪」
オキナ「め、目が金色・・・」
ママ「カラコンに決まってるじゃない」
煉「フン」
煉「うぜーんだよ」
ママ「も~超イケメ~ン!」
ママ「学校でも、抱かれたい同級生ナンバーワンなのよね~」
オウナ「その学校、すぐ転校させなさい」
ママ「と、いうわけで今年もヨロシクね~」
パパ「いい子にしてるんだぞ煉」
煉「フン」
煉「うぜーんだよ」
「カッケー!」
東京よ・・・全部東京のせいだわ!
退廃のメガロポリスが娘を、孫を、こんな不良に変えてしまったのよ
いいわ・・・
〇海辺の街
山と川と海に囲まれた程よい田舎町。
定年後住みたい県ランキング急上昇中の、のどかな空気感で煉のバイオレンスにささくれだった心を解きほぐしてあげるわ。
〇立ち食い蕎麦屋の店内
お客「おばちゃ~ん!」
お客「ゴボ天まだ~?飯休終わっちゃうよ~!」
オウナ「あいよー!今すぐー!」
お客「おー。今日も混んでるねー」
オウナ「はーいカウンターにどーぞ!」
オウナ「一人でやっとるからね~少し待っててね~」
お客「大将は?また昼間から飲んじょるんか?」
オウナ「ちょっと目を離した隙にちょっと一杯だけってちょっと出てったきりなのよ」
オウナ「ねえ煉~」
オウナ「またお店手伝ってくれる~?」
オウナ「去年と同じで、お蕎麦運んでくれるだけでええから~」
オウナ「・・・」
オウナ「煉?」
オウナ「・・・」
〇立ち飲み屋
オキナ「う~ん。やっぱアレだな~」
オキナ「これからの時代昼飲みもガンガン推奨していかんと生き残っていけんけえの~」
ホオムラン健「おいおい大将~ほどほどにしちょけよ~」
ホオムラン健「女将さんに見つかったらまた・・・」
ホオムラン健「いらっしゃ~・・・」
オウナ「どけやデブ!」
ホオムラン健「ぐはあッ!」
オキナ「な、なんだ!俺は今戻ろうと思って・・・」
オウナ「煉が・・・煉がいなくなったんよ!」
オキナ「なにいいいいい?」
〇商店街
かつては宿場町だった白崎。
一時期は日本を支える製鉄所のおひざ元として栄えた商店街も昔の話。
今は、パンフレットに載っている街なみの写真がプロモーション詐欺スレスレじゃないかと思うほど寂れ廃れきっている。
それでも、昭和、平成、令和と私達夫婦はよく頑張ってきたと思うわ。
今だって数あるチェーン店を敵に回しながらもそこそこ繁盛してるし。
これも全て頼りになる夫の・・・
オキナ「すまん!ちょっと待ってくれ!」
オウナ「どうしたん?」
オウナ「飲んじょる場合か!」
オキナ「なに心配いらん。ワシに心当たりがあるけ」
オウナ「心当たり?」
〇街中の道路
オキナ「おーい」
オキナ「おーい」
オキナ「煉~」
オウナ「なんしよん?」
オキナ「隙間いや」
オウナ「?」
オキナ「煉は隙間に入るんが好きじゃったやろうが」
オキナ「わざわざ汚ったない場所を選んで入っとったやろうが」
オキナ「あと、これの口の中とか・・・」
オウナ「・・・」
オキナ「お、おい。どこ行くんじゃ」
オキナ「隙間はまだ他にも・・・」
〇雑居ビル
オウナ「煉~いるんやろ~」
オキナ「ひ、ヒトカラ!?」
オキナ「小1で!?」
オウナ「Wi-Fiよ」
オウナ「あの子、最近ずっとゲームしてたやろ」
オウナ「街中のWi-Fiスポット調べるけえね!」
オキナ「わ、わいふぁい?」
オウナ「そこからか~」
オキナ「それより隙間じゃ!隙間を探すんじゃ!」
オウナ「馬鹿やないん!もう小学生なんよ!なにが隙間かん!」
オキナ「隙間!」
オウナ「Wi-Fi!」
オキナ「隙間!」
オウナ「Wi-Fi!」
ホステス茉美「ん?」
ホステス茉美「ちょっと何やってんの?また喧嘩?」
ホステス茉美「鬱陶しいわね~街中で。とっとと熟年離婚すりゃいいじゃない」
オウナ「あ、マミちゃんもう出勤?」
オキナ「煉、見なかったか?今年は金髪になっちょるけどな・・・」
ホステス茉美「孫ちゃん?見てないけど」
オウナ「いなくなったんよ」
ホステス茉美「え?マジで?」
オキナ「アンタも探すん手伝ってくれんかいの?」
ホステス茉美「いいわ。ライブハウスのみんなにも声かけてみるね!」
ホステス茉美「あと、不動産屋の社長とか市議会議員とか自治会長とかにもね」
「さすが、顧客が太い!」
オウナ「やっぱり若い人がいると頼もしいね~」
オキナ「フットワークが違うの~」
「商店街の未来も安心!」
「言いよる場合か!」
続く