エピソード30・勇の中(脚本)
〇教会の控室
矢倉亮子「おめでとう!おめでとう、蒼!」
小野坂真里亞「おめでとうございます、蒼様!」
須藤蒼「お、おばあ、ちゃん・・・」
須藤蒼「そ、それと、秘書の小野坂さんも・・・」
矢倉亮子「本当に素晴らしい。誇らしいわ、蒼!」
矢倉亮子「貴方はついにやり遂げたのね。念願の、救世主を見出したのね!」
小野坂真里亞「ええ、大変喜ばしいことです。これで、数十回とゲームを繰り返した意味があったというものです」
須藤蒼「数十回・・・」
須藤蒼「ああ、数えてなかったけど、そんなに僕は・・・」
矢倉亮子「何も悲しむことなんてないわ。これで、ようやく貴方の苦しみも報われるのだから」
矢倉亮子「今までたくさんの知らない人と話をさせて、ゲームに参加させてごめんなさいね、蒼」
矢倉亮子「でも、分かって頂戴ね。全ては、貴方の為なのよ」
矢倉亮子「そして、世界を救うため。救世主を見いだせというのが、神様のお告げだったのでしょう?」
矢倉亮子「そうしなければ、貴方の力は目覚めない、と」
矢倉亮子「忘れてはいけないことよ。貴方は、この世界を救うため、悪魔を討ち滅ぼすために生まれてきたの」
矢倉亮子「そのためにこの試練はすべて必要なことだったのよ」
須藤蒼「たくさんの人が、死んだことも?」
矢倉亮子「ええ、仕方ないことだったの。そもそも、あの人達が救世主になる要件を満たしてくれたら、こんなことにならなかったわ」
矢倉亮子「あの人達は神様に愛されなかった。選ばれなかった。だから死んでしまった。それだけのこと。貴方は気にしなくていい」
矢倉亮子「神様に認められない人間のことなんか、貴方は捨て置けばいいの。もとより、あの人達は信者じゃないんだから」
矢倉亮子「大丈夫!貴方が覚醒すれば、必ず悪魔は倒せる!」
矢倉亮子「そして、神様を正しく信じる清らかな心を持つ者達全てを救ってくれるわ」
矢倉亮子「神様を疑う人、信じない人、愛されない人、認めらない人。その人達は最初から救われる資格がなかったんだからしょうがないの」
須藤蒼「・・・・・・」
小野坂真里亞「・・・蒼様?どうかされたのですか?」
須藤蒼「・・・そういう御託は、もういいよ」
須藤蒼「その救世主が・・・輪廻さんが毒を受けて、死にかけてる」
須藤蒼「僕の力じゃ廊下までしか連れてこられなかったけど、ゲームの流れはおばあちゃん達も把握してるはず」
須藤蒼「血も相当抜いてるし、かなり危ない状態だ。早く、輪廻さんを病院に連れていって!」
須藤蒼「このままじゃ、本当に・・・!」
矢倉亮子「彼のことが心配なのね。本当に貴方は優しい子だわ」
矢倉亮子「ちょっと前に出会ったばかりの人のことも心から愛せる、まさに神の子に相応しい器ね」
矢倉亮子「でも大丈夫。手当の必要なんかないわ」
須藤蒼「え?どういう・・・」
矢倉亮子「彼が本当に救世主として相応しい器なら・・・」
矢倉亮子「あの程度の毒に負けて、死んだりするはずないでしょう?だって神様の加護があるんですもの」
須藤蒼「・・・・・・は?」
矢倉亮子「神様に選ばれし人は、どんな状況でもちゃんと生き残るものよ」
矢倉亮子「それこそ大地震が起きても、津波でも台風でも火事でも。神様の力で守られて、死んだりしないの」
須藤蒼「な、何、言って・・・」
矢倉亮子「彼が少し、自己犠牲が強すぎたのは残念だったわね」
矢倉亮子「カプセルの試練でも、あの三人の生贄なんて無視して進めば良かったし・・・」
矢倉亮子「次の子供達だってそうよ。あの少女は信者としての役目を忘れて逃げ出そうとしたわ」
矢倉亮子「二人のお友達は、彼女が役目から逃げるように唆した・・・まさに悪魔に憑りつかれていた使徒と言っても過言ではないわ」
矢倉亮子「だから、彼らの誰を犠牲にしても良かったのよ。相応しい罰が下るだけなのだから」
矢倉亮子「それなのに自分に打ってしまうなんて・・・やはりまだ神様の教えを知らない人は、目が曇っているということなのかしらね」
矢倉亮子「とはいえ彼はそういう選択をした。それが神様のお導きだったということでしょう」
矢倉亮子「つまり、毒を打っても死なないと神様が判断したということ!病院になんか連れていったら、その加護を疑うことになってしまうわ」
矢倉亮子「ね、そんなこと駄目でしょう?貴方は神様の子供なんだもの。その加護を、疑ったりなどしないわよね?」
矢倉亮子「少し休んで貰えばいいわよ。そのうち目覚めるわ」
矢倉亮子「万が一目覚めなかったら、残念だけど彼は本物の救世主ではなかった。それだけのことよ」
須藤蒼(・・・駄目だ)
須藤蒼(まったく、話が通じない)
須藤蒼(狂信者とは、かくもここまで救いようがないものなのか・・・)
〇黒背景
僕はずっと、間違っていた。
間違っていることがあっても、嫌なことがあっても、我慢して耐えていれば・・・いつか誰かが助けてくれると思っていた。
都合の良いヒーローが現れて、助けてくれる時が来ると。
でも。そうやって僕が他人を頼ろうと、“救世主”なんて言葉を口にした結果・・・こんな愚かなゲームが始まってしまった。
僕は、間違っていたんだ。本当に助かりたいなら、自分自身の力で足掻く勇気を持たなければいけなかった。
〇殺風景な部屋
根本水鳥「子供を守るのは、私達大人の役目であり義務なんだから。君は、私の心配なんかしなくていいんだからね?」
〇坑道
新條征爾「だから何が何でも生きて帰るし、君も死なせない!消防隊員、新條征爾の名にかけてな!」
〇警察署の食堂
田中一昭「そうさ。だからおじさんは、蒼くんが喜ぶ顔も見たいな」
〇研究施設の廊下
峯岸輪廻「俺はお前のことが好きだ。だから助けてやりたい。もう面倒だから、理由はそれでいいってことにした!」
〇黒背景
いなくなった人達が。
僕を助けてくれようとした人達が。
どんな酷い場所でも笑っていたように。誰かを助ける気持ちを忘れなかったように。
彼らがくれた想いを、僕も繋ぐんだ。
そのために今、僕にできることは。どんな手段を使ってでも・・・輪廻さんを救うこと。
そしてこの愚かなゲームに、教団に終止符を打つこと。
そのために、僕は。
〇教会の控室
須藤蒼「・・・・・・」
須藤蒼「おばあちゃん」
矢倉亮子「なあに、蒼・・・って」
矢倉亮子「あ、蒼!?なんでナイフなんか・・・・・・!」
須藤蒼「水を入れるカプセルがあった部屋。あそこにはいろんな刃物があったから、持ち出してきたんだ」
須藤蒼「こういう使い方をするとは自分でも思ってなかったけど」
小野坂真里亞「ど、どうなさったのですか、蒼様?一体何をなさるつもりです!?」
須藤蒼「何を?決まってる。取引だよ」
須藤蒼「おばあちゃん。今すぐ救急車を呼んで。輪廻さんを病院へ運んで治療して」
須藤蒼「この場所が警察にバレると困るからできない?」
須藤蒼「人を誘拐してきた事実が知られたらまずいから呼べない?」
須藤蒼「そんなもん関係あるかよ!」
矢倉亮子「あ、蒼・・・!?何をしてっ・・・」
須藤蒼「もしおばあちゃんが言う通りにしてくれないなら、僕は今此処で自分の首を掻き切って死ぬ」
須藤蒼「神様の子とされた子供は僕しかいない。そして僕がいなくなればおばあちゃんの“救済”は破綻する!」
須藤蒼「さあ、選んで!輪廻さんを助けて僕も救うか・・・それを拒んで、全てを台無しにするのかを!!」
小野坂真里亞「・・・・・・っ!」