デス・パレードは祈りと共に

はじめアキラ

エピソード29・覚の中(脚本)

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〇教会の控室
矢倉亮子「・・・あら?」
矢倉亮子「この音が鳴った、ということは・・・!」
小野坂真里亞「おめでとうございます、教祖様。試練が初めて、無事、最後まで終了したという合図です」
矢倉亮子「まあ、まあ!やっとなのね?やっと・・・私たちの救世主が誕生したのね?」
小野坂真里亞「そうですね。最後の試練をクリアしなければ、この鐘は鳴りませんから」
矢倉亮子「素晴らしい!やっと、私達の苦労が報われる日が来たということね・・・!」
矢倉亮子「ああ、本当に今日まで長かったわ。一体どれくらいの人員とお金を無駄にしてきたことか」
矢倉亮子「まさかこれだけの数、ゲームを繰り返す羽目になるなんて思ってもみなかったもの」
矢倉亮子「丁寧に選別したつもりだったけれど、思った以上に誰も彼も弱い心の持ち主ばかりで」
矢倉亮子「本当に意外なものね。一番可能性の低いと思っていた・・・普通の高校生の男の子が、救世主として最も素質を備えていたなんて」
矢倉亮子「彼は確かに、進学校で学年トップを取るくらい頭脳面は優秀だったけど」
矢倉亮子「身体能力という意味ではさほど優れたものではなかったはずなのに。予想はできないものね」
小野坂真里亞「そうですね、教祖様。意外と・・・普通の心を持った者こそ、神子様と心を通わせることができるものなのかもしれません」
小野坂真里亞「もうじきいらっしゃるはずです。我々は静かに、その時を待ちましょう」
矢倉亮子「ええ、そうね。本当の救世主なら・・・あの程度の毒に負けることなく、ちゃんとこの部屋までたどり着けるはずだものね・・・!」

〇研究施設の廊下
須藤蒼「はあ、はあ、はあ・・・!」
峯岸輪廻「・・・・・・」
まちか「お、お兄さん・・・」
みれい「おい、輪廻さん、だっけ?顔真っ青だぞ。大丈夫なのかよ・・・?」
れつ「・・・どう見ても大丈夫じゃない。呼吸も浅いし・・・」
まちか「や、やっぱり、さっきの薬やばいものだったんだよ・・・!」
まちか「わ、私が自分に打ってれば、打ってれば・・・!」
みれい「おい、みれいよせって!今そんなこと言ってもどうしようもないだろ!」
まちか「そ、そうだけど、そうだけど、でもっ・・・!」
須藤蒼「うっ」
須藤蒼「だ、駄目だ。僕達だけじゃ、廊下までしか意識のない輪廻さんを運べない・・・」
須藤蒼「ガスが出るとかトラップがどうたらとか、そういうアナウンスはなかったから大丈夫だとは思うけど・・・」
須藤蒼「・・・・・・」
須藤蒼「・・・まちかさん、みれいさん、れつくん。頼みがあるんだ。この廊下にいれば安全だと思う。だから・・・」
須藤蒼「ここで、輪廻さんを見ててくれないかな」
まちか「え!?」
みれい「お、おい。まさか、お前一人で先に進むつもりか!?」
れつ「だ、駄目だ、危ない。お前だって、俺達とそんなに年変わらないだろ?」
れつ「俺も一緒に行く。二人なら、まだ・・・!」
須藤蒼「ありがとう。気持ちは嬉しいよ。でも大丈夫」
須藤蒼「まちかさんは知らなかったみたいだけど。僕は、教団においてちょっと特別な立場の人間なんだ」
須藤蒼「故あって輪廻さんと一緒にゲームに参加してたけど、そう簡単に殺されないと思ってくれていい」
須藤蒼「教祖は僕のおばあちゃんで、おばあちゃんも僕の意見ならある程度聞いてくれるはずなんだ」
須藤蒼「それに・・・君達三人は、ゲームの“試練”として設定されたキャラクターだろう」
須藤蒼「一緒に来ることは、おばあちゃんも想定してないはず。そもそも、輪廻さんが手錠を壊さなかったら君達は部屋から出られてないし」
須藤蒼「下手に君達が一緒に来ると、ペナルティがあるかもしれない」
須藤蒼「君達は・・・輪廻さんが命がけで守った存在だ。君達に何かあったら、輪廻さんが悲しむ。僕は、それだけは絶対に嫌だ」
須藤蒼「だからここで・・・僕がおばあちゃんを説得するまで。輪廻さんを守ってほしい」
須藤蒼「・・・頼むよ」
まちか「蒼くん・・・」
みれい「そんな・・・あ、あたし達、あんた達を騙そうとしたのに・・・」
みれい「いいのかよ、そんな簡単に信じて。それに・・・」
みれい「あんたが特別って言っても、まちかはあんたがそういう人間だって知らなかったんだぜ?」
みれい「輪廻さんが気付かなかったら、あんたが毒を打たれて死んでたかもしれないのに・・・」
まちか「そ、そうだよ、なんで・・・」
れつ「・・・・・・」
れつ「お前も、男として覚悟を決めたのか」
みれい「へ!?」
れつ「わかった、任せろ。俺達は、お前たちに恩がある。一生かかっても返しきれない恩が」
れつ「輪廻さんは、俺達が守るよ。お前が俺達を信じてくれた分、俺達もお前を信じる」
れつ「まちか、みれい。・・・・・・いいよな?」
みれい「れつ、あんた・・・」
まちか「れつくん・・・」
まちか「ふふっ。今、かなりかっこいいよ!」
れつ「や、やめろって、馬鹿!」
須藤蒼「みんな、ありがとう・・・!」
峯岸輪廻「う、うう・・・」
須藤蒼「輪廻さんを、よろしくお願いします!」

〇黒背景
  人は、誰しも一度は経験する。
  目の前に聳える大きな壁に、自分自身の弱さに、運命に。
  立ち向かわなければならない、その時を。
  本当に対決するべき相手は、ひょっとしたら自分自身なのかもしれない。
  とにかく今、僕は確信していたんだ。
  今こそ、立ち向かえ。
  輪廻さんがくれた勇気を武器に。
  ずっと逃げ続けて来た、自分自身の宿命を。呪いを。――さあ、打ち破れ。

次のエピソード:エピソード30・勇の中

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