第9話「バカになれてちやほやされる場所」(脚本)
〇大広間
貴族1「・・・貴殿はあの噂を聞きましたか?」
貴族1「ほら最近サロンやパーティーに頻繁に出入りしているシェンケル男爵の始めた・・・」
貴族2「『あの店』の件でしょうか? でしたら私は先日、行ってきたばかりですよ」
貴族1「ええっ!?」
貴族2「最初は女が酒を注いで会話するだけ・・・ なんて聞いてたので馬鹿にしていたのですが・・・」
貴族2「いや、素晴らしい。 店の雰囲気もそうだが・・・ なによりもあの美女達が最高でした」
貴族1「いや、しかし酒を飲んで会話をするだけというのは・・・」
貴族2「――では、どうです? 今晩、一緒に行きませんか?『あの店』に」
貴族1「なるほど、百聞は一見に如かず・・・ では今晩一緒に参りましょうか・・・」
貴族1「『キャバクラ』とやらに」
〇ホストクラブ
リュウ「――本当にアネゴの言う通り、 キャバクラは大当たりしましたね」
権田原万里「男の大半は日常を忘れてバカになれてちやほやされる場所が欲しい生き物だ」
権田原万里「それが店って言う合法的な場所であればなおさらな」
キャバクラは口コミでまたたくまに上流社会の男達の間で話題になった。
〇赤いバラ
そして開業2か月目に迎えたキャバ嬢のバースデーイベント。
王族と大富豪の太客を掴んだ彼女のイベントは盛大で結果、店は町中の酒を買い占める伝説を作ったのだ。
もちろん売上は2か月でマダムの所有する娼館の売り上げの倍を優に超えた。
私は実質マダムに勝ったのだが、
きちんと規定通りの上納金を払った。
〇豪華な部屋
マダム「凄いじゃないか! アンタならきっとやり遂げるとアタシは思ったよ・・・これからもよろしく頼むよ」
因業ババアが手のひらを返してすり寄ってくる様は滑稽で今思い出しても笑えて来る。
まあ、私も今後ともよしなにお付き合いしたいのでその後は良好な関係を保っている。
〇ホストクラブ
権田原万里「・・・そしてそれは男だけじゃない」
ヤス「ホストクラブも大当たりしてますしね」
そう言うとヤスは店内を見回した。
そう、私はキャバクラの利益を元にして居抜きのレストランと男の奴隷を購入し、ホストクラブを開業したのだ。
淑女「ああ、なんて楽しいのでしょう!」
淑女「ウィットに富んだ会話とお食事を・・・ 貴方のような美しいホストにして貰えるなんて」
ホスト「貰える、だなんて恐れ多い。 むしろ私の方がマダムに選んで頂けたのに」
淑女「ふふ・・・ 謙虚な殿方と言うのも良いものですわね」
淑女「ではもう一本、 ボトルを入れさせて頂こうかしら」
ホスト「ありがとうございます、マダム・・・」
ホスト「テーブルにボトル入りまーすっ!」
「ありがとうございまーすっ!」
昨今の社交界ではキャバクラが流行し、
中にはキャバ嬢をパートナーとしてパーティーに連れていく男性貴族もいる。
男だけの遊びに嫉妬し、羨望していた上流階級の女性は自分達も楽しめるホストクラブに食いついた。
権田原万里「・・・本来のホストクラブとはちょっと違うがな」
世界が変われば常識も変わる。
男性と違って、女性の遊びはあまり許されていない世界だ。
なので、この世界のホストクラブはあくまでもホストは給仕係と言い通すためにレストランとして運営している。
エミール「マリアンネ、 今日のシフトで相談があるんだ」
エミール「我らの英雄シグルズの二日酔いが治っていない様でね」
権田原万里「昨日はだいぶ飲まされてたからな」
エミール「そこでだ。 この機会に見習いのハーラルを新人ホストとして出したいのだがどうだろう?」
エミール「確かに彼の立ち振る舞いは洗練されてはいないが、逆にそれに初々しさを感じるご婦人も多いと思うんだよ」
権田原万里「ふむ・・・教育係の兄貴が言うなら間違いないだろう。任せるよ、支配人」
意外な事にエミールはサービス業には向いていたようだ。
経営者として表舞台に立ってもらい、サロンやパーティーにも出入りをしてもらっている。
そのうえ男奴隷達の教育係や、
黒服としての仕事もこなしてくれている。
おかげさまでシェンケル家は潤い、
帝国にたっぷりと納税と寄付が出来た。
これでエミールが徴兵される事も私が士官学校に入る事も無いだろう。
仕事が忙しく、そして3馬鹿がウザ過ぎて
学園に全く通わなくなってしまって数か月経ったが・・・。
こうしてひと息つくと思い出す事がある。
権田原万里(・・・エリーザは元気だろうか)
エリーザ「――やはり、ここにいたのね」
彼女の事を考えていたから幻聴が聞こえたのだろうか?
権田原万里「エリーザ様! なぜここに?!」
しかし・・・振り向いたそこには幻聴では無く本人が立っていた。
エリーザ「屋敷を訪問したら、ここにいると聞いて。 わたくし、貴方に一言物申したくて」
エリーザは腰に手を当て、
怒った様に仁王立ちをしている。
エミール「ん? こちらの美しい女神はマリアンネのお友達かい?」
エミール「初めまして私はマリアンネの兄のエミールです」
空気を読まずに声を掛けるエミールにエリーザはキッと睨んだ。
エリーザ「貴方が噂のマリアンネさんのお兄様ですわね」
エリーザ「わたくしは帝国の太陽に寄り添う誇り高き薔薇、エリーザ・アイファー・ユヴェーレンですわ」
エリーザ「ご挨拶も早々ですが、お兄様にはマリアンネさんよりも先に言っておきたい事がありますの」
エリーザ「学生の身の妹をこんなに働かせて貴方には 保護者の自覚がありますの? だいたい・・・」
機関銃の様なエリーザの口撃にエミールはたじたじだ。
まあ、今はまともになったとはいえ、一度はきちんと誰かに叱られるべきだろう。
リュウ「年上にも容赦ないっすね、エリーザ様は」
ヤス「ああ・・・エミールの旦那の顔を見てみろよ。HPはゼロどころかマイナスだ」
エリーザ「――ま、最近は無職を脱却しているようですけど、マリアンネさんのおかげでもある事を忘れないでくださいな」
エミール「は、はい・・・肝に銘じます」
エリーザ「ちゃんとお店の細部にも気を使って・・・」
エリーザ「そうそう、 さっきから気になっていましたの」
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