極悪非道の正統ヒロインですが清廉潔白な悪役令嬢と幸せになります~咲かせて魅せます、百合の華~

イトウアユム

第7話「福利厚生はパンチラです」(脚本)

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〇洋館の一室
権田原万里「・・・あの因業ババア、やりやがったな」
  私は借りた屋敷に入るなりうんざりした。
  ほこりが積もった建物の印象は一言で言うと乱雑だった。
  娼婦が客を刺した、と聞いたが客は刺された後かなりの時間逃げ回ったのだろう。
  廊下や階段は血で汚れ、家具は倒され、
  壁紙は切り裂かれている。
権田原万里「そこら中血だらけだし、めちゃくちゃだ」
権田原万里「それに・・・この建物全体に呪いが掛かってるじゃねえか」
  娼婦は客以外にも店によっぽど恨み辛みが募っていたらしく、そして娼婦自身の魔法スキルも高かったようだ。
  鑑定スキルが無くても分かるくらい、色濃い呪いが屋敷を包み、それが悪霊を呼び出して荒んだものにしているのだった。
ヤス「こんな屋敷を吹っ掛けようとしてたなんてあのババア、ある意味お嬢以上のやり手っすね・・・」
ヤス「これ、お嬢の『浄化』のスキルでなんとかなりませんかね?」
権田原万里「あれは聖女の称号に付随してるからなぁ」
権田原万里「信仰心のステータスが下がりっぱなしの今の状態じゃ効果も期待出来ねえぞ」
リュウ「どうします? 僧侶やシスターに浄化を頼むにしても、結構費用がかさみますぜ」
権田原万里「・・・仕方ねえ、玄人に頼むか」
「へ?」

〇洋館の一室
???「・・・この地に災いをもたらす悪しき存在よ、去れ!」
悪霊「ギャアアアアア」
  男の持つ杖から光が放たれると、フロアの隅に浮かんでいた黒い影が断末魔を上げ消え去る。

〇洋館の一室
  それを確認すると男は胸の前で小さく十字を切り、私の方に振り向いた。
???「――『浄化』は終えたよ、マリアンネ」
権田原万里「ありがとうございます、シモン先輩」
  私はマリアンネになりきって、目の前の見るからに堅物そうな男ににっこりと微笑む。
  こいつは第二の攻略対象キャラ。
  司祭の息子、シモン・ヴェルナー。
  この男が僧侶の資格を持っているって事を思い出したのだ。
サーシャ「ボクも終わったんだけど、マリアンネ」
  そう言って現れた生意気そうな少年は第三の攻略対象キャラ。
  サーシャ・ジュリアス・クネフ。
サーシャ「・・・こっちのフロアは魔法で洗浄したし 照明器具は魔導力で明るさを調整出来るようにしたし」
サーシャ「まあ、かなり使いやすくなったんじゃない?」
サーシャ「・・・ボクのおかげで」
権田原万里「助かりました。 サーシャ君もわざわざありがとう」
  こいつは手先が器用で魔法を使ったカスタマイズが得意って設定も思い出したんだよな。
サーシャ「ふん、別に大した事じゃないし」
サーシャ「でもさ・・・本当にこんなもので良いの? 王子みたいに物とか金とかじゃなくて」
権田原万里「ええ、お二人のお気持ちで十分です」
  つか、物とか金とか、
  今まで王子に送られた事が無いんだが。
  ・・・まあ王子にも後で「おねだり」はさせて頂くが。
シモン「マリアンネ・・・俺たちはいつでも、 マリアンネの力になるよ」
サーシャ「なんか色々大変だと思うけどさ・・・王子だけでなくボク達の事も頼りにしてよね」
  そう言い残して、帰って行く2人の背中をヤスは感心して眺める。
ヤス「さすが攻略対象キャラとなると、 セリフも行いもイケメンですねえ」
権田原万里「惚れてる女に良いところを見せようとしてるんだからイケメンに見えるだけだろ」
権田原万里「っていうか・・・」
権田原万里「私はあの王子に頼ってると世間は思ってんのか・・・気に食わねえな」
  そもそも転生してからまだ一度も会ってない男なんだが・・・。
  何かくれるっていうなら、
  今すぐ金でもよこせよ、まったく。
ヤス「しかし・・・お嬢があいつらに何かを頼むなんて意外でした」
権田原万里「フン、使えるもんなら何でも使うわ」
権田原万里「特に資金の無い今なら死んだ親だってこき使うぜ」
  そう言い切るとリュウが慌てて部屋に飛び込んできた。
リュウ「アネゴ! この店宛に手紙が届いておりますっ!」
権田原万里「まさか王子からか?」
リュウ「いいえっ! エリーザ様ですっ!」

〇古い本
  余計なお世話だと思われるかも知れませんけど・・・
  お客様の目に触れる物は貴方のこだわりを尊重した方が良いかと思い、これを贈ります。
  少し早い開店祝いだと思って受け取ってくださいな。
  貴方の事業の成功を心から祈ります。

〇洋館の一室
ヤス「小切手と・・・ これはガラス細工職人の紹介状ですね。 この金でグラス類を頼めって事ですかね?」
リュウ「なるほど、飲食じゃあグラスはいくらあっても足りないくらいですもんね」
  彼女らしい気遣いのある贈り物に私は顏を綻ばせた。
  まったく、余計なお世話どころかありがたいお世話なのに。
権田原万里「リュウ、 さっそくこの職人へのアポイントを頼む」
リュウ「はい、了解っす!」
  慌ただしく館を出るリュウの背中を見送り
  2人きりになった途端。
ヤス「・・・お嬢。 やっぱりあっしは腑に落ちねえんですよ」
  ヤスはおもむろに切り出した。
権田原万里「なにがだ?」
ヤス「――キャバクラやホストクラブは日本人の感性でしか理解出来ないシステムだから日本以外では成り立たない」
ヤス「転生前にお嬢はこうおっしゃってました」
権田原万里「ああ、よく覚えているな」
ヤス「なのにお嬢は当たらないと断言したキャバクラを日本ではないこの世界で始めようとしています」
ヤス「その真意があっしにはわかりません」
権田原万里「――ヤス、 このゲームを作ったのはどこの国の会社だ」
ヤス「日本です、でも・・・この世界はどう見ても中世ヨーロッパですぜ」
権田原万里「正確には中世ヨーロッパ風な」
  私はヤスの言葉を訂正してどっかりとソファに腰を下ろす。
権田原万里「この世界は中世ヨーロッパと言いつつも、 文明レベルや制度・インフラは近世だし、 公衆衛生や医療が整い過ぎている」
権田原万里「スキルやステータスの概念だってそうだ。 これだって欧米のゲームよりも、日本のゲームの概念の色が濃い」
権田原万里「つまりだ。この世界は日本人のイメージする剣と魔法のファンタジー世界なんだよ」
権田原万里「――RPG的都合主義満載のな・・・」
権田原万里「だから私は断言出来る。 キャバクラは流行るって」
ヤス「・・・世界観の根底自体が日本人の感覚、 って事ですか・・・なるほど。 やっと理解出来やした」
権田原万里「分かったか、ヤス。この制服もデザインだって日本の学校と変わらねえ・・・」
権田原万里「変わらねえと言えば下着だ」
権田原万里「そもそも、中世ヨーロッパにブラジャーやパンティがあるってのも、おかしいだろ」
権田原万里「つうか、実家が困窮してんのに総レースやシルクのパンティなんてよく手に入れたな」
権田原万里「しかもこんな布面積の少ない・・・」

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