極悪非道の正統ヒロインですが清廉潔白な悪役令嬢と幸せになります~咲かせて魅せます、百合の華~

イトウアユム

第3話「足を洗うには良い機会」 (脚本)

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〇西洋の街並み
権田原万里(この女が・・・エリーザ)
エリーザ「どうされましたの、 そんな全身ずぶぬれで?」
権田原万里(さて、どう答えようか)
権田原万里(変質者に湖に落とされ、 殺されかけたんです・・・)
権田原万里(と正直に言うのはヤバいな)
  なにせ私もサイコパスを殺しかけてるし。
  警吏なんか呼ばれたらこっちがお縄に掛けられちまう。
権田原万里(・・・気が進まないが ・・・マリアンネになりきるか)
権田原万里「あ、あのこれは・・・ うっかり、湖に落ちてしまって・・・」
エリーザ「まあ大変ですわね」
エリーザ「けれども・・・」
  気の毒そうに私を見やるエリーザの目がきらりと光る。
エリーザ「あなたは貴族の子女であり名門シュルテン学園の生徒です」
エリーザ「街中を歩く身だしなみには気を使うべきですわ」
権田原万里「は、はい・・・」
エリーザ「そちらの猫さんは・・・ ケットシーですわね」
エリーザ「契約するのが難しい妖精と聞きますが・・・」
エリーザ「――優秀なあなたならお手の物なのかしら?」
エリーザ「それともいつものように同情を誘って契約して頂いたのかしら」
権田原万里(いちいち嫌味が混じっている様に感じるのは・・・気のせいじゃないな)
エリーザ「初めまして猫さん、わたくしは帝国の太陽に寄り添う誇り高き薔薇、 エリーザ・アイファー・ユヴェーレンよ」
ヤス「・・・へ、へい。あっしはヤスと申します」
エリーザ「・・・それで、あなたはいつまで濡れたままでいるのです?」
エリーザ「誰かに助けて貰えるまで待ち続けるおつもり?」
権田原万里「あの、替えの衣服もタオルも無くて・・・」
エリーザ「はぁ・・・ 呆れて何も言えませんわ・・・」
エリーザ「失礼」
  エリーザはうんざりしたように呟くと小さく何かを唱える。
  ぶぉん!
  すると心地良い風が全身を取り巻き、
  一瞬にして服も髪も乾いた。
権田原万里(おお・・・これが魔法か・・・)
エリーザ「こんな簡単な魔法を失念されているなんて思いませんでしたわ」
権田原万里「ありがとうございます、エリーザ様」
  言葉の端々に感じるトゲに気付かないふりをしてマリアンネらしく、笑顔で礼を言った。
  ――だが。
  私の笑顔にエリーザは忌々しそうに眉を一瞬だけ歪めるとすぐに表情を硬くする。
権田原万里(ん? なにかまずい事でも言ったか?)
エリーザ「・・・お礼は結構です。あなたの見苦しいお姿に耐えられなかっただけですので」
エリーザ「それと・・・昨日の件」
エリーザ「わたくしは正しい事をしたと思っております」
エリーザ「ゆえに一切謝罪するつもりはございません」
権田原万里(昨日の件? なんの事だ?)
エリーザ「ではごきげんよう」
  エリーザはくるりと踵を返し、後ろを一切振り返る事無く、馬車に乗って優雅に去っていった。
ヤス「――いやぁ、ゲーム通りで、 嫌味と圧が凄いっすね・・・」
ヤス「まあお嬢ほどではありませんが」
権田原万里「なあヤス。昨日の差し入れの件って・・・ 何のことだ?」
ヤス「え? ・・・お嬢、 シナリオを読んでないんですか?」
権田原万里「基本、オートスキップで進んでるんだ。 ダルくて読む気がしねえし」
ヤス「ちゃんと読んでくださいよ。ライターさんが聞いたら泣き崩れますよ・・・」
ヤス「じゃあ屋敷でご説明しましょう」

〇城の客室
ヤス「エリーザが言っている昨日の差し入れってのは恐らく、クッキーのイベントだと思います」
ヤス「お菓子作りが得意なマリアンネが手作りクッキーを王子や侍従に振舞おうとするんですよ」
ヤス「で、それをエリーザが・・・」

〇ファンタジーの教室
エリーザ「まあっ! 殿下にそのようなものを食べさせようとするなんて・・・ 恥を知りなさいっ!」
  バンッ!
ハンス「・・・ああ、せっかくのクッキーが床に」
ミハエル「なんて事をするんだ、エリーザ! マリアンネに謝れっ!」
マリアンネ「うっうっ・・・酷いです、 エリーザ様・・・」

〇城の客室
  ヤスの話に私は頭を抱える。
権田原万里「――そこまで酷いとは思わなかった」
ヤス「そうですね、せっかく作ったクッキーを払い落とすなんて」
権田原万里「てめえも馬鹿か。 酷いのはマリアンネの方だ」
権田原万里「いいか、人の上に立つヤツほど命を狙われやすい・・・」
権田原万里「私のボディガードのおまえなら分かるよな?」
ヤス「あっ・・・!」
権田原万里「そんな王子に料理番でもシェフでも無い素人の小娘が毒見もせず手作りのお菓子を食べさせようとする・・・」
権田原万里「この世界なら不敬罪モンだろうが」
ヤス「確かに・・・! お嬢のおっしゃる通りです」
権田原万里「第一、侍従はどうした? 確かハンスってやつがいたよな?」
権田原万里「ゲームでも王子にべったり付き添っていた奴」
権田原万里「そいつは止めなかったのか?」
ヤス「えーっと・・・ イベントじゃあ、むしろ美味しそうだなんだって言って勧めてましたね」
権田原万里「――王子も王子なら、侍従も侍従だな ・・・クソ過ぎる」
  大切な婚約者の王子にそんな不敬を働いた女がニコニコ笑いかければ腹も立つし態度も刺々しくなるわな。
  ああ・・・こんな阿呆な女に転生するなんて、本当に泣けてくる。
権田原万里「まあ良い・・・ヤス、おまえはこのゲームをクリアしたんだよな?」
ヤス「へい、 スチル回収率は100%達成しております」
権田原万里「じゃあこのゲームのあらすじを手短に話してくれ。もちろんネタバレはOKだ」
ヤス「かしこまりました」
ヤス「まずこのゲーム、『愛と哀しみの輪舞(ロンド)』略して愛ロンについてですね」
ヤス「愛ロンは2部構成のストーリーなんですよ」
ヤス「お嬢がプレイしていたのは前半の学園編に なります」
ヤス「マリアンネは学園生活で攻略対象キャラとの親交を深め信愛度を上げる・・・」
ヤス「そして士官学校編に備えます」
権田原万里「士官学校編? なんで兵隊の学校が乙女ゲームに関係あるんだよ?」
ヤス「大アリなんですよ。学園編のクライマックスが王宮舞踏会の日なんですがね」
ヤス「その最中に隣国からの宣戦布告の知らせが入り、マリアンネは従軍したばかりの兄の戦死を知るんです」
権田原万里「宣戦布告に従軍って・・・ この国はそんなきな臭い状態だったのかよ」
  学園編じゃ全然気付かなかった・・・
  っていうかそんな膠着してた状態で舞踏会なんて開くな、阿呆どもが。
権田原万里「ん・・・って事は・・・・ あの兄ちゃんが戦場出るのか??」
  先ほど、階下の居間で会ったマリアンネの兄・エミールの顔を思い出す。

〇貴族の応接間
エミール「お帰り、僕の祝福の天使マリアンネ」
エミール「さっき僕に音楽の女神が舞い降りてきてくれたみたいでね」
権田原万里「は?」
エミール「素晴らしいメロディが思いついたんだ! さっそく聞いてくれるかい?」

〇城の客室
権田原万里「・・・・・・」
ヤス「お嬢、そんな顔しないでくださいって」
ヤス「兄貴のエミールは芸術家なんでちょいちょい浮世離れした発言をするんですよ」
権田原万里「あの時はいきなり天使とか女神とか言い出すからラリってんのかと思ったぞ」
ヤス「両親の死後、家督を継ぐけど音楽家を目指して城勤めもせず、一日中家で楽器を弾いているって設定でしたから」

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