極悪非道の正統ヒロインですが清廉潔白な悪役令嬢と幸せになります~咲かせて魅せます、百合の華~

イトウアユム

第2話「刺して良いのは刺される覚悟がある奴だけ」(脚本)

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〇湖畔
権田原万里(なんで私がマリアンネになっているんだ?)
  私は混乱しつつも、頭の中を整理する。
権田原万里(落ち着いて考えろ・・・ ゲームの世界に転生・・・)
権田原万里(ありえねえだろ)
  でも・・・
  夢にしてはリアル過ぎるのだ。
  この水の冷たさや、森の空気感も・・・
  何よりも私自身の戸惑いと怒りの感情。
  夢だったら曖昧なものが全て。
権田原万里(・・・とりあえず、 服を乾かしてから考えるとするか)
  びしょ濡れの服が肌に張り付いて気持ち悪いし、体の熱も奪っていく。
  ぽたぽたと体中から水を垂らしながら辺りを見回すと・・・。
???「・・・愛しい俺のマリアンネ・・・ 今から俺も君の傍に行くよ」
  岸辺の木の陰で悲壮感たっぷりに己の喉にナイフを突きつける男がいた。
  あのニヤけたツラ・・・あの男は・・・。
権田原万里「――おい」
衛兵「?! ま、マリアンネっ! ど、どうして生きてるんだっ!」
権田原万里「・・・死ねなかったからに決まってんだろ」
  慌てふためき、幽霊を見るような目の男を私は恨みを込めて睨む。
  見間違いない、
  この男は学園の警備の兄ちゃん・・・
  モブキャラの衛兵だ。
  この男がマリアンネを殺さなければ私は溺死スチルのマリアンネと目を合わす事が無かった。
  そして私は自分の美学に反する事無く、
  権田原万理のままで死ねたのだ。
  なのに──
  ブチン
  瞬間、私の中で何かが切れた。
衛兵「死ねなかったなら、また殺すまでっ! 俺も後を追うよマリアンネっ!」
権田原万里「三下のモブキャラに殺されるのは我慢ならねえって言ってんだろ、この雑魚がッ!」
  私は突撃してくる衛兵の手を叩いてナイフを落とし、襲い掛かる反動を利用して投げ飛ばす。
  ドサッ!
  仰向けになった衛兵の上に馬乗りになると
  手近にあった小石を握りしめ。
  ガッ! バキッ!
衛兵「ぐはっ!」
  渾身の力で衛兵の顔面をぶん殴った。
  ドカッ! バキッ!
  殴るたびに衛兵の顔は変形して、血飛沫と歯の欠片が辺りに飛び散り、面白いくらいに真っ赤に染まる。
権田原万里「・・・三下の分際でこの私にナイフを向けるんじゃねえよ、このくそったれがっ!」
  ガッ! バキッ!
衛兵「ぐふっ! ご、ごめんなひゃい・・・」
  息も絶え絶えに衛兵は謝罪するがまだまだ気が収まらない。
権田原万里「詫びろ、詫びろ! 死ぬまで詫びろっ!」
  ドカッ! バキッ!
衛兵「ごめ・・・ごめ・・・しゃい・・・ ガフッ! ・・・ごぁッ!」
  ガッ! バキッ!
  返り血が頬に付くのも気にせず、
  私は延々と殴り続けていた。
  その時だ。
???「マリアンネ、 それ以上はいけませんぜ・・・」
???「いくらコイツが外道でもそれ以上は殺めちまいます」
  どこからか私を諫める声がした。
???「しかも小石を握り込んで拳を固くして殴るなんざ、素人相手にやっちゃいけない」
権田原万里「――私に指図するな、ブチのめすぞ」
  声の方向に睨みを利かせると・・・
  そこにいたのは1匹の猫だった。
  いや、猫と言うには語弊があるな。
  その猫は2本足で立ち、ゲームでは猫の妖精ケットシーを名乗っていたから。
  確か・・・
  サポートキャラだったな、こいつは。
  猫は驚いたように目を見開き、
  私をまじまじと見つめる。
ヤス「・・・その話し方、ガンの飛ばし方・・・」
ヤス「もしかして・・・ お嬢、なんですか・・・?」
  お嬢? 私がお嬢と呼ぶ事を許すのは1人しかいない。
  それに私の怒りを煽らず、
  宥める様なこの話し方・・・。
権田原万里「おまえ・・・ ヤス、なのか・・・?」
  その瞬間。
  私の中ですべてが繋がり、苦い現実を受け入れなきゃならない事を悟った。
  私とヤスはあのまま死んで『愛と悲しみの輪舞』の世界に転生したという現実を。
権田原万里(――よりにもよってこのゲームかよ)
権田原万里(確かにお天道様に顔向け出来ないような 事もしてきたのは事実だが・・・)
権田原万里(その罰だって言うなら、あのまま地獄に落としてくれよ、まったく)
  興味の無いゲームの、一番好きになれないキャラに転生させるなんて。
  神様ってやつがいるんだったら随分と酷い仕打ちをする。
ヤス「お嬢っ! ご無事だったんですねっ!」
ヤス「いや、無事って言うのはちょっと違うと思いますが・・・」
ヤス「それでも・・・再び生きて会えて、 本当に良かった・・・!」
権田原万里「――良かったかどうかはわからないけどな」
  歓喜し、再開を喜ぶ猫・・・いやヤスに私はあいまいな笑みを浮かべた。
ヤス「・・・って事は、てめえっ! マリアンネ ・・・いや、お嬢を殺そうとしたのか!」
  途端、衛兵にシャーと威嚇して襲い掛からんばかりのヤスを私は宥める。
権田原万里「やめろ、ヤス。 私も殴って気持ちは幾分かは収まったよ」
  そう、おかげでだいぶ冷静になれた。
  そして既に気を失いかけている衛兵の体から降りると、手を差し伸べ立たせてやる。
衛兵「ごめ・・・ま、マリアンネ・・・ おれはふぁ・・・」
権田原万里「ああ、涙と鼻血でぐちゃぐちゃじゃねえか 汚ねなぁ」
  よろよろと立ち上がった衛兵にそんな事を言いつつ、ニコニコと微笑み、地面に落ちたナイフを拾ってやる。
権田原万里「随分と良いナイフだな。 手入れもされてるし、切れ味も良さそうだ」
衛兵「あ、ありひゃとう・・・ ごじゃいまひゅ・・・」
衛兵「ぐぁっ!」
  私はナイフを衛兵の脇腹に深々と刺して、ぐりっと抉った。
権田原万里「――私の気持ちは収まったけど、きっとマリアンネの気持ちは収まってないと思ってな」
衛兵「いでえっ! ・・・いでえよっ! ああっ! ・・・ぐわぁーっ!」
  断末魔の叫びを上げ、痛みで地面をのたうち回る衛兵に私は嗤う。
権田原万里「痛いか? 良かったな、 そりゃ生きてるからだ」
権田原万里「死ぬほど痛けりゃ生きてるありがたみが分かるだろ?」
権田原万里「・・・てめえがサイコパスだろうがなんだろうが私には関係ない。好きにしろ」
権田原万里「でもな、てめえの愛し方を人に押し付けるんじゃねえよ。わかったか?」
衛兵「ふぁ、ふぁいっ!・・・もお、 にどどじまぜんがら・・・っ!」
  うずくまりながらこくこくと頷く衛兵を私は冷ややかに見下ろした。
権田原万里「謝るなら最初からやるなよ、 クソ野郎が・・・」
権田原万里「知ってるか?」
権田原万里「刺して良いのは刺される覚悟のあるやつだけなんだよ」
権田原万里「――行くぞ、ヤス」
ヤス「へい」
  こうして私とヤスは恐怖と痛みに震える瀕死の衛兵を見捨て、森へと向かっていった。

〇森の中
ヤス「――しかし、あの男あれだけで済ませて良かったんですか?」
権田原万里「ブッ殺してやりたいってのは本音だがな ・・・」
権田原万里「でもこの世界では殺しがどれほどの罪になるのか、まだ分からない」
  さすがの私もまだよく知らないこの世界では無茶は出来ない。
権田原万里「とりあえず、 服を乾かすために家に帰るか・・・」
権田原万里「今後の事をゆっくり考えたいしな」
権田原万里「っても帰る家の場所も分からないが」
ヤス「それならご安心ください」
ヤス「ウィンドウオープンって、 心の中で唱えてみて貰えますか?」
  ヤスの言う通り、心の中で唱えると
  私の目の前にゲームの選択ウィンドウに似た画像が現れた。
権田原万里「なるほど、 ゲームと同じ確認画面が出るんだな」
  現在位置、ステータス、所持金etc。
  私はマップのボタンを押しマリアンネの家「シェンケル家の屋敷」を選んだ。
権田原万里「この先の街道を出て・・・ まっすぐ城下街の外れに向かうのか」
ヤス「あ、街道が見えてきましたぜっ!」

〇西洋の街並み
  森を抜けると、そこは無数の馬車や馬が行きかう、大きな街道だった。
  そして街道沿いには数々の店が立ち並んでいて活気に溢れている。
権田原万里「・・・へえ、 街並みは中世のヨーロッパみたいだな」
  目の前に広がる風景をしげしげと眺めていたその時。
  ガラガラガラ・・・!
  私達の前に一台の馬車が止まった。
権田原万里「ヤス、なにかイベントが始まるのか?」
ヤス「いえ・・・馬車が登場するようなイベントなんて覚えが無いんですが」
  やたら豪華な馬車にヤスも私も首をかしげる。
  しかし馬車から降りてきた人物に私達は目を見張った。
エリーザ「ごきげんようマリアンネさん。 水浴びの季節には早いんじゃなくて?」
  びしょ濡れの私を冷たい目で見下ろす美少女。
権田原万里(・・・こんなところで、 さっそく主要キャラクターに会えるとは)
権田原万里(ツイてるんだかツイてないんだか)
  彼女はマリアンネのライバル、悪役令嬢
  エリーザ・アイファー・ユヴェーレンだった。

次のエピソード:第3話「足を洗うには良い機会」

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