マガイモノの国(2)(脚本)
〇埋立地
蓬莱島。
東京のゴミを集積する人工島であり、
首都有数の禍異物発生源の一つである。
首都東部を管轄する青龍部隊にとって
ここは正に定期的なバトルフィールド
と言っても過言ではない。
殆ど人畜無害な丁級禍異物ではあるが、
市街に流出すれば
都民の生活を脅かす事案となる。
ゆえに発生と同時に速やかな
清掃、除去、駆除が望まれた。
〇トラックのシート
『・・・殿』
『対魔士殿!』
九十九「・・・んがっ?」
和泉「到着致しました」
九十九「そうか。ご苦労さん」
和泉「ただちに現場に向かいましょう」
九十九「・・・」
九十九「4時45分か・・・ふむ。 結構かかったね」
九十九「いい時間じゃな~い」
〇埋立地
九十九「こりゃまた随分と、 えっぐいフォルムですな」
九十九「しかしまあ、 クモは『悪い虫を食べてくれる益虫』 とも言いまして」
九十九「ちょっとくらいなら放置していても さして社会生活に問題はないかと」
坂上隊長「蜘蛛っぽい形をしているだけで、 勿論蜘蛛ではありませんよ」
九十九「しかし丁級禍異物(カイブツ)程度 皆様の物理で殴るだけで事足りるかと」
九十九「丁級はモノに宿る妖力が低すぎるから 依代(ヨリシロ)を破壊するだけで 十分に消滅できるんですよね~」
杜屋副隊長「カイブツ?」
杜屋副隊長「怪異にもなれないマガイモノ、 でしょう?」
九十九「チクリやがったなこの天パ野郎」
坂上隊長「九十九殿」
坂上隊長「前任の対魔士吉備殿は、 除霊のみならず精神的にも 警備違士と共にある同志だった」
杜屋副隊長「反省会も忘年会も社員旅行も 常にわれらの一員として、 率先して参加してくれたものだ」
九十九「そういうの今時流行りませんよ~ 仕事は仕事。 私生活は私生活」
(そこは同意)
坂上隊長「ひと月前に失踪されたが、 今でも青龍部隊は 彼の帰還を心待ちにしている」
九十九「その反省会が嫌で 逃げ出したんじゃないですかねえ」
杜屋副隊長「何だと貴様!」
九十九「ぼ、暴力反対~」
坂上隊長「兎に角、此度は 対魔士殿のお力を見せて頂く」
杜屋副隊長「サポートは我らが行う。 存分に働かれよ」
杜屋副隊長「土御門殿の推薦とお伺いしましたが。 それはつまり コネ入社の給料泥棒という意味ですかな?」
九十九「・・・よ、宜しい」
九十九「ああ結構だとも! 僕ひとりに任せたまえ!」
九十九「お見せすりゃいいんでしょ! 実力見せりゃいいんでしょ!」
九十九「分かりましたよ! ちゃちゃっとやっつけてやりますよ!」
九十九「あと僕、 反省会とか飲み会とか一切出ないんで!」
九十九「仕事が終わったら 絶対連絡して来ないで下さいね!」
九十九「ふん! 漆黒(BLACK)職場め!」
「護衛いたします」
九十九「いらないよ!一人でやるよ!」
九十九「うおおおおおおおーーーッ!」
九十九「・・・」
九十九「・・・終業時間だ」
九十九「ああ~終業時間が来ちゃったよ~」
九十九「しょうがないな~ 凄く戦いたかったんだけどな~ 実力見せたかったんだけどな~」
九十九「と、いうわけで 今回も定時でドロンさせて頂きます」
坂上隊長「定時?」
坂上隊長「まだ4時ですが」
九十九「・・・へ?」
九十九「だって僕の時計は・・・」
九十九「・・・あ!まさか!」
〇トラックのシート
菅原「まあまあ対魔士どの落ち着いて。 お飲み物でも如何ですか?」
〇埋立地
九十九「一服盛りやがったな貴様あああッ!」
菅原「嫌だな~。 ちょっと開栓して微炭酸ぎみになった所を 喜んでくれたじゃないですか~」
和泉「そして呑気に眠りこける 対魔士殿を見て、 ゲラゲラ笑ってなんていませんよ~」
坂上隊長「定刻通りに着いたとしても、 腹が痛いだの車に酔っただの」
坂上隊長「そういった難癖をつけられて、 職務放棄をされては敵いませんので」
坂上隊長「お休み中に 少し時計をいじらせてもらいました」
杜屋副隊長「理由はどうあれ現在は4時10分。 しかと就業時間内ですぞ」
坂上隊長「さあ働いてもらいましょうか。 元気一杯の対魔士、九十九昭殿・・・」
九十九「仲間を騙すなんてありえないぞ! 非常識だ横暴だ信頼関係の破綻だ!」
杜屋副隊長「あんた、ちょっとは自分の発言に 矛盾とか感じないか?」
坂上隊長「文句なら除霊後にお伺いします」
坂上隊長「サポートは不要でしたな。 実に頼もしい」
「いざ、祓え給え清め給え!」
「祓え給え清め給え!」
九十九「・・・うう」
九十九「・・・ううう」
九十九「うわあああああああああッ!」
「・・・」
「・・・」
九十九「僕の専門は霊力勝負の付喪神だ」
九十九「苦手なんだよ・・・マガイモノ」
九十九「力任せのマガイモノは嫌いなんだよ!」
和泉「・・・」
和泉「・・・どの口が言ってんだか」
九十九「何だと?」
和泉「紛い物はアンタだろ」
九十九「・・・」
九十九「僕が紛い物だと?」
和泉「もういいです。 隊長、我らにお任せを」
坂上隊長「うむ。疾く清掃せよ」
坂上隊長「九十九君の醜態、 いや、処遇ついては 早急に部長会議にかけさせてもらう」
坂上隊長「我らは対魔部の下部組織ではない。 使えぬ除霊師を押し付けられては困る」
九十九「・・・」
坂上隊長「いざ、祓え給え清め給え」
「祓え給え清め給え!」
和泉「これが禍異物の正体」
和泉「全部ゴミだ」
和泉「不必要になって捨てられたゴミだ」
和泉「でも紛い物じゃない」
和泉「本気だったんだ」
〇レトロ喫茶
〇埋立地
和泉「紛い物なんかじゃない・・・」
和泉「・・・え?」
藤原「な、何だこれ?」
菅原「じ、地面が揺れ・・・」
杜屋副隊長「隊長!」
坂上隊長「まだいるのか!?」
九十九「・・・この気は」
九十九「マガイモノじゃない」
九十九「カイブツ・・・」
九十九「来るぞ! 正真正銘の禍異物・・・」
九十九「付喪神が!」
Catherine「・・・」
和泉「に、人形?」
Catherine「Hors de mon chemin」
和泉「え?」
Catherine「laissa」
九十九「どけ!」
和泉「た、対魔士殿?」
九十九「どけって言ってんだよ! あの人形が!」
Catherine「laissa!」
菅原「うああああッ!」
藤原「ぐああああああッ!」
杜屋副隊長「怯むな!これしきの炎ッ!」
杜屋副隊長「うおおおおおおおッ!」
杜屋副隊長「障壁か!」
坂上隊長「一発も通らんとは・・・」
坂上隊長「乙級、いやそれ以上か?」
Catherine「laissa」
杜屋副隊長「ぐおおおッ!おのれえええっ!」
坂上隊長「とんでもない妖力だな!」
杜屋副隊長「あれは、どれほどの恨みをもって 現出しているんでしょうか?」
「恨み?違いますな」
杜屋副隊長「ああ?」
九十九「不安・・・ 悲しみ・・・ いや・・・」
九十九「愛?」
和泉「分かるんですか? あの人形の気持ちが?」
九十九「・・・とか言ったらカッコよくない?」
和泉「よくないです」
九十九「ふん、そうか。下がっていたまえ。 相手がモノホンの付喪神じゃ、 殴ってどうなるものでもない」
和泉「対魔士殿・・・」
九十九「Bonsoir fille」
九十九「色々面倒くさいんで、 ここから先はこっちの言葉で 話そうじゃないか」
九十九「フッ、 何をそんなに焦っているんだい?」
九十九「お話ならば、 この空前絶後の大陰陽師たる 九十九昭お兄ちゃんが・・・」
九十九「・・・」
和泉「対魔士殿!」
Catherine「死んだわ。口ほどにもない」
Catherine「てか何がお兄ちゃんよ。 気色悪いわね」
和泉「クッ・・・」
Catherine「所詮は大陰陽師の 紛い物ってことかしら」
『よく分かってるじゃないか』
Catherine「え?」
???「いかにも、それは偽物さ」
Catherine「何ッ?いつの間に後ろに・・・」
???「臨む兵闘う者皆陣列べ前に在りて行く!」
???「律令を行うが如く急急に!」
???「臨兵闘者皆陣列在前行! 急急如律令!」
〇不気味
Catherine「うああああああああッ!」
〇埋立地
???「無駄だよ」
九十九「君はもう、動けない」
和泉「あ、貴方は?」
九十九「もう自己紹介は済ませたじゃないか? そこに倒れている式神(シキガミ) を通してね」
和泉「式神って?」
九十九「それは『人造付喪神』 マガイモノの亜種みたいなものだね」
九十九「散!」
九十九「さて、第三話も大詰めだ」
九十九「君の焦りや怒りの根源が 何かは知る由もないが。 除霊させてもらうよ」
Catherine「・・・大詰め?」
Catherine「私の闘いは始まったばかりよ」
九十九「どういう意味だ?」
Catherine「sauver・・・」
九十九「・・・!?」
Catherine「je vais t'aider!」
Catherine「Feu!」
九十九「ぐあっ!」
九十九「クッ!逃げられたか・・・」
坂上隊長「ゴミに戻り地中に潜んでしまった。 もう探しようがないな」
九十九「申し訳ない。 油断してしまった」
坂上隊長「いえ。戦は時の運」
坂上隊長「それより、人造付喪神まで用いて 我らを謀った理由が知りたいですな」
杜屋副隊長「わざとウツケを装い 我々を試していたのですかな?」
杜屋副隊長「共に闘うに値するか?」
九十九「フッ、鋭い。 いかにも私は皆さんを・・・」
『はいはーい』
『お取り込み中失礼しますよ~』
令「いやいや~探した探した~。 も~う。まいっちんぐ~♪」
令「緊急出動ご苦労さまでありま~す」
坂上隊長「小角警部」
令「捜索要請を受けていた そちらの前任対魔士、 吉備真喜夫氏の行方ですが」
令「昨夜、遺体となって発見されました。 そのご報告を」
坂上隊長「な、何っ!」
杜屋副隊長「遺体だと?」
令「検死によりますと外傷はありません。 心肺停止の状態で発見されました。 吉備氏に、何か疾患などはおありで?」
杜屋副隊長「いや、健康そうに見えたが」
令「ま、その辺りは 我々の管轄外ですので棚上げしておいて」
令「問題は仏様の残した ダイイングメッセージ」
坂上隊長「ダイイングメッセージ?」
令「彼は死の直前指を噛み切り、 血でメッセージを残しています」
〇黒
99CRAZY
〇埋立地
令「ナインティナインクレージー」
令「或いはツクモクレージー」
令「資料によりますと、 吉備氏の後任の対魔士殿のお名前は 九十九昭(ツクモアキラ)」
令「ですので 吉備対魔士殿が残したメッセージを、 このように解釈してみました」
『九十九は狂っている』
令「と、いうわけで」
令「逮捕しちゃうぞ♪」
九十九「・・・フッ」
九十九「私が狂っている・・・か」
九十九「・・・」
九十九「なんでえええええええっ?」
九十九「ちょ、ちょちょ、ちょちょちょ!」
令「『ちょ』が多い」
九十九「待ちたまえ! これは不法逮捕だ! 国家権力の横暴だ!」
九十九「大体状況証拠すらなってない! こじつけも甚だしい! っていうか意味が分からん!」
九十九「こら青龍部隊の諸君! 何とかいってやりたまえ!」
九十九「僕達は仲間じゃないか!」
坂上隊長「99クレージーねえ」
杜屋副隊長「いちいち納得ですな」
藤原「ヤオヨロズ対魔部において、 警備違士部隊専任対魔士は 結構な高給と聞きますからね」
菅原「そこんところ第四話で 洗いざらい吐いちゃって下さい」
和泉「あなたが紛い物か否か?」
和泉「取調室での態度次第って訳ですね」
令「おら!キリキリ歩け!」
和泉「じゃあ6時なんでお疲れ様です」
九十九「え、6時って?」
和泉「時計いじってたの俺達の方なんです。 本当はもう定時過ぎてるんですよね」
和泉「怪異は逢魔が時に現れる。 正義の味方が 9時5時勤務なんてありえないっすよ」
九十九「貴様ら!騙したなあああ!」
和泉「あとうち残業代出ないんで。 そういう交渉は労働組合でも作って下さい」
令「無事、釈放されたらな♪」
「じゃあ、お疲れ様でしたー!」
「はーい、ごくろーさーん!」
九十九「待ってくれ! 言ってくれ! 僕のどこが悪かったんだ!」
九十九「話し合おうじゃないか! 語り合おうじゃないか!」
九十九「さあ、みんなで反省会をしよう!」
令「うるせえ」
令「てめーの反省会は取調室だ」
令「ヤオヨロズ青龍部隊専任対魔士九十九昭」
令「同前任者、吉備真喜夫氏殺害の 重要参考人としてご同行願う」
令「あと、 その『お面』も取れや七三野郎」
九十九「クッソ」
九十九「間違ってる。 この流れは間違ってるぞ」
九十九「これは 『先の読めない意表をついた展開』 を求めるあまり辻褄が合わなくなり」
九十九「かえってつまらなくなるパターンだよ君」
九十九「単に次回を盛り上げるためだけに 主人公をこんなゾンザイに 扱っていいのか君!」
九十九「僕は抗議する! 断固抗議するからな!」
九十九「あとまたしばらく休載するんで やたらロスだロスだと 世論操作してくれると嬉しい!」
令「ねーよ。そんなロス」
九十九「そして僕の今後を考察すればいいじゃない」
九十九「『○○な衝撃展開に反響続出!』とか! 『圧倒された!』とか!」
九十九「『神回!』『鳥肌!』など いちいち大仰なコメント宜しく!」
令「乞うな。見苦しい」
和泉「あ、そうそう。 言い忘れてました」
和泉「エンディングテーマ。お願いします」
九十九「今、それどころじゃないわ!」
〇不気味
~ニッポンサラリーマン陰陽師~
99クレージー
〇埋立地
A「蓬莱島」
A「都のゴミどもが流れ着く奈落の底」
K「っていうか宝の山?」
D「ものは言いよう。 いや、モノは使いよう」
A「じゃあ始めよう」
A「マガイモノ達の復讐を」
〇埋立地
つづく。