太閤要介護・惨

山本律磨

其の七(脚本)

太閤要介護・惨

山本律磨

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〇貴族の部屋
  信長公は、一言二言お声がけ頂いただけの雲上人でありその御心を思い描くだに畏れ多い程のお方だった。
  今、南蛮の装束に身を包み殿下の枕元に立ちてなお思う。
  この姿を嬉々として家臣に晒すとは、全く以て私如き凡夫の理解を超えている。
  だが天下人をも超越する神とならねば事は成し遂げられぬ。
  信長公の言霊で百姓を武士へと戻すのだ。
三成「・・・秀吉。いや」
三成「禿鼠・・・」
三成「猿・・・」
三成「猿」
三成「起きよ!サル!」
太閤「・・・」
三成「このサルめが!予の顔を見忘れたか!」
太閤「ひ・・・ひいいっ!」
太閤「ひゃああああああああ!お助けをおおっ!」
  最早日吉丸でもなくなり自己と他己の区別もつかぬ恍惚の人が、ただただ泣き喚く。
太閤「ひぎゃあああああああああああああ!」
三成「クッ・・・」
三成「目を覚ませ」
三成「言葉を喋れ!」
三成「うぬは畜生か!まことの猿か!」
三成「恥を知れ日吉丸!藤吉郎!筑前!」
三成「豊臣秀吉!」
太閤「ひいいいっ!」
三成「飯も食わず体も洗わずただ叫び散らし垂れ流し、まるで獣。否それ以下だ!」
三成「よいか、獣とて食わねば、動かねば死ぬるのだ!」
三成「お前だけだ!この世で動くこと無く生きておるのは!」
三成「斯様な地獄がお前の生きた答えなのか!」
三成「それとも斯様な恍惚が天下人の特権か!」
太閤「ひいい・・・ひいいいっ・・・うひいっ!」
三成「・・・」
三成「・・・ならば」
三成「ならば責務も果たしてもらうぞ」
三成「止めよ」
三成「無為、無策、無謀なる唐陣を止めよ!」
三成「その一言を言ってから死・・・」
三成「・・・」
太閤「・・・お助けを・・・お助けを」
太閤「ひいっ・・・ひいっ・・・」
三成「・・・」
三成「殿下・・・」
三成「正気に戻って下され」
三成「三成でござる」
三成「佐吉でござる」
三成「何者でもなかった小僧を拾うて頂きました」
三成「育てて頂きました」
三成「侍にして頂きました」
三成「殿下は日輪です」
三成「我が人生を照らしてくれた太陽です」
三成「今一度あの明るさを・・・」
三成「あの強さを。あの優しさを」
三成「あの笑顔を・・・」
  歪み、しわがれ、怯えきった主の顔がぼやけてゆく。
  それでも私は声をかけ続けた。
  それがたとえもう届かぬ言葉だとしても。
三成「殿下・・・」
三成「御大将・・・」
太閤「ひいっ・・・ひいっ・・・お助けを・・・」
三成「・・・」
三成「・・・父上」
  続く

次のエピソード:其の八

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