太閤要介護・惨

山本律磨

其の六(脚本)

太閤要介護・惨

山本律磨

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〇銀閣寺
  結局伏見には私と政所様が残り、やがて春が来た。
  今年の花見は醍醐寺なる寺で人目に触れず細やかなものになった。
  その花見で事件は起きた。殿下が逃げ出したのだ。
  幸い逃亡は未然に防がれこの国の王は私の前に小さくなって引っ立てられた。
太閤「治部さん。ワシはあんたに何か悪い事したんじゃろうか?」
太閤「何故ワシを城に閉じ込めるんじゃ?」
三成「閉じ込める?」
三成「城はあなたの家であなたはこの国の王だ」
  って言うか・・・
三成「何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も同じ話をするでないしさせるでない!」
  最早尊敬の念も労りの心も消え失せた私に殿下が(ただの老いぼれの分際で)噛みついてきた。
太閤「寧々さん、こいつを追い払ってくれ」
三成「ア゛ア゛ン!?」
太閤「わ、ワシは王様じゃろう。ワシはこいつが嫌いじゃ」
三成「だまらっしゃい!殿下のくせに生意気な!」
北政所「まあまあ二人とも落ち着いてお茶でも飲んで下さいな」
  英雄豊臣秀吉は妻を間に挟まねば威嚇すら出来ぬ下郎になっている。
  その掬い上げる様な百姓の眼差しを、私はもう見たくなかった。

〇御殿の廊下
  それに引き換え獅子身中の虫ながら威風堂々私に接近してしたのが・・・

〇畳敷きの大広間
  恐らくは金吾めの軽口で既に殿下の容態を知っていたであろう家康は、ある策を持ち掛けてきた。
  いわゆるショック療法というヤツである。
家康「一番強い記憶を殿下に突き付ければよい」
三成「一番強い記憶・・・とは?」
家康「即ち亡き右府様の記憶」
三成「信長公の?」
家康「・・・ふむ」
家康「見れば治部殿の細面は信長様の面影がある」
三成「畏れ多い事を申されるな」
家康「いやいや、なかなかに眼光鋭く端正なお顔立ちにて。化粧(けわい)を施し暗がりにあればまこと上様の顕現」
三成「暗がり・・・」
  こともあろうに家康は私に信長様の恰好をして殿下の枕元に立てというのだ。
家康「左様。天下人唯一の主たる織田信長として腑抜けた藤吉郎めに喝を入れるのだ」
家康「さすれば己が大儀も蘇るであろう」
  常ならば斯様な畏れがましい策など、受け入れるはずはなかった。
  だが小賢しき狸の策に縋らねばならぬほどこの時の私は孤独で、そして追い詰められていたのだ。

〇貴族の部屋
  この頃になると、父とも慕った天下人は今や立ち上がることも出来ずにただ誰彼なく罵る言葉ばかりを吐き続ける。
  その吐瀉物を今、私は一身に受け、そして他の奉行どもに影で笑われている。
太閤「来るな治部!近寄るな治部!」
三成「お、落ち着かれませ殿下!」
三成「ささ、この薬を飲めば楽にお休みになれますよ」
太閤「いらん!」
太閤「誰か来てくれ!治部に毒を飲まされる!」
太閤「殺される!治部に殺されるうううううう!」
  豊家随一の忠臣であるこの私が・・・
  王佐の才たるこの私が・・・
  日本国の政を司るこの私が・・・
  職務から遠のき、呆けた老人の唾と米粒と罵詈雑言を浴び続けている。
  私は決断した。

〇黒
  この、畏れがましくも卑劣な策を。
  かの第六天魔王を我が身にうつさせ愚かな猿を躾けてくれん。
三成「豊臣家・・・いや、日本国の為に」
  続く

次のエピソード:其の七

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