エピソード22・咎の中(脚本)
〇実験ルーム
男の子「え、え?ちょっと待って?」
男の子「今、血って言った?血を入れる?あの瓶に?」
女性「う、嘘でしょ?それって・・・!」
老人「た、確か、一つの瓶が1リットルとか言っていたな?三つ全て合わせたら、3リットルになってしまう・・・」
老人「聞いたことあるぞ、標準的な体重だと・・・一度に1.5リットルの血を失えば人は失血死すると・・・」
男の子「で、でも二人いるし・・・」
女性「無理でしょ、二人とも子供で、標準より体重軽そうじゃない!」
女性「ま、まさか、あたし達の中の一人しか助からないってことじゃないでしょうね!?」
女性「いや、いやああ!あ、あたし死にたくない、死にたくないいいい!」
男の子「あ、あああ・・・っ」
須藤蒼「り、輪廻さん、どういうこと?ぼ、僕、頭が追い付かなくて・・・」
峯岸輪廻「瓶の中に液体を入れなければ、あの三人の入っているカプセルに満水まで水が入れられてしまう」
峯岸輪廻「そうなったら呼吸ができず、三人ともが死ぬ」
峯岸輪廻「回避するためには、三人のそれぞれの瓶に液体を入れるしかないが、この場に液体はどう探してもみつからない」
峯岸輪廻「あるのは俺達の体だけ。唾液や尿は入れられたところで大した量にならない。確実なのは、血を抜くこと、それだけだ」
峯岸輪廻「そして、蒼は子供だし、俺も多分平均より体重は軽い方。失血死の致死量は、1.5リットルより少ないと思っておいた方がいい」
須藤蒼「と、いうことはつまり・・・」
峯岸輪廻「三人の瓶全てを満水にする・・・3リットルの血を提供するのは、二人合わせてもまず不可能ということだ」
須藤蒼「そ、そんな!じゃあ・・・僕達は選ばなければいけないってこと?三人のうちの誰を助けるか、見捨てるかを!?」
須藤蒼「一人1リットルずつ血を抜いても、2リットルが限界、少なくとも三人のうち一人は助けられないってことなんじゃ・・・!」
峯岸輪廻「・・・・・・っ」
峯岸輪廻(・・・なるほど。また、厭らしい試練を出してきたな、運営は)
峯岸輪廻(子供。女性。老人。社会的に、弱者とされがちな三人の人間)
峯岸輪廻(なるほど、奴らは“か弱い女の子だから助けた”みたいな論法で、逃げ道を作るのを封じたいわけだ)
峯岸輪廻(全員が弱者なら、選ばなければいけない。どれかの弱者は切り捨てなければいけない、とでも?)
峯岸輪廻(もしくは三人とも平等に見捨てろ、と?そうして、俺達だけ生き残れと?・・・それも選択の一つではあるが)
峯岸輪廻「・・・まあ、できるわけないな。誰一人助けないなんて選択は」
須藤蒼「じゃあ、選ぶの?誰を助けるか、見捨てるか」
峯岸輪廻「・・・・・・」
「じょ、冗談じゃないわ!こんなところで殺されるなんて!」
女性「わ、わかってるんでしょうね!?あ、あたし女なんだからね!?男なら当然、女の子は真っ先に助けるのが当たり前よね!?」
老人「ふざけたことを抜かすな!もう“女の子”なんてトシでもないだろうが!」
女性「は!?セクハラなんですけどこのオヤジ!」
老人「お前こそ、年配者への敬いが足りてないんじゃないのか!?」
老人「これだから私は、お前みたいな女が嫌いなんだ。普段は男女平等、男女平等と言うくせに・・・」
老人「いざ自分が不利益を被りそうだと、“女だから配慮しろ!”とそればかり!都合よく権利ばかりを主張する!」
老人「権利を主張するならまず、先に義務を果たしたらどうだ!?」
老人「男と同じだけの仕事量もこなせないくせに、給料だけいっちょ前に“平等に”貰おうとするんじゃない!」
女性「はあ!?そんな話、あたしにされても困るんですけど!?」
女性「女の子がか弱いのは事実じゃん!優先して助けて貰おうと思って何がいけないわけ!?」
男の子「や、やめろって・・・・・・喧嘩するなって・・・・・・!」
男の子「お、俺だって・・・死にたくないよお・・・!」
老人「う、うぐっ・・・」
女性「ああ、ああ・・・」
須藤蒼「ああ、やっぱりこうなった・・・」
峯岸輪廻「おい、そこの女性もじいさんも!子供の前でみっともないと思わないのか?」
峯岸輪廻「生き残りたい気持ちはわかる、わかるけどな・・・」
須藤蒼「・・・男の子以外を助けたくなくなってきた」
峯岸輪廻「・・・聞こえるぞ、蒼」
須藤蒼「・・・すみません」
峯岸輪廻「わからなくはないけどな。・・・実は一つだけ、三人とも助かるかもしれない方法がある」
須藤蒼「ほ、ほんとに!?」
峯岸輪廻「ああ。ただ、かなりギリギリの調整が必要だ」
峯岸輪廻「いいか?Aの瓶に半分・・・500ミリリットルの液体を入れたら、少年の入っているカプセルはどうなる?」
須藤蒼「え?そうすると、男の子が入っているカプセルには水が半分だけ投入されることになる、よね?」
峯岸輪廻「そうだ。では問題。その状態だと、少年は溺れるだろうか?」
須藤蒼「あ!」
峯岸輪廻「そういうことだ。三つの瓶、全てを満水にしなくてもいいんだ」
峯岸輪廻「三人がそれぞれ、顔が出る状態になればいい。ただ・・・」
峯岸輪廻「彼らは三人とも身長が違う。身長が低い人間のカプセルほど、水が少なくなるようにしなければいけない」
峯岸輪廻「Aの少年が一番背が低い。彼の瓶には、最も多く血を注がなければ足がつかなくなってしまうだろう」
須藤蒼「なるほど、そのために細かな調整・・・!」
峯岸輪廻「そうだ。・・・俺の血だけではさすがに足らない。悪いが、お前の血も少し貰うことになる。失敗すれば、俺達も死ぬ」
峯岸輪廻「それでも、協力してくれるか?」
須藤蒼「もちろん!・・・ちょっと血を抜かれるくらい、全然平気だよ!」
須藤蒼「やろう、輪廻さん!あの人達を救うために!」
峯岸輪廻「ありがとう、蒼!」
男の子「!」
男の子(・・・なんで、そんな・・・見ず知らずの俺達のために?どうして、この人達は・・・)