雨呼びの巫女と日照りの神

桜木ゆず

忘れじの過去(脚本)

雨呼びの巫女と日照りの神

桜木ゆず

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〇鍛冶屋
リン「アラタさーん!」
アラタ「あっ!リンさん!」
アラタ「もうお体は大丈夫なのですか?」
リン「ええ、アラタさんこそ、お怪我は?」
アラタ「僕は頑丈だけが取り柄なので、大丈夫」
アラタ「そうだ、鏡石が出来上がりましたよ」
リン「・・・!!」
リン「綺麗・・・ あの石がこんなになるなんて」
アラタ「えぇ、僕も驚きました。 磨けば磨くほど、輝きを増して──」
アラタ「まるで光を反射した水面みたいに、 美しいですよね、不思議だなぁ」
紫苑「感謝します ではお代を・・・」
アラタ「いえ、お代は結構です」
「えっ?」
アラタ「コウヨウには、 この街のみんなが困っていました」
アラタ「雷に打たれたコウヨウの最期を聞いて 胸は痛みますが、 因果応報とはこのことなのでしょう」
アラタ「この街が平和になったのは、 リンさん達のおかげなんです」
アラタ「だから街からのお礼だと思って、 受け取ってくれませんか?」
リン「でも・・・」
紫苑「リン、そう言うことなら、 好意を受け取っておこう」
リン「・・・」
リン「ありがとうございます」
アラタ「いいえ」
アラタ「・・・」
アラタ「・・・実は僕、あなたに恋してたんです」
リン「えっ?」
アラタ「でも、あなたには守ってくれる人が、 もう居るみたいだ」
紫苑「・・・」
リン「・・・」
アラタ「それに、旅をしているあなたを 追いかけるほど、 あなたに恋い焦がれてもいないと 気づいてしまいましたしね」
アラタ「でも気持ちだけでも伝えておきたかった」
リン「・・・アラタさん」
リン「ありがとうございます」
アラタ「ふふっ、あなた方の旅が、 上手く行くことを願っていますよ」
リン「感謝します──」

〇後宮の一室
紫苑「何度見ても綺麗だな」
葵「──で、この鏡石をどうするんだい?」
リン「これは、まだ、ただの空っぽの石なの」
リン「この鏡石に龍神様を呼び入れるのだけど、 これを水鏡にしなければならない」
葵「これは水鏡ではないのかい?」
紫苑「どうやったら水鏡になるんだ?」
リン「聖なる泉の水で清めて、ご祈祷をするの」
リン「そうすれば、 まだ神様のいない空っぽの器だけど、 水鏡の完成だよ」
葵「へぇ、案外面倒なんだね」
紫苑「聖なる泉って・・・ そのへんのただの泉じゃないよな?」
リン「ええ、南の小さな孤島、 晶碧島(しょうへきとう)にある、 晶碧泉(しょうへきせん)が聖なる泉とされているわ」
紫苑「南の海まで行くのか・・・」
リン「街の人から聞いたけれど、晶碧島へは ここから歩いて10日ほどらしいの」
紫苑「そんなに遠くないみたいで、良かったな」
リン「うん・・・」
リン「早く・・・旅を終えて、龍神様を戻して、 雨を降らせないとね・・・」
「・・・?」
葵「なんだか旅をやめたくないみたいだね」
リン「えっ・・・」
葵「大丈夫だよ、リンちゃん」
葵「旅が終わっても、 僕はリンちゃんの式神だ」
葵「ずっとね」
葵「だからそんな悲しそうな顔、しないで?」
リン「うん、ありがとう、葵──」
紫苑「俺も!俺もリンの側にいるからな」
紫苑「旅を終えたら、雨ノ宮の神社に戻って、 のんびり穏やかに暮らそう」
リン「・・・」
リン「うん、そうなるといいね・・・」
リン「・・・」
リン(2人とも、ごめんね きっとそれは叶わない・・・)
リン(私のいなくなった世界で、 2人は自由に、幸せになってね──)

〇中華風の通り
  数日後──
リン「室橋ともこれでさよならだね」
紫苑「この街では色んな人と出会ったな」
葵「人間って面白い人が多いんだね」
葵「僕、もっと人間のことを知りたくなったよ」
リン「ふふっ、嬉しいな」
紫苑「よし、じゃあ行くか──」
リン「うん」
リン(さよなら、皆──)
リン(さよなら・・・)

〇荒野
リン「・・・っ」
紫苑「砂ぼこりがキツイな・・・」
葵「酷い土地だね 二人とも大丈夫かい?」
紫苑「乾燥した土に 強い風が吹いてこうなってるのか・・・」
紫苑「それもこれも、 長いこと雨が降ってないからだな・・・」
リン「・・・」
リン「ここで雨を降らせてもいいかな?」
「分かった」

〇荒野
紫苑「元々の土地のせいか、ひどい雨に・・・!」
リン「わわっ! なんだか強い雨になっちゃった!」
葵「つ、冷たいね・・・ 人間は風邪を引いてしまうよ」
葵「しばらくどこかで休まないかい?」
リン「どこか雨宿り出来そうな場所を探そう!」

〇岩穴の出口
リン「ふぅ」
紫苑「ちょうど近くに洞窟があって良かったな」
葵「しばらく雨が止むのを待とうか」
リン(雨を呼ぶ力が増してる・・・?)
リン(旅のおかげかしら?)
リン(だとしてもこの天気は ちょっとやりすぎたかな)
紫苑「今日はここで泊まることになるかもな」
葵「まぁ、いいんじゃない? 楽しいしね」
紫苑「葵はのんきだなぁ」
リン「はっくしょん!」
葵「リンちゃん、大丈夫かい?」
葵「僕が暖めてあげようか?」
「えっ?」
リン「ふふっ、ううん大丈夫」
リン「はっくしょん!!」
リン「えへへ・・・」
葵「・・・本当に大丈夫かい? ほら、おいで?」
リン「ええっと・・・」
紫苑「・・・」
葵「・・・なんだい紫苑君」
紫苑「べ、別に・・・」
リン「葵にくっつくの、なんだか恥ずかしいよ」
葵「ふふっ、僕が格好良くて照れるのかい?」
葵「リンちゃんは可愛いね」
葵「紫苑君の方がいいなら、紫苑君でもいいよ」
リン「えぇっ?!」
リン「し、紫苑はダメだよ・・・」
紫苑「・・・!!」
葵「ふふっ、紫苑君、傷ついてるみたいだよ」
リン「えっ?どうして?」
紫苑「・・・あーおーいー!」
葵「お、怒らないでよ 冗談だって・・・」
紫苑「・・・まぁでも、体が冷えるのは確かだ」
紫苑「葵、ちょっとこっちこい」
葵「えっ?なんだい? もしかして紫苑君・・・ 僕とくっつきたいのかい?」
紫苑「ちげぇよ」
葵「ほら僕が暖めて・・・」
紫苑「そなたの姿は名もなき獣──」
紫苑「現身(うつしみ)を、 空蝉(うつせみ)として──」
紫苑「ここに写せ」
葵「・・・えっ!!」

〇岩穴の出口
葵「な、なんだい、これは!」
紫苑「見れば分かるだろう、狼だ」
葵「なぜ狼なんだい?」
葵「僕は猫の姿が気に入っているんだ」
葵「優雅で気品のある猫の姿がね」
紫苑「別になんでもいいだろ?」
紫苑「その姿なら、リンを暖めてやれる」
紫苑「リンも恥ずかしくはないだろ?」
紫苑「・・・」
紫苑「リン?」
リン「・・・」
リン「狼? 私、どこかで・・・」

〇霧の立ち込める森
リン「・・・」
傷ついたオオカミ「──」
リン「──」
傷ついたオオカミ「──」
リン「・・・」
リン「──」

〇岩穴の出口
リン「・・・」
リン「──」
「リンちゃん?」
「リン?」
リン「えっ?」
紫苑「どうしたんだ? リン?」
リン「・・・何か、 昔のことを思い出したような──」
紫苑「昔のこと?」
リン「森で、スイレンと一緒に入った森で──」
リン「”ナニカ”と出会って、それで──」
リン「・・・だめ、思い出せない」
葵「昔って、いつのことだい?」
リン「うーん、4歳くらい?」
紫苑「俺が側にいたか?」
リン「ううん、紫苑はいなかった」
紫苑「じゃあ、分からないな・・・」
紫苑「ナニカってなんだ?」
リン「分からない、どうしても思い出せないの」
リン「でも、すごく大事なことだった気がする」
リン「はっくしょん!!」
葵「まぁ、とにかく僕に引っ付いて? ほら、暖かいでしょ?」
リン「うん、暖かい。 えへへっ、これなら、恥ずかしくないや」
葵「スイレンって誰なんだい?」
リン「お父さんの使役してた式神だよ」
リン「私のおもりのために式神を使ってたの」
紫苑「スイレン、あいつ、 今どこで何やってるんだろうな」
葵「へぇ、式神に面倒を見させてたんだね」
リン「うん、でも私が大きくなって、 おもりが必要なくなった時──」
リン「スイレンに元の名を返して、 式神から解放したの」
葵「解放?どうして?」
リン「お父さんは式神を持つこと自体、 良く思ってなかったから」
葵「どうしてだい?」
リン「主である陰陽師が死ぬと、 その式神も死んでしまうからよ」
葵「えっ、そうなのかい・・・」
リン「うん、葵、 ちゃんと言ってなくてごめんね」
リン「人間は妖怪よりも弱くて、寿命も短いから 万が一の事を考えてたお父さんは、 式神を持つことを嫌がってた」
リン「私もお父さんと同じ意見なの だからこの旅が終わりに、 葵を式神から解放しようと思ってるよ」
葵「・・・」
リン「だから安心して?」
葵「僕は・・・」
葵「僕はリンちゃんが最期を迎えるその時まで、側にいるよ」
葵「例え式神でなくなったとしてもね」
リン「ありがとう、葵 嬉しいな・・・」

〇岩穴の出口
紫苑「あっ! 雨が止んでる!」
リン「わっ! ホントだ!やったね」
リン「じゃあ出発!!」

〇海辺
リン「う・・・」
リン「海だー!」
紫苑「おおっ! 初めて見たぜ!」
葵「そうなのかい? それは素晴らしいことだね」
紫苑「葵はあるのか?」
葵「うん、 涼尾山に住み着く前は旅をしていたからね」
葵「色んな海や山を巡ったさ」
リン「へぇ、それは素敵だね」
葵「でも、一人で見る景色と、 リンちゃんと見る景色は違うね」
紫苑「・・・!!」
リン「ふふっ、また葵ったら」
葵「紫苑君はどうなんだい?」
紫苑「な、何がっ!」
リン「どうしたの?」
葵「ふふっ、何でもないよ 紫苑君はからかいがいがあるね」
紫苑「葵、てめぇー!」
葵「ははっ、冗談冗談!」
リン「こら!二人とも止めなさい!」
「・・・!!」
葵「なんかビリっと来たね」
紫苑「あ、あぁ」
葵「怒るリンちゃんも可愛いね」
リン「もー!」
紫苑「さぁ、渡し舟を探して島に渡るか」
リン「うん」
葵「そうだね」
リン「あっ、あっちに村があるみたい あそこで聞いてみよう?」

〇村の広場
リン「海の見える村かぁ、 素敵だなぁ・・・」
紫苑「渡し舟が借りられるか聞いてみるか」
葵「そうだね」
リン「あ、あそこに人がいるよ 声をかけてみるね」
リン「すみませーん!」
トビコ「・・・!!」
トビコ「お、お前たち・・・」
トビコ「その格好は陰陽師だなっ!」
トビコ「てめぇらまた来たのかっ!」
トビコ「このやろう!」
リン「えっ?!」
リン「紫苑!危ない!」
紫苑「う、うわっ!」
紫苑「っと危ねぇ!」
紫苑「何するんだよ!」
トビコ「それはこっちのセリフだ! このやろうどもめ!」
トビコ「しらばっくれるんじゃねぇ!」
リン「まっ、待って下さい!!」
リン「私たち、本当に何も分からないんです!」
トビコ「巫女? どうして・・・」
紫苑「だーかーらー! 俺達はただの旅人だって!」
トビコ「えっ、お前らこの間の陰陽師とは 関係ないのか?」
紫苑「何の話だよ」
トビコ「・・・」
トビコ「なんだ、そうか・・・」
トビコ「なら早くよそ者は出ていってくれ」
リン「えっ・・・」
「お父さーん!」

〇村の広場
日向「お父さんっ!」
トビコ「日向!」
日向「何やってるのっ!? 斧なんて振り回して!」
トビコ「そ、それは・・・」
日向「危ないでしょ!」
トビコ「す、すまない・・・」
日向「お父さんがごめんなさい」
紫苑「いいや、大丈夫だよ」
日向「ええっと、何かお詫びしないと・・・」
リン「いいよ、いいよ!」
紫苑「あぁ、ほら、どこも怪我してないし、 びっくりしたぐらいだ」
日向「でも・・・」
リン「それよりも、何かあった?」
リン「もしかして陰陽師の人が、 あなたたちに何かしたの?」
日向「それは・・・」
日向「私──」
日向「イケニエにされちゃうの」
「えっ!?」

〇村の広場
日向「晶碧島(しょうへきとう)って知ってる?」
日向「ほら、ここから見えるあそこ・・・」
日向「あそこは神聖な場所だったの」
日向「だけど1ヶ月位前に、 どこからか土蜘蛛がやって来て、 晶碧島に住み着いてしまったの」
日向「それから、ここらで漁をしていると、 土蜘蛛が海の上を滑るように泳いで 捕った魚を奪っていったり・・・」
日向「漁師の人たちの舟を 糸で動かなくしてみたり・・・ 土蜘蛛は面白がっているのよ」
日向「漁師の皆で、 土蜘蛛の退治に行ったのだけれど、 歯がたたなくて、 みんな大怪我をして帰ってきたわ」
日向「その件で土蜘蛛は怒って、 今度の満月の夜にイケニエを捧げないと、 村人を全員喰っていくと脅されたの──」
日向「それで・・・」
日向「体が弱くて村の力になれない私が イケニエに選ばれた」
日向「次の満月の夜に、私は晶碧島へ 一人で行くことになってるの・・・」

〇村の広場
リン「なんてひどい!」
リン「なんとかしようとしなかったのですか?」
トビコ「なんとかしようとしたさ!」
トビコ「それでこの前、旅の陰陽師を雇ったんだ」
トビコ「だが、陰陽師は晶碧島の 土蜘蛛を見ると、 退治は無理だと逃げ出したんだ」
トビコ「村でかき集めた金を 全部持っていってな・・・」
リン「そんな無責任な・・・」
リン「この村から出ていこうとは、 思わないのですか?」
トビコ「思ったさ! だが・・・」
日向「おじいちゃんやおばあちゃんを連れて、 遠くに行くのは難しい──」
日向「かといって、 お父さんと私が逃げて出ていってしまうと、 二人は生きていけない」
日向「私たちと同じような村人は他にも居て、 皆事情があって出たくても、 出られない人が多いの」
日向「そして、私が逃げて イケニエでなくなったとしても──」
日向「代わりとして誰かがイケニエにされる」
日向「そんなのはイヤ・・・ 私の代わりに誰かが、なんて・・・」
トビコ「日向・・・オレは・・・」
リン「・・・」
リン「だったら・・・」
リン「私が土蜘蛛を退治します!」
「えっ!?」

次のエピソード:海神ノ満(ワダツミノミツル)

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