太閤要介護・惨

山本律磨

其の四(脚本)

太閤要介護・惨

山本律磨

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〇空
  ところで私は雨男だ。
  去る日々の日記を顧みても、大事な時には常に雨が降る。
  殿下はそれを逆手に取って水攻め等に利用していたとからかうが、私が鑑みるのは、精神的な陰気さも多分に含んでいる。

〇空
  そういう意味では豊臣秀吉は天下一の晴れ男であり
  だからこそ私は殿下に憧れその背を追っている。
  そう、今もなお・・・

〇空
  なのに・・・
  またも雨が降り始める。
  しかも二つ同時に襲来する台風ときた。

〇城
  ひとつは予定内。
  ひとつは想定外。
  明帝国使節、冊封正使楊方亨、副使沈惟敬の到着と同時に、淀君もまた伏見に帰って来たのだ。

〇城
  無論、嵐の描写は私の精神上のものであり実際の伏見城は今日も日本晴れ。
  憎々しいほどに・・・

〇後宮の庭
淀君「わらわはもっとゆるりとしていたかったのじゃが、秀頼殿が事の外ぐずるでのう」
淀君「あんなシワシワの父親でも恋しいと見える」
  気晴らしを中断され不機嫌な母を尻目に、父親のほうは満面の笑みで幼子をあやしている。
  私の苦手な、歪に緩んだ笑顔に戻って。

〇屋敷の大広間
  秀頼様を膝に乗せ使節を迎えた殿下にとってこれは講和でなく謁見であろうことは、もはや明晰な私でなくても理解できるであろう。
  使節はそれでも怒りを堪え粛々とこの国の王に告げた。
正使楊方亨「皇帝の名において汝を日本国王に封ずる」
太閤「『封ずる』・・・だと?」
  愛する子を膝に天下人は激怒した。
  プライドを傷つけられた父親の顔で。
太閤「なぜ予が皇帝に命令されねばならぬ!」
太閤「この謁見はお前達が予に服従する為のものではないのか!」
  以下講和条件七か条はどれも日本に不利なものばかりだった。
  もっともそれはこちらが休戦の為に勝手に結び、揉み消し改竄して殿下に伝えたもので、こちらの要求は何ひとつ明に伝わってない。
  これは私の罪だ。
  同時にこの無益な戦さを終わらせる唯一の手段だ。
  戦国の昇り龍秀吉なら全てを理解し全てを飲み込んで全てを終わらせたに違いない。

〇岩山の崖
羽柴秀吉「三成よ。戦とは落としどころじゃ」
羽柴秀吉「どう続けるかは誰でも出来る。どう始めるかは才覚が必要」
羽柴秀吉「だがどう終わらせるかは人徳が関わってる」
羽柴秀吉「俺は俺にしか出来ぬやり方で、数々の戦を己が有利になるよう終わらせてきた」
羽柴秀吉「相手の恨みを抑えつつな」
羽柴秀吉「それが『人たらし』と呼ばれる所以じゃ」
三成「はっ!肝に銘じておきまする!」
羽柴秀吉「まあ・・・人には向き不向きもあるからの」
羽柴秀吉「石頭の雨男があまり無理をするでないぞ」
三成「ははーっ!無理は致しませぬ!」

〇屋敷の大広間
  そうだ。無理などしていない。
  明と殿下を同時に謀った奸臣たる私の首で戦が収まれば安いものだ。
  だがこの国の主は既に天才戦略家秀吉ではなく、天下人秀吉だった。
太閤「唐陣を再開する!」
太閤「今一度、明に攻め込む!」
太閤「朝鮮を踏み潰し明を滅ぼし天竺に王道楽土を築き上げるのじゃ!」
太閤「使節の首を刎ねて皇帝に送り返せ!それが予の返事じゃ!」
三成「で、殿下!お待ち下され!」
太閤「黙れ!治部如きが天下の舵取りにものなど申すな!」
太閤「よいか貴様ら!戻って皇帝に伝えよ!」
太閤「ああ、いや・・・死んで皇帝に伝えよ!」
太閤「そ、その首だ!その首で伝えよ!」
太閤「予は許さぬと・・・そうじゃ!許さぬぞ!」
太閤「戻って皇帝に伝えよ!」
太閤「ああいや、だから首となって!」
太閤「そうじゃ、お前らは死ぬのだ!明は滅びるのじゃ!」
太閤「お、お前も首を、首となり、首を洗って、首じゃ、首じゃ、首、クビ、くび・・・」
三成「殿下!」
「・・・」
  天下人は怒りで我を忘れ無様に気を失った。
  そして私に委ねられた勤めは、無論主君を狂人として扱いその尻拭いをする事・・・
  ではない。
  大国の余裕で含み笑いを堪える使節どもに告げることだ。
  どうやら私もやはりこの国の武士。所詮は一介の武弁だったようだ。
三成「すみやかに五大老五奉行を招集せよ!諸将に早馬を飛ばせ!」
三成「西国の大名は加藤清正の下名護屋城に集結し直ちに軍議を開け!」
三成「これより第二次、明朝鮮征伐を開始する!」

〇朝日
  かくして翌年七月虎之介、いや加藤清正ら十四万の兵による陣立てが定められ、再び朝鮮本土への出兵が開始された。
  西へ・・・西へ・・・
  これは太陽の子秀吉の落日なのだろうか。
  続く

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