雨呼びの巫女と日照りの神

桜木ゆず

室橋の君たち(脚本)

雨呼びの巫女と日照りの神

桜木ゆず

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〇中華風の通り
リン「ここが室橋ね?」
葵「あぁ、そうだよ といっても、僕も人間の街に入ったのは 初めてだけどね」
紫苑「じゃあ片っ端から 加工職人を当たってみて──」
「きゃぁ!誰か!」
リン「女性の悲鳴だわ!」
紫苑「あっちからだ!」
葵「行ってみよう!」

〇後宮の回廊
リン「・・・!」
柄の悪い男「早くこっちに来い!」
サイタイ「や、やめて下さい!」
柄の悪い男「拒否権なんてねぇ! この町の女は全部コウヨウ様のモノなんだよ!」
サイタイ「はっ、離して下さい!」
柄の悪い男「このっ!おとなしくしろ!」
サイタイ「痛っ!」
リン「ゆっ、許せないっ! やめさせましょう!」
葵「女の子に手を上げるなんて、 男の恥だね」
紫苑「おいっ!やめろっ!」
紫苑「このやろう!」
柄の悪い男「ああ?なんだテメぇ?」
紫苑「その子のぶんだっ!」
柄の悪い男「痛っ!」
柄の悪い男「お、覚えてやがれ!!」
サイタイ「ううっ」
紫苑「大丈夫ですか?」
サイタイ「ええ、ありがとうございます・・・」
リン「血が出てる・・・ さっ、あっちで手当てをしましょう?」
サイタイ「はい──」

〇後宮の回廊
紫苑「大丈夫ですか?」
サイタイ「ええ、ありがとう、少し落ち着きました」
リン「一体何があったのですか?」
サイタイ「・・・」
サイタイ「コウヨウという貿易商のせいなのです」
紫苑「コウヨウ?」
サイタイ「はい、元々この街は海沿いですので、 海から人やモノがたくさん行き交う町でした」
サイタイ「貿易では金属素材がよく手に入るので、 いつしかそれを加工をして、 質のよい品々を売る街として栄えていました」
サイタイ「ですが一年ほど前から、 貿易商人だったコウヨウが、街に住み着き、 貿易業を牛耳るようになっていったのです」
サイタイ「コウヨウは暴力的な男で、 先ほどのようなゴロツキを雇って、 女をさらったり──」
サイタイ「自分に従わない人には物を売らなかったり、 怪我をさせたり、その人の店や家を壊したりするのです」
リン「なんてひどい!」
サイタイ「ええ本当に。ですので、 皆コウヨウに仕方なく従っています、 しかし時に歯向かって怪我をしたり・・・」
サイタイ「この街はコウヨウのせいで おかしくなっているのです」
「・・・」
サイタイ「あなた達は旅の方々ですよね? コウヨウの手下どもに目をつけられたかもしれません・・・」
サイタイ「どうかお気をつけ下さい」
サイタイ「・・・」
紫苑「分かりました。気をつけます」
紫苑「じゃあリン、行くか」
リン「ええ」
サイタイ「あのっ! お礼を・・・」
紫苑「えっ?いや・・・」
サイタイ「私がお礼をしたいのです! どうかお願いします!」
紫苑「・・・分かりました」
サイタイ「ではこちらへ・・・」

〇中華料理店
サイタイ「どうぞ、お入り下さい」
リン「美味しそうな匂い!」
紫苑「・・・葵、猫らしくしてろよ」
葵「あぁ、分かっているよ」
ユウラン「お兄さんたちがサイタイお姉さまを助けて下さったんですよね?」
ユウラン「ありがとうございます!」
ユウラン「コウヨウのゴロツキには 本当に困っていて・・・」
ユウラン「何度も店を荒らされたりしてて、 腹が立っていたんです!」
サイタイ「さっ、おもてなしして差し上げて?」
ユウラン「はーい!」
ユウラン「ささっ、お酒をどうぞ」
紫苑「えっ? いや、えっと・・・」
ユウラン「料理もたくさん召し上がって?」
紫苑「リ、リン~!」
リン「ふふっ、いいじゃない?」
リン「紫苑は頑張ったんだから」
葵「・・・にゃあ!」
ユウラン「さっ!巫女様と猫ちゃんもどうぞ!」
リン「ありがとう!」
リン「これはなんと言う食べ物ですか?」
ユウラン「これは──といって──」
サイタイ「紫苑様は陰陽師でいらっしゃるのですね」
紫苑「ええ」
サイタイ「街には長く滞在されるのですか?」
紫苑「まぁ、少し用がありまして、 そうなるかもしれません」
サイタイ「・・・!!」
サイタイ「よければ毎日来て下さらないかしら? もちろん、ご飯は内のおごりにしますので」
紫苑「ええっ?! いや、悪いですよ」
サイタイ「いえ、私がそうしたいのです──」
サイタイ「私が毎日あなたに、 お会いしとうございます・・・」
紫苑「えっ──?」
紫苑「リ、リン・・・」
ユウラン「リンさんって、 私たちと同い年くらいですか?」
リン「ええ、そうだと思いますよ」
ユウラン「リンさんって巫女さんなんですよね? 私、憧れちゃいます!」
リン「えっ?そうかしら? ふふっ──」
紫苑(リンには聞こえてないみたいだ)
紫苑「ええっと、その・・・ つまり、さっきの意味って──」
紫苑「──!!」
サイタイ「まぁ、可愛い猫ちゃん!」
サイタイ「おいで?」
葵「にゃあ!」
紫苑「うわっ!」
紫苑「・・・」
サイタイ「よしよし、イイコね」
サイタイ「先程の話、覚えていて下さいね」
紫苑「・・・」
葵「・・・」

〇中華風の通り
紫苑(サイタイさんの さっきの言葉ってつまり・・・)
紫苑(そういうことなのか?)
「紫苑──」
紫苑(でも俺、 女性から好意を寄せられたことなんて──)
「紫苑!」
紫苑「えっ?」
リン「ボーッとしちゃって、どうしたの?」
紫苑「べ、別になんでもない」
葵「・・・」
リン「そう? ・・・サイタイさんのお店、 すごく美味しかったね!」
葵「僕も人間用の料理が食べたかったよ 貰えたのはおかゆだけだったからね」
葵「ま、おかゆ美味しかったけどね」
リン「ふふっ、ならよかった!」
紫苑「そろそろ宿でも探すか」
リン「うん」

〇後宮の一室
葵「・・・」
リン「ふぅ、温泉気持ち良かった──」
リン「あれ? 葵、温泉入らなかったの? 紫苑は?」
葵「温泉は入ったよ。紫苑君はまだだよ ほら、猫の姿の僕はすぐ洗い終わるからね」
リン「そうなの。 今日はずっと猫の姿で疲れたでしょう? ごめんね」
葵「いや、案外気に入りつつあるから、 別に構わないよ」
葵「それより・・・ リンちゃん、話があるんだ」
リン「なあに?」
葵「紫苑君のことだよ」
リン「紫苑がどうかしたの?」
葵「どうやらサイタイちゃんに 言い寄られてるみたいなんだ」
リン「えっ・・・」
葵「きっと助けてくれた紫苑君に 彼女が惚れてしまったんだね」
リン「そ、そう・・・」
葵「・・・」
リン「紫苑は──」
リン「紫苑が一緒に旅をしてくれているのは、 私の事を妹みたいに思っているからなの」
リン「うんと小さい頃から、 私の面倒を見てくれてたから、 私のこと、妹みたいに思ってて──」
リン「亡くなったお父さんやお母さん、お姉ちゃんの分まで、 私の面倒を見なきゃって思っているのよ」
葵「・・・」
リン「私はね、紫苑には、私のことなんか忘れて いつか自由になってほしいと思うの」
リン「だからもし、 紫苑がここに残りたいって言うなら ・・・そうして欲しい」
リン「それに私はこの旅の最後に──」
リン「・・・」
葵「・・・?」
リン「なんでもない」
葵「リンちゃん、紫苑君は──」
「!!」
紫苑「ん?なんだ? 俺の顔に何か付いてるか?」
葵「ううん、何も」
紫苑「温泉気持ち良かったな~ 明日は加工職人探してみるか」
リン「うん、そうね・・・」
紫苑「・・・?」

〇鍛冶屋
リン「ごめんください」
「はーい!」
アラタ「何か御用ですか?」
リン「細工職人のアラタさんは いらっしゃいますか?」
リン「アラタさんは良く神具を作っていると 聞きまして、加工をお願いしたいのです」
アラタ「僕がアラタです どのような細工になりますか?」
リン「これを丸い水晶のように、 加工していただきたいのです」
アラタ「これを、ですか?」
紫苑「難しいでしょうか?」
アラタ「いえ・・・ ただ、見たことのない種類の石なので、 少し時間がかかるかもしれません」
紫苑「構いません」
アラタ「失礼ですが、あなた方は格好からして 巫女と陰陽師ですよね?」
リン「ええ」
アラタ「これは神具になるのでしょうか?」
リン「そうです。 ですので、加工前の石でも、 丁寧に扱っていただけると嬉しいです」
アラタ「分かりました。 まずはひな型を考えて図案にして、 お見せするので、明日来てくれますか?」
リン「ええ、お願いします」
アラタ「あの、あなたの御名前を」
リン「リン──、雨ノ宮霖です」
アラタ「リンさん・・・」
アラタ「では明日、お待ちしてますね」
リン「はい、ではまた──」
アラタ「リンさん・・・か」
アラタ「可愛い人だな──」

〇中華風の通り
  翌日──
葵「今日はあの細工職人の所へ行くんだろう?」
リン「・・・」
葵「リンちゃん? どうしたんだい?」
リン「ねぇ、紫苑・・・」
リン「私、アラタさんの所に行ってくるから、 サイタイさんの所へ行ってきたら?」
紫苑「えっ?」
リン「ほら、サイタイさん、 紫苑にお礼したがってたし」
葵「・・・」
リン「私は大丈夫だから、ほら、行ってきて?」
紫苑「まぁ、リンがそう言うなら」
リン「じゃあ、夕方までに宿に集合ね」
リン「葵はどうする?」
葵「僕は・・・」
葵「紫苑君に付いていこうかな」
紫苑「俺に?」
葵「あぁ、サイタイちゃんとユウランちゃんに 会いたいからね」
リン「ふふっ、分かったわ じゃあまた後でね」
紫苑「あぁ」
葵「うん」
紫苑「よし、サイタイさんの店に行くか」
葵「そうだね」
葵「・・・」
葵(大丈夫だよ、リンちゃん 僕が紫苑君のことを見ておくからね)

〇中華料理店
紫苑「ど、どうも」
サイタイ「!!」
サイタイ「来て下さったのですね! 嬉しいです・・・」
紫苑「はい」
葵「にゃあ!」
サイタイ「ふふっ、猫ちゃんもこんにちは」
サイタイ「あれ? 今日、リンさんは?」
紫苑「リンは用事があって、 俺達とは別行動なんです」
サイタイ「そうですか──」
サイタイ「あの、もしよろしければ、 外で少し歩きながらお話しませんか?」
サイタイ「今、お店の休憩中なんです」
紫苑「ええ、いいですよ」
サイタイ「ありがとうございます」
紫苑「葵、お前はここにいろ いいな?」
葵「・・・」

〇後宮の庭
紫苑「すごく綺麗だ・・・」
サイタイ「ええ、そうでしょう? ここ、好きなんです」
サイタイ「紫苑様は、 どうして旅をされているのですか?」
紫苑「俺には・・・いや、リンには やらなければならないことがあって」
紫苑「俺はそれを手伝っている、 という感じでしょうか」
サイタイ「では紫苑様個人に、 旅の目的はないのですね?」
紫苑「確かに、そう言われればそうですね」
サイタイ「紫苑様とリンさんの関係は? ・・・恋人、ですか?」
紫苑「いえ、まさか! ただの幼なじみで妹みたいなものですよ」
紫苑「リンはおっちょこちょいで、 世話がやけるんです」
サイタイ「他にリンさんのお側にいる方は いらっしゃらないのですか?」
紫苑「えっ・・・と・・・」
紫苑「葵がいますけど・・・」
サイタイ「葵さんという方が、 リンさんの側にはいらっしゃるのですね」
紫苑「まぁ、そうですが・・・」
サイタイ「・・・それなら、紫苑様、 ここに残りませんか?」
紫苑「えっ?」
サイタイ「もうお気づきかもしれませんが、 私はあなた様を好いております──」
サイタイ「私は紫苑様に、ここにいて欲しいのです あなた様を必要としております──」
サイタイ「返事は今すぐじゃなくても構いません どうかお考え下さい・・・」
紫苑「・・・」
サイタイ「さっ、この話は終わりにして、 ご飯を召し上がって行ってくださいな」
サイタイ「少し遅めの昼食になってしまいましたね、 その分、たくさん召し上がってくださいね」
紫苑「ええ・・・、ありがとうございます」
葵「・・・」
葵「紫苑君・・・ 君はどうするんだい──?」
葵「・・・」
葵「紫苑君がいなくなれば、 僕はリンちゃんの──」
葵「特別──」
葵「いや、何を言ってるんだろう僕は・・・」
葵「式神の僕は、 リンちゃんの幸せを願うべき、だね」

〇鍛冶屋
リン「こんにちは」
アラタ「やぁ、リンさん」
アラタ「今日はお一人なんですね」
リン「ええ」
アラタ「今、図案を持ってきますね」
リン「ええ、お願いします」
リン「・・・」
リン「紫苑、どうしてるだろう・・・」
アラタ「お待たせしました どうぞ、ご確認下さい」
リン「ありがとうございます」
リン「・・・」
リン「問題ありません、すごく素敵です!」
アラタ「そう、良かったです」
アラタ「ではこれで進めますね」
リン「ええ」
アラタ「ところでリンさん・・・」
アラタ「もし良ければ、少し早いですが 僕と昼食でもいかがですか?」
リン「えっ?」
アラタ「時間的にまだ・・・ですよね? それともお忙しいでしょうか?」
リン「えっと・・・」
アラタ「すぐそこに気になっているお店があって、 でも男一人で入りずらく、 長いこと行けていないのです」
アラタ「付いてきて下さるお礼に、 僕のおごりでどうでしょうか?」
リン「ふふっ、それならご一緒させてもらいます」
アラタ「やった! それじゃあ行きましょうか」

〇中華料理店
リン「このお店って・・・」
ユウラン「いらっしゃいませ」
ユウラン「あっ!リンさん!」
リン「ふふっ、こんにちは」
アラタ「あれ?知りあいですか?」
リン「ええ」
アラタ「なんだ、そうだったんですね・・・ このお店のオススメをいただけますか?」
ユウラン「はい、お任せください お料理お持ちしますね」
リン「私もこの間初めて来て・・・ ここ、素敵な外観のお店ですよね」
アラタ「目新しくなくてすみません」
リン「いいえ、 まだ食べていない料理も多いので、 素直に嬉しいです」
アラタ「リンさんは優しいですね」
柄の悪い男「おいっ! サイタイはいるか!」
柄の悪い男「あの女!許さねぇ!」
ユウラン「・・・!!」
ユウラン「コ、コウヨウ様・・・ サイタイは今、外出中です・・・」
アラタ「コウヨウ!? なんでこんな小さな店へ・・・」
アラタ「リンさん、目をつけられると厄介だ 静かにしていよう」
リン「ええ・・・」
コウヨウ「ふん、サイタイめ 私に逆らうとは、いけすかぬ女だ」
柄の悪い男「──!!」
柄の悪い男「おい!お前は!」
「!!」
柄の悪い男「この前あの陰陽師と一緒にいた女だな!?」
リン「・・・!! えっと・・・」
柄の悪い男「こいつ!」
リン「きゃっ!」
アラタ「!!」
アラタ「リンさん! やめてください!」
柄の悪い男「んだテメぇ!」
アラタ「っ!」
リン「アラタさんっ!」
柄の悪い男「来いっ! あの陰陽師のエサにしてやる!」
ユウラン「リ、リンさん!」
リン「あなたに付いて行く義理はありません」
コウヨウの手下「生意気な女め! こいつっ!」
リン「!!」
リン「痛っ!」
コウヨウの手下「来い!」
リン「離してください!」
柄の悪い男「このやろ! おとなしくしろ!」
リン「・・・うっ!!」
コウヨウ「連れていけ」
コウヨウの手下「はっ!」
ユウラン「リンさん!誰かぁっ!!」
アラタ「ゲホっゲホっ・・・」
ユウラン「大丈夫ですか?!」
アラタ「くそっ!リンさんが・・・! ゴホっ、ゴホっ・・・」

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