鏡石(かがみいし)(脚本)
〇山道
リン「・・・」
葵「この涼尾山に鏡石ってのがあるのかい?」
リン「うん、お母さんからはそう聞いてる」
葵「あぁ、そうか、 リンちゃんのお母さんが雨呼びの巫女さんだったね」
リン「うん、元あった水鏡も、 私たちの御先祖様が作ったものらしいの」
リン「ここの涼尾山というのは、 元々"龍尾山"といって、 龍神様をお祀りしていた山ってきいてるよ」
紫苑「で、肝心の鏡石のために、 どこでご祈祷をすればいいんだ?」
リン「水鏡池っていう場所があるらしいの なんとなくだけど、こっちな気がする・・・」
紫苑「ええっ?勘で歩いてたのか?」
リン「勘じゃないよ。確かに何かを感じるの 引き寄せられる感じ」
葵「ふぅん、僕には何も感じないけどね」
リン「こっち・・・、だと思う」
紫苑「まぁ、付いていくしかないか・・・」
葵「ふふっ、楽しいじゃないかい」
葵「さぁ、僕らも遅れないようにね」
〇森の中の沼
リン「・・・」
紫苑「ここか?」
リン「そうだと思う・・・」
紫苑「暗くて不気味な場所だな」
葵「ずいぶん荒れているね 本当にここに鏡石があるのかい?」
リン「ここだと思うんだけど・・・ とりあえず、ご祈祷してみるね」
リン「なっなに!?」
葵「池の中に何かいる!」
紫苑「下がれリン!」
水の妖怪「グルル・・・」
リン「水の魔物!?」
紫苑「危ない!よけろ!」
葵「大丈夫かい?」
リン「う、うん・・・」
紫苑「これを倒さないと ご祈祷なんて始めれないぞ!」
葵「じゃ、僕がやってあげるよ!」
葵「悪く思わないでね!」
葵「くそっ! こいつ水でできてるから、すぐに再生するよ!」
紫苑「どうする!?」
リン「──」
リン「水でできている・・・ でもこの水は穢れている・・・」
リン「だとすれば!」
リン「紫苑!葵!時間を稼いで!」
リン「試したいことがあるの!」
「分かった!」
葵「じゃ、 リンちゃんを守りながら戦わなきゃね」
葵「いくよ、紫苑くん!」
紫苑「あぁ!」
〇森の中の沼
紫苑「捕縛してみる! 葵は気をそらせてくれ!」
葵「了解!」
葵「こっちだ!」
葵「くらえっ!」
光葵「くそっ!やっぱりすぐ再生するよ!」
紫苑「俺の番だ!」
紫苑「彼方から呼びよせし、 罪をくくる鎖!ここに現れり!」
水の妖怪「ググググ・・・」
紫苑「よしっ!捕まえたぞ! 動きが止まった!」
紫苑「リン!まだか!?」
リン「天に祈りて、我が心を捧ぐ・・・」
リン「天よ! 我が祈りを聞き入れたまえ!」
〇森の中の沼
紫苑「雨・・・?」
葵「なんて優しい雨だろう・・・」
水の妖怪「・・・」
紫苑「く、崩れ散った・・・ リンがやったのか?」
リン「上手く・・・できた」
葵「この雨、リンちゃんが?」
リン「うん、相手が水の魔物なら、 聖なる雨で内側から崩せるんじゃないかってね!」
葵「リンちゃんって、 のんびり屋さんと思ってたけど、 案外賢いんだね」
リン「えへへっ、そうでしょう?」
リン「でも二人が戦って 足止めしてくれてたおかげだよ」
リン「ありがとう! 二人ってとっても頼りになるね!」
紫苑「・・・」
葵「──」
リン「さっ!ご祈祷を始めるわね」
〇森の中の沼
葵「雨、気持ちがいいね」
紫苑「あぁ、そうだな」
紫苑「・・・」
紫苑(前は祈祷しても雨が降らなかったのに、 リンも成長してるんだな・・・)
紫苑(リンのこと、見てくれていますか? 雨音さん、おじさん・・・)
リン「紫苑? どうかした?」
紫苑「別に。なんでもないさ」
リン「そう? じゃあ始めるね」
葵「僕らも何か手伝った方がいいのかい?」
リン「ううん、しばらく祈るだけだから、 座って休んでて」
葵「分かった、 ここでリンちゃんの可愛い顔を見ておくよ」
リン「ふふっ。はいはい」
紫苑「なんか、葵に対してだけ甘くないか?」
紫苑「俺が同じこと言ったら怒るだろ?」
リン「なあに?別にいいじゃない」
リン「葵は可愛げがあるもの」
紫苑「な、なんだよそれ・・・」
葵「こらこら、紫苑くん! 僕に妬かないの!」
紫苑「なっ! 葵になんて妬いてねえよ・・・」
リン「ふふっ、二人は仲良しね じゃあ今度こそ始めるね」
〇森の中の沼
リン「・・・」
リン「──」
リン「・・・」
葵「ご祈祷って大変だね こんなに長い時間をかけて、 祈らないといけないのかい?」
紫苑「そうだな だが・・・」
紫苑「俺はリンが祈ってる姿、好きだな」
紫苑「とても綺麗なんだ・・・」
葵「・・・」
葵「ふふっ、僕には本音を言ってくれるんだね」
紫苑「・・・悪いかよ」
葵「全然! ま、僕にも弟が出来たみたいで嬉しいよ」
紫苑「弟っ!?」
葵「僕の方が年上だと思うよ」
紫苑「いくつなんだ?」
葵「えーっと、27?」
紫苑「えっ・・・」
葵「まっ、鬼の・・・というか、 妖としてはかなり若い方だと思うけどね」
紫苑「そうなのか・・・」
紫苑「俺はてっきり同い年くらいだと・・・」
葵「いや、さすがにそれはないでしょ」
紫苑「どういう意味だよ」
葵「ふふっ」
リン「紫苑、葵! 終わったよ」
〇森の中の沼
リン「一応、ご祈祷したんだけど・・・ 何も起こらないね」
紫苑「おばさんからは何て聞いてるんだ?」
リン「お母さんが言うには、 ご祈祷をすると、鏡石が光って池から出てくるんだって」
紫苑「そんな気配は微塵もないな・・・」
葵「・・・ん?」
葵「さっきの水の魔物が崩れた場所にあったんだけど──」
葵「すごく惹かれる・・・ 違うかい?」
リン「えっ?」
リン「ほんとだ、なんか──」
リン「温かい・・・」
紫苑「さっきの魔物が食ってたんじゃねぇか?」
葵「そうかもしれないね」
リン「だからあんなに凶暴だったのかしら?」
紫苑「ま、何はともあれ一件落着だな!」
紫苑「で、これをどうするんだ?」
リン「この鏡石を加工して、 水鏡として作りあげないといけないの」
リン「神の依り代になるように、 心を込めて作りあげないといけない・・・ らしいんだけど、どうしたらいいんだろう」
葵「あぁ、だったら加工産業で有名な、 室橋(むろはし)に行くのはどうだい?」
紫苑「室橋?」
葵「僕の愛刀もその室橋で作られたモノなんだ」
葵「室橋にいる妖怪も、人間を見て 加工の真似事をしていて──」
葵「ほら、人間のモノと比べても 遜色ないくらい精巧だろう?」
葵「そんな室橋には 石を加工してくれる人間もいくらかいると思うんだ」
リン「いいね!そこへ行ってみましょう」
紫苑「室橋はここからどのくらいかかるんだ?」
葵「うーん、そうだね・・・ 人間の足だと1週間くらいじゃないかい?」
葵「僕だったら険しい山道を近道できるけど、 君たちはそうじゃないだろう?」
リン「うん、優しい道でお願い! じゃあ葵、案内お願いね」
〇原っぱ
リン「・・・」
リン「──」
紫苑「リン?どうした?」
リン「この景色・・・ いつまで続くんだろう──」
葵「何の話だい?」
紫苑「・・・」
紫苑「雨がこのまま降らなかった時のことだよ」
葵「・・・」
リン「ねぇ、ここで少しご祈祷をして、 雨を降らせてもいいかな?」
紫苑「あぁ、もちろん」
〇原っぱ
紫苑「好きだな・・・」
リン「えっ?」
紫苑「あぁ!いや! 雨が、だよ!!」
葵「ふふっ」
リン「そう? 確かに、自分で言うのもなんだけど、 綺麗な雨よね」
リン「よし! この土地に雨の加護がついたから、 しばらくはこの土地は雨が降ると思うわ」
葵「そんなことまで出来るのかい?」
リン「うん!すごいでしょう? さぁ、もう行きましょうか」
「あぁ」
〇山間の集落
リン「ふぅ、ずいぶん今日は歩いたね」
紫苑「おっ!ちょうど小さい集落があるぞ」
紫苑「あれくらいの規模なら、 きっと宿もあるだろう。今日は泊まれるな!」
葵「そう? じゃあ僕はこの辺で休んでるよ」
リン「えっ?」
葵「鬼の僕は入れないでしょ?」
リン「ダメよ!葵も大切な仲間なんだから! 野宿なんてダメ!」
葵「・・・」
紫苑「あっ! だったら、こうしようぜ──」
紫苑「──」
〇旅館の受付
リン「こんばんは 泊まりたいのですが、部屋は空いてますか?」
宿の女将「こんばんは よく、お越し下さいました」
宿の女将「ええ、空いてますよ。 お二人様ですね」
紫苑「あ、いえ! えっと・・・」
紫苑「この子もいいですか?」
葵「にゃ、にゃあ?」
宿の女将「まあまあ、可愛いお客様だこと もちろん、かまいませんよ」
宿の女将「ただし、爪で障子を破らないで下さいね」
葵「にゃあ!」
リン「き、気をつけます」
宿の女将「さっ、旅でお疲れでしょう? 部屋へご案内いたしますね」
葵「どうも」
宿の女将「えっ?」
紫苑「ど、どうも!!」
宿の女将「まあ、私ったら、 今このネコちゃんが喋ったように、 勘違いしましたわ──」
宿の女将「ほほほっ、 疲れてますのね、ごめんなさいね」
宿の女将「さっ、どうぞ」
紫苑「はぁ・・・」
葵「・・・すまない」
リン「危なかったね・・・」
〇古めかしい和室
葵「人間の家屋は快適だな」
リン「ふふっ、そうでしょう?」
紫苑「三人だとちょっと狭いな」
葵「僕はこのままでいいよ?」
葵「リンちゃんの枕元で寝てもいいかい?」
紫苑「・・・!!」
リン「ええ、いいわよ」
紫苑「良くないっ!」
紫苑「葵は俺の布団で寝るんだ、いいな?」
葵「紫苑君、冗談だよ 僕はその辺の床で眠るさ」
葵「どうもこの布団ってのは 体に合わないんだよ」
リン「そうなの?」
葵「あぁ。野宿が普通だったからかな? 固い地面の方が落ち着くんだ」
リン「葵がそれでいいなら、私は何もいわないよ」
葵「じゃあ好きにさせてもらうね」
リン「私、ご飯の前に温泉に入ってくるね」
紫苑「じゃあ俺達も入るか」
葵「じゃあ僕はリンちゃんと──」
紫苑「葵は俺と入るんだ」
葵「分かったよ」
リン「ふふっ じゃあ、また後でね」
〇露天風呂
葵「温泉だっ!」
紫苑「おいおい、葵、はしゃぎすぎて転ぶなよ?」
葵「僕、大鳴の宿で君と一緒に入ってから、 温泉の虜になったんだ」
葵「人間は気持ちが良いものを たくさん作るね」
紫苑「ははっ、そうか」
葵「じゃあさっそく・・・」
葵「・・・」
葵「ふぅ──」
紫苑「猫が水に喜んで入るなんて、 不思議な光景だな」
葵「気持ちが良いね」
葵「・・・」
葵「そうだ この隣は──」
葵「リンちゃんが入ってるんだろう?」
紫苑「なっ!」
葵「僕、リンちゃんと入ってこようかなぁ」
紫苑「ダメだっ!このっ!」
葵「やっ!やめてくれ!紫苑くん! 溺れ──」
葵「ゴボゴボっ・・・」
葵「やっ!やったな! この──!」
紫苑「こら!葵! やめろ!」
紫苑「ゲホっ、ゲホっ!」
葵「ははっ! これはこれで楽しいね!」
紫苑「おいおい、変な楽しみ方 覚えるなよ・・・」
〇露天風呂
リン「ふぅ、気持ち良かった さっ、着替えよ──」
リン「あっ──」
リン「・・・」
リン「あの人から貰ったかんざし・・・」
リン「清継・・・」
リン「どこで、何をしていますか──?」
リン「・・・」
〇古めかしい和室
紫苑「こらっ、じっとしてろって」
葵「僕には必要ないってば」
リン「ふふっ、何してるの?」
紫苑「葵が体を拭かせてくれないんだ リンからも言ってくれよ」
リン「風邪ひいちゃうよ?」
葵「君たち・・・ 妖怪は風邪なんてひかないよ」
紫苑「それだけの問題じゃねぇだろ──」
紫苑「葵に人間の常識も教えてやらないとな」
葵「だから、僕には必要ないってば」
紫苑「リンの式神なんだから、 必要ないってことはないだろ?」
リン「そうよ? 葵は私のモノなんだから、私に従いなさい」
葵「はぁ、 分かったよ・・・」
葵「人間の世界は面倒なことばかりだね」
リン「ふふっ! だから楽しいの」
〇旅館の受付
宿の女将「どうも! 機会があればぜひ寄っていって下さいね」
リン「はい、ありがとうございました」
リン「じゃあ、室橋を目指しましょうか」
紫苑「あぁ」