雨呼びの巫女と日照りの神

桜木ゆず

大祓詞(おおはらえのことば)(脚本)

雨呼びの巫女と日照りの神

桜木ゆず

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〇屋敷の門
光葵「ここが和歌の家だよ」
光葵「僕が屋根の上から入って門を開けるから、 少し待ってて」
リン「うん、待ってる」
紫苑「・・・」
紫苑「ほんとにやるんだな」
リン「ふふっ、いいじゃない。 人助け・・・じゃなくて鬼助けね!」
紫苑「はぁ。リンはお人好しだな」
「僕だ。 今、門を開けるから」
光葵「さっ。早く行こう」
リン「うん」

〇屋敷の寝室
光葵「和歌?起きているかい? 僕だ」
和歌「みつき!」
和歌「今日は来ないかと思った!」
光葵「和歌」
光葵「今日はね、 お客さんを連れてきたんだ」
和歌「えっ?」
光葵「入って」
紫苑「失礼します」
リン「こんばんは、私はリンです こっちは紫苑」
和歌「あなたたちは一体・・・」
リン「私たちは巫女と陰陽師です」
リン「光葵から、あなたの千里病のこと、 聞きました」
和歌「そうですか・・・」
和歌「私、こんな力いりません」
和歌「なくなればいいの──」
和歌「どうにかなりませんか?」
リン「少し、じっとしてもらえますか?」
和歌「は、はい・・・」
リン「──」
リン「感じる・・・」
リン「妖の気配を」

〇屋敷の寝室
光葵「どうだい? どうにかなりそうかい?」
リン「やってみないと分からないけれど、 大祓詞(おおはらえのことば)を やってみる」
和歌「大祓詞?」
リン「簡単に言うと妖怪や疫病なんかの "穢れ"を祓うご祈祷ね」
和歌「ご祈祷・・・」
リン「とにかく、千里虫を祓ってみる」
和歌「お願いします・・・!」
和歌「私、今のままじゃお嫁にも行けないもの」
光葵「・・・」
リン「お嫁さんになりたいの?」
和歌「うん、私、早くあの人と・・・ 素敵な商屋の旦那様と一緒になりたいの」
リン「そ、そう・・・」
光葵「・・・」
リン「今日の夕方、大祓詞をしてもいいかしら?」
和歌「分かりました。 どうかお願いします」
リン「じゃあ、これで私達は失礼するね」
和歌「はい」
和歌「みつき、またね!」
光葵「あぁ」

〇古風な和室
光葵「二人とも、ありがとう。 感謝するよ」
リン「まだ成功するとは限らないから 上手く行ったら、そのときにお礼を言って」
光葵「あぁ」
リン「ねぇ、紫苑・・・」
紫苑「うん?」
リン「私・・・」
紫苑「な、なんだよ・・・ そんなに見つめて・・・」
紫苑「リン!? リン!しっかりしろ!」
リン「・・・zzz」
紫苑「なんだ、疲れて眠っただけか」
紫苑「リンを布団に運ぶからどいてくれ」
光葵「あぁ」
紫苑「よっと・・・」
紫苑「リン、よく頑張ったな おやすみ」
光葵「リンちゃん、可愛いね」
紫苑「!!」
光葵「ははっ、噛みつかれそうだ まるでご主人様を守る番犬だね」
紫苑「・・・なんだと?」
光葵「怒らないで、冗談だよ。 だけど、君がうらやましい」
紫苑「──?」
光葵「彼女の隣で、普通に町を歩けるだろう?」
光葵「鬼である僕には無理なことだ」
紫苑「・・・お前──」
光葵「僕にとって、僕の姿を驚かず、 受け入れてくれた人は和歌だけだった」
光葵「僕にとって和歌はまぎれもなく特別だ。 でも彼女にとってはそうじゃない」
光葵「和歌にとって僕は妖怪の・・・ 少し珍しい友の一人、といった所か」
光葵「だからこの、和歌への秘めたる想いは、 永遠に僕の中に眠らせておくよ」
紫苑「・・・」
紫苑「俺は・・・ 俺も彼女に言ってない秘密がある・・・」
紫苑「・・・」
紫苑「何を言ってんだ、俺は・・・」
紫苑「俺も少し眠る・・・」
光葵「・・・あぁ、おやすみ 僕も少し眠るよ」
紫苑「ああ」
光葵「ふふっ、 人間は案外、可愛げのあるものなんだね」

〇屋敷の門
リン「あっ! 和歌さん!」
和歌「みなさん!」
和歌「えっと、みつきは?」
「ここだ」
和歌「えっ・・・」
光葵「こんな昼間に、 鬼の僕はそこら辺をうろつけないからね」
和歌「ふふっ。いつもは背の高いみつきに、 見下ろされてばかりだから、少し新鮮ね」
リン「さぁ、大祓詞をしましょう」
和歌「はい! 場所は泰介(たいすけ)様のお屋敷を お借りします」
リン「泰介様?」
和歌「私の許婚(いいなずけ)で、 商屋の旦那様です」
光葵「・・・」
リン「そうですか・・・」
和歌「事情は彼に全て話しました 彼も私の千里眼を取り除きたいと言ってくれました」
和歌「彼と違って、父と母はきっと、 私が千里眼を無くしたと知れば、 落胆すると思います」
和歌「でも、幸いなことに私の家は 商いで十分稼いでますし、 きっと分かってくれるはずです」
リン「分かりました。 ではその泰介様のところへ行きましょうか」

〇広い和室
和歌「泰介様!」
泰介「和歌!」
和歌「こちらが巫女のリンさんと、 陰陽師の紫苑さんです」
泰介「私は泰介と言います。 どうか和歌を、よろしくお願いします」
「はい」
泰介「君がみつきだね」
泰介「いつも和歌と 仲良くしてくれてありがとう」
光葵「・・・」
光葵「いいえ」
リン「ではさっそく始めますね あなたは少し下がっていて下さい」
泰介「あぁ」
リン「紫苑、準備をお願い」
紫苑「あぁ。 和歌さん、ここへ座ってくれますか?」
和歌「はい」
リン「紫苑?」
紫苑「あぁ、いつでもいけるぜ」
リン「じゃあやろう・・・」
リン「・・・」
紫苑「おいでませ、おいでませ、 そなたに眠る、穢れしモノよ、おいでませ」
リン「祓いませ、祓いませ、 そなたに眠る、穢れしモノを、祓いませ」
和歌「──!!」
リン「出た!」

〇広い和室
和歌「これが千里虫の正体・・・」
紫苑「大丈夫、危険はありません」
紫苑「ですが離れていてください」
和歌「は、はい!」
紫苑「リン、もう一踏ん張りだ いけるか?」
リン「ええ、いくわよ!」
「掴みませ、掴みませ、 穢れし正体掴みませ!」
「我らそなたの身を裂きて、 天から降る神の伊吹よ! 日落つる大地へ降り注げ!」

〇広い和室
リン「・・・ふぅ」
紫苑「大丈夫か、リン?」
リン「うん 上手く出来たみたい」
紫苑「頑張ったな・・・」
和歌「終わったん・・・ですか?」
リン「ええ、 これでもう、千里眼はなくなりました」
和歌「・・・!!」
和歌「やったぁ!」
和歌「泰介さま!」
泰介「何ともないかい?」
和歌「はい!」
泰介「ああっ! 君が無事で何よりだ・・・」
泰介「和歌、本当に良かったね・・・」
和歌「うん!これで普通に暮らせるわ!」
光葵「・・・」
光葵「──」
和歌「・・・?」

〇日本庭園
光葵「・・・」
光葵「ははっ、分かってたじゃないか・・・」
光葵「何を今さら、 落ち込むことがあるって言うんだ・・・」
和歌「みつき!」
光葵「和歌・・・ 良かったね」
和歌「みつきのおかげだよ! 本当にありがとう!」
光葵「・・・」
光葵「ああ」
光葵「さぁ、大事な人の所へお戻り」
和歌「うん!」
光葵「・・・」
光葵「──」
リン「光葵」
光葵「・・・リンちゃん」
光葵「彼は・・・紫苑くんは?」
リン「紫苑なら、 和歌さんにもう虫が寄ってこないように、 守りのまじないを掛ける準備をしてる」
光葵「そうか、本当にありがとう」
光葵「・・・」
光葵「リンちゃん、お願いがあるんだ・・・」
リン「なあに?」
光葵「僕を・・・」
光葵「滅してくれないかい?」
リン「えっ・・・」

〇日本庭園
光葵「僕は彼女が好きだった」
リン「・・・」
光葵「でも彼女にはもう、僕は必要ないみたいだ いや、最初からそうじゃない」
光葵「僕が彼女を必要としてたんだ でも彼女はもう、十分に幸せだ」
光葵「彼女は普通に生きて、普通に暮らすべきだ だけど僕はそこに、いないほうがいい」
光葵「辛いんだ・・・ 辛いんだよ・・・」
光葵「僕には、必要としてくれる人がいない 生きる目的もない・・・」
光葵「このまま、消えてしまいたい・・・」
リン「・・・光葵」
リン「だったら、光葵、私のモノになって?」
光葵「えっ?」
リン「光葵、私の式神になりなさい 私のために生きて欲しい」
光葵「式神に・・・?」
リン「私があなたを必要とするから! だから消えるなんて言わないで!」
リン「生きる意味がないモノなんて、 どこにもないんだよ・・・」
光葵「・・・リンちゃん・・・」
光葵「分かった。 君の式神となろう」
リン「ありがとう」
光葵「式神はどうやったらなれるんだい?」
リン「私があなたに 式神としての名前をつけるから それを受け取ってくれればいいの」
光葵「名前を受け取るだけでいいのかい? 分かった」
リン「新しい名前、どうしようかな・・・」
リン「・・・みつき、ミツキ、光葵──」
リン「よし、あなたの名前を決めたわ」
リン「・・・」
リン「我を守りし者、ここに在り」
リン「そなたの名は葵(アオイ) これを受け取りし時、そなたを式神として使役す」
リン「元の名を再び呼ぶその時まで、 そなたは我に従い、我を守り、我を愛せ」
光葵「・・・あぁ、僕は今から葵だ。 その名を受け取るよ」
光葵「──!!」

〇広い和室
光葵「・・・」
紫苑「リン、和歌さんに 守りのまじないを掛けておいたぜ」
リン「ご苦労様」
紫苑「・・・ん?何かあったのか?」
光葵「別に、何もないよね リンちゃん?」
リン「あははっ・・・」
紫苑「な、なんだよ・・・」
和歌「みなさん、本当にありがとうございました」
光葵「和歌・・・」
和歌「ん?」
光葵「僕は旅に出ることにするよ」
和歌「えっ・・・」
光葵「僕はもう、 ここへは帰ってこないかもしれない 和歌、元気でね」
和歌「・・・みつき」
和歌「ありがとう」
和歌「私にとってみつきは特別だよ」
光葵「・・・」
和歌「だから絶対、また会いにきてね」
光葵「あぁ、覚えておこう」
泰介「あなた達は旅をされてるんですよね? これは少ないですが、僕らからのお礼です」
紫苑「お金!こ、こんなにたくさん! どうも、感謝します」
泰介「いいえ、少ないくらいですよ」
リン「ではもう私たちは行きますね」
泰介「はい、本当にありがとうございました」
和歌「ぜひまたいらして下さいね」
リン「ええ」
紫苑「ではこれで」
光葵「・・・」
光葵「和歌、 幸せに、ね・・・」
和歌「・・・」
和歌「みつき、ありがとう──」

〇古風な和室
リン「と、いうことで 葵は私の式神になったから!」
リン「これからもよろしくね!」
葵「あぁ 式神として僕は何をすればいいのか、 ちっとも分からないけれど、よろしくね」
紫苑「おいおい、普通は陰陽師が式神を持つものなんだぞ?」
紫苑「巫女のリンが式神を持つなんて んな、めちゃくちゃな・・・」
リン「別にいいじゃない! 私には陰陽師の血も流れてるんだから!」
リン「使える物は使わないと損よ!」
葵「ふふっ、リンちゃんって可愛いね」
紫苑「なっ・・・!」
葵「じゃあ改めまして・・・」
葵「僕は鬼の妖怪のミツキ── じゃなかった、葵だ この新しい名前も気にいってるよ」
葵「紫苑くんは僕のこと好きに呼べばいいよ」
紫苑「・・・じゃあアオイで」
葵「いいね」
葵「僕は妖力はあんまりないけど、 腕力には自信があるんだ。 この愛刀と共に君たちの力になろう」
リン「ありがとう!」
葵「それで君達のことを何も知らないから、 君達の関係と旅の目的を教えてくれるかい?」
リン「──」
紫苑「俺が話すよ・・・」
紫苑「実は俺たちは幼なじみで──」
紫苑「──」

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