雨呼びの巫女と日照りの神

桜木ゆず

千里眼(せんりがん)(脚本)

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桜木ゆず

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〇原っぱ
  それから3週間余り・・・
リン「・・・」
紫苑「・・・」
リン「暑いね・・・」
紫苑「そうだな・・・ 少し日陰で休むか」
リン「うん」

〇大樹の下
リン「ふぅ・・・」
紫苑「なぁリン、鏡石のある涼尾山まで、 あとどのくらいだ?」
リン「涼尾山の麓には、 大鳴(おおなき)っていう宿場町があって、」
リン「その、大鳴までは もう少しのはずなんだけど──」
紫苑「待て、向こうから誰かくるぞ」
久遠「──チュンチュン」
身なりの良い男「はははっ、そうかそうか。 それで久遠はどう──」
身なりの良い男「むっ?」
紫苑「な、なぁ、リン・・・ 今あいつ一人でしゃべってたよな」
リン「しっー!! 失礼でしょ!」
紫苑「・・・」
リン「こ、こんにちは」
身なりの良い男「うむ」
身なりの良い男「しかし、なんとまぁ、 そなたらは、可笑しな二人組だな」
「えっ?」
身なりの良い男「着ているものと、 中身がちぐはぐではないか」
紫苑「はぁ?」
身なりの良い男「巫女の格好のそなたは・・・ 陰陽師の方が良いのではないか?」
リン「もしかして、 陰陽師の才能の方があるってことなのかな?」
紫苑「さぁな」
身なりの良い男「そしてそこの、 幸(さち)の薄そうなお主は──」
身なりの良い男「まぁ、そうありたいのであれば、 わしは何も言うまい」
身なりの良い男「お主にはその権利も半分あるのだから」
紫苑「はぁ?」
リン「紫苑、落ち着いて」
リン「あの! 私たち大鳴まで行きたいのですが、 道をご存じですか?」
身なりの良い男「あぁ、大鳴なら、 あそこの街道をまっすぐに、 半日ほど歩くと着くだろう」
リン「ありがとうございます」
身なりの良い男「むっ? ──良く良く見ればそなた・・・」
身なりの良い男「美しいな」
リン「えっ・・・」
身なりの良い男「良ければわしらと共に来ぬか?」
リン「ええっと・・・」
紫苑「なんなんだあんた? 俺たちはもう行く、リンこっち来い」
リン「う、うん──」
身なりの良い男「そうか、残念だ ま、また縁があろう。それまでは去らばだ」
紫苑「・・・行くぞ、リン」
リン「さ、さようなら」
身なりの良い男「──」
久遠「チュンチュン!」
身なりの良い男「久遠、そう妬くな」
身なりの良い男「だが嫉妬する久遠もまた、可愛いのぉ」
久遠「チュン!」

〇温泉街
紫苑「やっと着いたな」
リン「ええ。ここが大鳴ね あの山がきっと涼尾山ね」
紫苑「良かった、今夜は泊まれそうだな」
紫苑(リンは気丈に振る舞ってるが、 ここのところ野宿ばかりで、 かなり参ってる様子だからな・・・)
紫苑「宿を探すか」
リン「うん」

〇古風な和室
リン「お金、もう半分使ってしまったね」
紫苑「そうだなぁ、節約するか、 どこかで金を都合しないとな」
リン「うーん 私、占いでもやって稼いでみようかな」
紫苑「占いなんてやったことあるのか?」
リン「な、ないけど・・・ けど、鬼門の方角くらいは分かると思うの」
紫苑「まぁ、そうだな、 試してみてもいいが──」
「出たぞー!鬼だ!」
リン「な、なにっ?」
リン「外からだわ! 窓から見てみましょう!」

〇温泉街
銭形平次「くそっ!どこへ行きやがった!」
岡っ引き「オヤジ!屋根の上だ!」
銭形平次「む──」
鬼「・・・くそっ」

〇古風な和室
リン「お、鬼っ!」
リン「う、うそっ! こっちに来る!」
紫苑「リン下がれっ!」
紫苑「っ──!!」
鬼「──っ!」
紫苑「鬼めっ!」
紫苑「お前を滅する! 恨むならお前の運命を恨めっ!」
鬼「──ッ!」
リン「待ってっ、紫苑!」
紫苑「あぁっ?」
リン「怪我してる!助けなきゃ!」
鬼「・・・っ!」
紫苑「な、そんなこと──」
「あそこだっ!あの宿屋だ!探せっ!」
鬼「くっそ・・・」
リン「紫苑っ!変化の術を!」
紫苑「なっ、なんで!」
リン「いいから!」
紫苑「あーもー!くそっ! 鬼っ!動くなよ!」
鬼「・・・っ!」
紫苑「そなたの姿は名もなき獣・・・」
紫苑「現身(うつしみ)を、 空蝉(うつせみ)として──」
紫苑「ここに写せ!」
鬼「・・・なっ!」
リン「しっー!静にっ!」

〇古風な和室
「ここかっ!」
銭形平次「──っ!」
紫苑「──!!」
リン「こ、こんばんは・・・」
銭形平次「むむっ!」
銭形平次「ここに鬼が来なかったかっ!」
鬼「・・・!!」
リン「さっきの鬼なら、 廊下を右に曲がって外に出て行きました!」
銭形平次「そうかっ!感謝する!」
リン「ふぅ──」
紫苑「おいおい、どうすんだよ・・・」
鬼「た、助かった。礼を言うよ・・・ 姿を戻してくれたらすぐに出て行くから」
リン「待って!!」
リン「ほら、怪我の手当てをしましょ!」
鬼「・・・」

〇古風な和室
鬼「・・・」
紫苑「・・・」
リン「紫苑、にらまないのっ!」
紫苑「・・・にらんでねぇよ」
光葵「助かった、僕は光葵(みつき)だ 君たちに素直に感謝するよ」
リン「どういたしまして 私はリン、こっちは紫苑よ」
紫苑「なぜお前、追われてるんだ? ・・・誰かを傷つけたからか?」
光葵「僕はそんなことはしないっ!」
紫苑「・・・」
リン「だっらどうしてなのか、 理由を聞いてもいいかな?」
リン「それがあなたを助けたお礼・・・、 でどうかしら?」
光葵「・・・」
光葵「ある人を・・・ 和歌を助けたいからだよ」
「・・・」

〇古風な和室
光葵「和歌はこの町の商屋の娘で、 幼い頃からよく”変”なものが見えたらしい」
光葵「だから、山菜を採りに入った涼尾山で 僕を初めて見た時も驚かなかった・・・」

〇岩山の中腹
光葵「日が暮れるなぁ そろそろ眠れる場所でも探すか・・・」
光葵「ん?」
和歌「あれれ?」
光葵(なんだ、人間の娘か 見つかると厄介だ・・・ 隠れて通りすぎるのを待つか)
和歌「むむむっ・・・」
和歌「道に迷った・・・!!」
光葵「・・・」
和歌「こういう時は、 沢を下れば山から降りれるはず!」
和歌「少し危ないけど、崖側を歩いて──」
和歌「きゃっ!」
光葵「川に落ちたっ! だけど僕には関係──」
和歌「誰かっ!助け・・・」
光葵「──!! あぁ、もう!!」

〇小さい滝
和歌「ゲホッゲホッ・・・」
光葵「君、大丈夫かい?」
和歌「ええ、少し収まりました、ありが──」
和歌「・・・!!」
和歌「妖怪・・・」
光葵「・・・」
和歌「私・・・」
和歌「妖怪に触ったの初めて!」
光葵「えっ・・・」
和歌「私、和歌っていうの、あなたは?」
光葵「み、光葵だ」
和歌「みつきっ!素敵な名前の妖怪さんね! ありがとう!」
光葵「・・・」

〇古風な和室
光葵「それからも和歌とは山で何度か会ってね 僕らは親しくなったんだ」
光葵「だけど、和歌と出会ってから、 一年と少し経った頃、それは始まった」
光葵「千里病って聞いたことあるかい?」
リン「千里病?」
光葵「千里虫という妖怪が、体内に宿ることで、 千里眼を持つという病のことさ」
紫苑「えっ・・・」
光葵「千里眼とは未来のことを予知できたり、 その人の嘘や真を見分ける力のこと・・・」
光葵「和歌はこの千里病を患ってしまったんだ」
紫苑「それの何が問題なんだ?」
光葵「見たくもない未来を勝手に見て、 知りたくもない相手の心を読むんだよ?」
光葵「それは幸せといえるかい?」
紫苑「・・・」
光葵「和歌の父親はあろうことか、千里眼を広め お金を貰っては、和歌に罪人の嘘真や 富豪の未来を見させた」
光葵「・・・和歌は優しすぎるんだ だから、傷つくのはいつも和歌だった」
光葵「僕はそれが嫌でね。和歌の千里病を治そうと、 薬屋から適当に薬を盗んで和歌に与えてたわけだ」
リン「・・・」
光葵「今日で盗みは6件目さ」
光葵「和歌には山で採ってきた薬草と 嘘をついて渡しているんだ」
光葵「ま、和歌はこの嘘に気がついているかもしれないけどね」
リン「・・・」
光葵「人間にとって薬は高価で、 それを本当に必要としている人がいるのも知っている」
光葵「だけど僕は”鬼”だからね 人間の道理は関係ないのさ」
リン「・・・」
リン「あなたは優しい・・・ 優しいヒトね──」

〇古風な和室
光葵「・・・」
光葵「これで満足かい?」
リン「私達を和歌さんに会わせてもらえないかな?」
光葵「どうして?」
リン「私たちは巫女と陰陽師なの」
リン「千里虫が妖怪の一種なら、 なんとか出来るかもしれない」
光葵「・・・」
光葵「あぁ、分かったよ 和歌のためになるなら何でも試してみるさ」
紫苑「・・・」
光葵「和歌とは、いつも日の出前の卯の刻に、 彼女の家で会って、少しだけ話をしてるんだ」
光葵「僕はいつも屋根から入ってるんだけど、 僕が先に入って門を開けよう」
リン「分かった」
リン「じゃあ明日、早速行きましょう」
リン「よーし! そうと決まれば、宿の温泉に入りましょ?」
リン「紫苑、光葵にもう一度変化の術をかけて?」
紫苑「えっ?なんで?」
リン「光葵も動物の姿になって、 温泉に入ったらいいよ」
リン「ほら、所々汚れてるし、 血も少しついてるから」
光葵「い、いいよ僕は・・・」
リン「そんな姿で和歌さんに会ってはダメよ?」
リン「じゃあ私は温泉に入ってくるから、 紫苑、あとはお願いね」
リン「光葵がお風呂に入ってなかったら、 私は紫苑を怒るからね」
紫苑「な、なんで俺が──」
光葵「紫苑君、苦労してるんだね・・・」
紫苑「リン~・・・っ!」

次のエピソード:大祓詞(おおはらえのことば)

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