太閤要介護・惨

山本律磨

其の参(脚本)

太閤要介護・惨

山本律磨

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〇屋敷の大広間
  『戻って来たとは?』
  久方ぶりに夫婦の間で埒もない軽口と犬も食わない喧嘩を繰り返している内に秀吉公の脳細胞が活性化されてきたのだ。
太閤「三成。饗応接待の支度は進んでおるか?」
三成「はっ。山海の幸を取り揃え明国使者の口に合うように調整しております」
太閤「明帝国への礼を失さぬように、かつ日本の威厳を示すよう気を配れ」
太閤「和を以て尊しとなす、この国の寛容と度量を以て講和をなすのだ!」
三成「よろず、ぬかりなく!」
太閤「期待しておるぞ佐吉!わっはっはっはっ!」

〇風流な庭園
吉継「聡明な殿下が戻ってきたか。良かったな」
三成「いや喜ぶべき話ばかりでもない」
吉継「どういうことだ?」
三成「確かに、羽柴秀吉様は戻ってきた」
三成「その記憶ごとな」
吉継「記憶ごと?」

〇屋敷の大広間
太閤「ところで、ちと相談があるのじゃが」
三成「はっ」
太閤「お茶々様の事じゃ」
三成「茶々・・・『様』?」
太閤「どうすれば茶々様を我が側室にできるか、ともに考えてくれ」
三成「・・・」
太閤「亡き右府様の姪御ならば俺は寧々を側室に下げてもいいと思っている」
太閤「俺は本気なのだ、三成!」
三成「・・・殿下」
太閤「わははは。殿下などと気の早い」
太閤「殿でよいわ。殿で」

〇御殿の廊下
  また、斯様なこともあった。
「おう三成!ここにおったか!」
三成「はっ。何か?」
太閤「そろそろ俺も性根を入れて利休宗匠に茶を習おうと思うのだが」
太閤「やはり百姓出に茶など似合わんかのう?」
三成「・・・」

〇風流な庭園
吉継「なるほどな・・・」
  刑部は全てを察し、ため息をついた。
  勿論お茶々様が淀君となられ殿下のお子を産んだ事も利休宗匠が既にこの世にいない事もすぐに思い出すのだが
  そういう相談が殿下にとって記憶ではなく現在進行形である時間が、日ごとに長くなっている気がしてならないのだ。
吉継「兎に角、今は明との和睦の事だけを考えろ」
  病がちの刑部の方が、むしろ私を元気づけてくれる。
吉継「よいか三成。何でも一人で背負い込むな」
吉継「俺も政所様も淀の方も、あの福島殿たちでさえも、お前の味方なのだ」
吉継「今は我ら豊臣家が一丸となり真の敵に備えねばならぬ時。努々忘れるな」
三成「真の敵・・・」
吉継「ああ、真の敵だ」
  きっと刑部の脳裏にはその時、私も思い浮かべたあの古狸が映っていたに違いない。
  続く

次のエピソード:其の四

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