エピソード17・傷の中(脚本)
〇殺風景な部屋
須藤蒼「そう、ですか・・・。お姉さん、記憶がない、と」
根本水鳥「うん、そうみたい。ポッケに“ミドリちゃんへ”って書いたハンカチが入ってたから、多分、私はミドリって名前なんだと思うけど」
根本水鳥「ごめんね、こんなお姉さんじゃ頼りにならないよね?」
須藤蒼「い、いえ!そんなこと、ないです!」
根本水鳥「私なんかより、君の方がもっと不安だと思う。だって君、まだ小学生でしょ?こんな小さな子を誘拐して、閉じ込めるなんて・・・」
根本水鳥「うん、そういうの、絶対許せないな!私、記憶はないけど子供は好きだったんだろうな、きっと」
根本水鳥「小さな子供を傷つけるような、悪いやつは絶対許せないって思うもの」
根本水鳥「自分が誘拐されてきたことより、記憶がないことより、そっちの方がキレてるってかんじ!」
須藤蒼「そ、そんな・・・僕なんかの、ために」
須藤蒼「僕、僕はその、何の役にも立てないのに・・・」
根本水鳥「気にしない気にしない!子供はね、自分の心配だけしていればいいの!」
根本水鳥「子供を守るのは、私達大人の役目であり義務なんだから。君は、私の心配なんかしなくていいんだからね?」
根本水鳥「それより、この部屋から脱出する方法を考えないといけないなーって」
根本水鳥「参ったなー。見事なまでに何もないぞ?」
須藤蒼「さっきの、ドアみたいなところはどうでしょう?あそこをどうにかしてこじ開けるミッション、なのかも」
根本水鳥「そうだねえ。ただの窪みに見えるけど、とりあえずそこから調べてみよっか。何か見つかるといいんだけど」
根本水鳥「まあ、安心してよ!何がなんでも、君だけは脱出させてみせるから!お姉さんに任せておいて!」
須藤蒼「・・・・・・」
須藤蒼「・・・はい」
〇黒背景
根本水鳥「あ、あああ、だ、だめ、もう、息が・・・」
根本水鳥「ごめんね、あおい、く・・・」
根本水鳥。
三十二歳、保育士。
子供好きで、年の離れた妹を娘も同然に可愛がり育ててきたという。
〇坑道
新條征爾「なるほど・・・・・・この炭鉱を掘ればいいのか」
須藤蒼「き、気を付けてください、征爾さん。罠があるかも・・・」
新條征爾「わかってる。でも、力仕事で良かった!どうしても、俺謎解きはあんまり得意じゃないからさ」
新條征爾「こういうことなら、少しは蒼くんの役に立てそうだ!」
須藤蒼「そ、そんなこと!だって最初の試練だって、スイッチ見つけてくれたの、征爾さんだし・・・!」
新條征爾「それは蒼くんがヒントをくれたからだ。俺一人じゃ、きっと見つけられなかったよ」
新條征爾「俺は絶対、この意味不明なゲームをクリアする!そして、ゲームを主催するやつに文句を言ってやるって決めてるんだ」
新條征爾「君みたいな小さな子を危険な目に遭わせるなんて、俺としては絶対許せることじゃないしな!」
須藤蒼「子供、好きなの?」
新條征爾「あれ、言わなかったっけ?俺、もうすぐパパになるんだぜ?」
須藤蒼「え、えええ!?ちょ、征爾さんいくつ!?そんな年には見えないんだけど・・・!!」
新條征爾「うーんこの髪色のせいなのかなあ?みんなにそう言われるんだよなあ。一度色抜いたら全然戻らなくなっちゃって・・・」
新條征爾「まあ、そこは署長も諦めてくれたからいいけどさー」
須藤蒼「署長?」
新條征爾「これも言ってなかったか。俺、消防隊員なんだよ。だから、こう見えて結構力持ちなんだ」
新條征爾「幼い頃からの夢だったんだよな!大きくなったら、消防隊員か警察官になるんだって!人を守る仕事をするんだって!」
新條征爾「今、それが叶って消防隊員として働いてる。しかも結婚して、カミさんに子供もできて、まさに幸せの絶頂なんだ」
新條征爾「だから何が何でも生きて帰るし、君も死なせない!消防隊員、新條征爾の名にかけてな!」
須藤蒼「・・・征爾、さん」
〇黒背景
新條征爾「あ、あああ・・・っ」
新條征爾「逃げろ、蒼くんっ!ごめん、俺の、せい、で・・・っ」
新條征爾。二十六歳。
消防隊員。新婚で妻は身重。
正義感の強い性格で、子供の頃からヒーローになりたいと言っていたという。
〇警察署の食堂
田中一昭「お、いいところに食堂があるじゃないか!」
田中一昭「蒼くん、お腹減ってないかい?何か作るよ!」
須藤蒼「で、でも僕は・・・」
田中一昭「いいからいいから!おじさんね、実はコックさんをやってるんだよ」
田中一昭「小さなお店だけど、結構常連のお客さんが多くてね。特に、オムライスが得意なんだ」
田中一昭「子供のころから、自分の店を持つのが夢でねえ。誰かが私の料理を食べて美味しいって言ってくれたら、もう天にも昇る心地なんだよ」
須藤蒼「人が喜ぶのを見るのが、嬉しいの?」
田中一昭「ああ、嬉しいね!」
田中一昭「君、アンパンマンは見たことある?彼は、弱体化してしまうとわかっていながら、顔をちぎって人に分け与えるだろう?」
田中一昭「お腹をすかせた人をほっとけない。そういう人が自分の顔を食べて喜ぶと、彼も本当に嬉しそうな顔をする」
田中一昭「私もね、アンパンマンみたいな人になりたかったんだ。だってほら、誰かが美味しいって言う顔!それ以上のご馳走はないじゃないか」
須藤蒼「人が喜ぶ顔を見るのが、ご馳走・・・」
田中一昭「そうさ。だからおじさんは、蒼くんが喜ぶ顔も見たいな」
田中一昭「ここの冷蔵庫、結構いろんなものが揃ってるみたいだ。作れるものも幅が広そうだし・・・多少ならリクエストに応えられるぞ!」
須藤蒼「そ、それじゃあ・・・」
須藤蒼「お、おじさんが得意だっていう、その、オムライス・・・食べてみても、いい?」
田中一昭「え、いいのかい?本当に?無理しておじさんに合わせてない?」
田中一昭「あ、ああ・・・それはめっちゃくちゃ嬉しいぞ。待っててくれ、気合入れて作るから!」
田中一昭「辛いゲームの疲れなんか吹っ飛ぶくらい、美味しいオムライスにするからね!」
須藤蒼「は、はい!ありがとうございます!」
須藤蒼「・・・・・・」
須藤蒼「・・・・・・」
〇黒背景
田中一昭「あ、あああ、あ・・・」
田中一昭「ご、ごめんなあ・・・ごめん、よ。 蒼くん、助けて、あげられな、か・・・」
田中一昭。
五十二歳。自営業。
神奈川県で妻と二人、食堂“うまいや”を経営する。
昔子供を事故で亡くしている。
須藤蒼(救世主候補として、おばあちゃんが連れて来た人はたくさんいた)
須藤蒼(でもみんな、ゲームをクリアできなくて死んでいった。時には、僕を守って。僕を庇って)
須藤蒼「全部、僕のせいなんだ」
須藤蒼「僕さえ生まれてこなければ、こんなことにはならなかったのに・・・!」
このデスゲームの真相がヘヴィすぎて衝撃です……😱
そして、数多くの“選別”の結果を間近で見続けてきた蒼くんの心中を想像すると😰
回想での候補者たちのセリフや言動が、まさに輪廻くんと似通っていることを考えると、蒼くんは猶更……😭
蒼くんが淡々と過去の救世主候補を回顧する今話、物凄く胸にキました……
彼らに情感豊かなヴォイスが当てられることで、その感情はひとしお……