龍神の水鏡(みずかがみ)(脚本)
〇霧の立ち込める森
リン「ふふっ!綺麗なお花、見~つけた!」
リン「ご病気の母様に持って帰ってあげよ」
リン「──あれ? スイレン~どこ~?」
リン「先に帰っちゃうよ~?」
リン「あっ!そこにいたん・・・」
リン「わわっ!」
リン「あっ!怪我・・・してるの?」
リン「大丈夫・・・? お家はどこ?」
傷ついたオオカミ「──」
リン「えっ?お家がないの・・・? そっか家族もいないの・・・」
リン「──だったら 家においでよ!」
傷ついたオオカミ「──」
リン「うん、もちろんいいよ! 父様に手当てしてもらいましょ?」
リン「さっ!おいで!帰ろ!」
リン「私、リンって言うの」
リン「あなた名前は?」
傷ついたオオカミ「──」
リン「お名前もないの!?」
リン「じゃああなたの事、 なんて呼べばいいか困っちゃうね」
リン「あー!リンが考えてあげよっか?」
リン「うーん、そーねー」
リン「よし!じゃああなたの名前は・・・」
リン「──よ?どう?」
リン「気に入ってくれた? 良かった!」
リン「あ!スイレンいた~!」
リン「こらっ!スイレン! 新しい家族と仲良くしなきゃダメでしょ!」
リン「うん、仲良くね ふふっ!3人で帰ろ!」
〇お祭り会場
それから13年後・・・
リン「うーん、どれがいいかな? この鈴のついたのも、かわいいし──」
リン「ねぇ、紫苑(シオン)、 どっちが似合ってる?」
紫苑「ん?どっちでもいいんじゃね?」
リン「もぉ!真面目に選んでよ!」
紫苑「ふん、そんなに気にするなら、 本人に・・・ 清継に選んでもらえばいいだろ」
リン「なんでそんな意地悪ばっかり言うの?」
リン「私が清継(きよつぐ)のこと好きなのに、 想いを伝えられないこと知ってるでしょ?」
紫苑「・・・」
リン「もういい・・・」
リン「カンザシをどれにしたとしても、 清継は私のことなんて、 どうせ妹としてしか見てくれないんだから」
リン「私、先に帰るから」
紫苑「あっ、待てよリン・・・」
紫苑「たく、イライラすんだよ なにが清継だよ。 あんなやつのどこがいいんだよ・・・」
かんざし屋のおやじ「さてはあんちゃん、 さっきの彼女に惚れてるな?」
紫苑「余計なお世話だよ!」
紫苑「・・・どうせ俺のことなんて眼中にないのさ」
かんざし屋のおやじ「たとえそうだとしても、 悩める若者に一つ助言をしてやろう・・・」
かんざし屋のおやじ「──こうすればきっと・・・」
紫苑「──」
〇神社の本殿
リン「・・・」
紫苑「はぁはぁ・・・ やっと追い付いたぜ」
紫苑「リンあのさ」
リン「さっきの事ならもう怒ってないよ」
紫苑「そうじゃなくて、ほら・・・」
リン「えっ、かんざし・・・?! かわいい!」
リン「紫苑が選んでくれたの?」
紫苑「薄紅色のが似合ってた」
リン「桃の花のかんざしかぁ、ありがとー!」
リン「大事にするね!」
リン「お父さん!お姉ちゃん!ただいまー! 紫苑がかんざし選んでくれたの! 見て見て!」
紫苑「ふっ、リンったら大げさだなぁ」
紫苑「おじさん、雨音さん、ただいま戻りました」
紫苑(だけど、そうか・・・ 最初からこうやってやれば良かったんだな)
紫苑(こいつの笑顔を見るだけで俺は十分・・・)
〇古民家の居間
アマネ「リン、顔を洗ってきなさい ひどい顔よ?」
リン「ふぁ~、おはようお姉ちゃん うん・・・」
紫苑「おはようございます、雨音さん」
アマネ「紫苑、おはよう 悪いんだけど、 お父さん起こしてきてくれる?」
紫苑「ええ、分かりました」
リン「・・・」
アマネ「リン、起きるか眠るかどちらかにしなさい」
リン「起きてるよ、井戸で顔洗ってくる・・・」
アマネ「ほんとにこの子は・・・ 大丈夫かしら、お嫁に行けるのかしらね」
雪継「おはよう、雨音・・・」
紫苑「雨音さん・・・ おじさん、いつもみたく、 徹夜でお札を書いてたみたいです」
雪継「・・・」
アマネ「本当に私、リンみたいにお父さんに似なくて良かったわ」
雪継「雨音・・・朝からなんて事をいうんだい」
アマネ「紫苑、ありがと じゃ朝ごはんの支度手伝ってくれる?」
雪継「・・・」
紫苑「・・・はい」
アマネ「お父さん! 食べ終わったら、紫苑に陰陽師の修行つけるんでしょうね?」
雪継「ええっ!?」
アマネ「昨日は庭掃除しかさせてなかったんですって?」
雪継「だって紫苑は・・・」
アマネ「言い訳はしないの!」
雪継「す、すまない・・・」
アマネ「私はリンに巫女修行つけるから、 お父さんもお務めしてね?」
雪継「分かったよ」
雪継「最近、ますます母さんに似てきたな・・・」
雪継「やれやれ、紅雨(こうう)・・・ 私だけで、あの子達を導けるのだろうか」
雪継「君が生きていてくれたらなぁ・・・ どうか見守っていておくれ」
〇祈祷場
アマネ「今日はここまでにしましょうか」
アマネ「お疲れさま」
リン「じゃあ私、後片付けしておくね」
アマネ「ええ、お願い 夜ご飯の支度をしてるね」
リン「ふぅ、私、 お姉ちゃんみたいな、才能がないのかしら」
リン「いくらご祈祷をしても 雨なんてちっとも降らないわ」
「そんな事はないよ」
清継「君は十分、頑張っているよ いつか実を結ぶさ」
リン「清継!」
リン「久しぶり! 手紙で書いてた予定よりも、 ずいぶん早い到着ね」
清継「あぁ、溜まっていた都での仕事が 割りとすぐに片付いたのさ」
リン「ねぇねぇ、また妖怪退治の話、聞かせてよ!」
清継「あぁ、いいとも」
リン「さっ、お父さん達に清継が帰ってきたことを知らせないとね」
紫苑「リン、雨音さんが片付け終わったら、 夕食の支度を・・・」
紫苑「清継・・・」
清継「やぁ、久しぶりだね」
紫苑「おう・・・」
清継「そうだ、リン お土産があるんだ」
清継「ほら、ずいぶん前になるが、 かんざしが欲しいと言ってたろ?」
清継「都で買ってきたんだ」
リン「ありがとう!綺麗・・・ 桜の花の髪飾りね」
紫苑「・・・」
清継「気に入るか分からないけれど、 どうぞ」
リン「さっそく着けてみるね」
リン「どうかな?」
清継「とっても似合ってるよ」
リン「えへへ」
清継「でもさっきまで着けてた そっちのかんざしはいいのかい?」
リン「これは・・・」
紫苑「・・・」
リン「これも大事なの」
紫苑「・・・」
リン「どっちも使うね」
リン「さっ、母屋に行きましょ」
〇古民家の居間
雪継「君が都に行ってから 二年経ったのかぁ・・・」
雪継「清継君もずいぶん立派になったな」
雪継「兄夫婦が・・・ 君の両親が生きていたら、誇りに思うだろうさ」
清継「いえ、まだ父さんには遠く及びませんよ」
雪継「ところで、君も今年で20かぁ どうだい? そろそろ嫁が欲しいんじゃないかい?」
清継「えっ?まだ早いですよ」
雪継「イトコ同士になるが、 雨音かリンのどちらかを嫁にどうだい?」
雪継「君が入婿になって、家を継いでくれたら、 雨ノ宮家は安泰さ」
「・・・!」
アマネ「もう、お父さんったら、 そんな適当なこと言っちゃって」
リン「・・・」
アマネ「私は嫌よ? 私より7つも年下の清継なんて」
アマネ「リンなら清継の3つ年下になるから、 そっちの方がちょうどいいんじゃない?」
リン「お、お姉ちゃん!」
紫苑「・・・」
アマネ「ふふっ」
雪継「まぁ冗談は置いといて、 清継君、今日は疲れたろう?」
雪継「客間に布団を敷いてあるから ゆっくり休みなさい」
清継「ええ、そうさせてもらいます」
清継「おやすみなさい」
〇古風な和室(小物無し)
紫苑「・・・」
紫苑「──」
紫苑「ん?」
紫苑「──!」
紫苑「妖怪の臭い!」
紫苑「なんで神社に! 結界で入ってこれないはずなのに!」
紫苑「リン!雨音さん、おじさん!」
〇古いアパートの居間
「リン!」
紫苑「大丈夫か?」
リン「ど、どうしたの?」
紫苑「妖怪が神社に入りこんでる!」
リン「ええっ?!」
紫苑「龍神様の水鏡を狙ってるのかもしれない!」
リン「・・・!!」
リン「お父さんとお姉ちゃんに知らせなきゃ!」
紫苑「あぁ!俺は雨音さんを起こしてくるから、 リンはおじさんを頼んだ!」
リン「分かったわ!」
〇古風な和室(小物無し)
リン「はぁはぁ、お父さん!妖怪が・・・!」
リン「あれ?お父さん?!」
リン「いない!きっと気配に気がついて・・・!」
リン「水鏡の間に行ったんだわ!」
アマネ「リン!」
リン「お姉ちゃん! お父さんはたぶん水鏡の間だわ!」
アマネ「分かったわ、清継も部屋に居なかった きっと気配に気がついて、 起きたようね」
アマネ「行くわよ!」
〇祈祷場
リン「お父さん!いる!?」
アマネ「お父さん!」
紫苑「暗くてよく見えないが、妖怪の気配だ! 気をつけろ!」
リン「えっ、誰か倒れてる・・・」
雪継「・・・」
「お父さん!」
アマネ「お父さん!しっかりして・・・!」
リン「血がこんなに・・・」
雪継「逃げ・・・ろ」
リン「えっ?」
ガクッ
リン「そんな!」
アマネ「お父さん!お父さん!」
日照りの神「ふふっ」
日照りの神「弱い、弱いな」
日照りの神「水鏡を守る主が所詮この程度か」
紫苑「妖狐か!? きさまぁ!」
アマネ「妖!良くもお父さんを!」
アマネ「穢れを祓ってやる!」
アマネ「妖よ!滅す! 光となって砕け散れ!」
日照りの神「ふふっ、お主もその程度か」
アマネ「そんなっ!」
日照りの神「雨の巫女が聞いて呆れる」
日照りの神「お返しだ」
アマネ「きゃぁ!」
アマネ「・・・」
リン「いやー!お姉ちゃん!お姉ちゃん!」
アマネ「リン・・・、ダメよ・・・」
アマネ「かなわな・・・い」
リン「嫌よ、うそ!嫌!」
紫苑「リン!逃げるぞ!リン!」
リン「・・・」
紫苑(くそっ、聞こえてない!)
日照りの神「ふふっ、脆い、 人間とはなんと脆弱な生き物か」
日照りの神「おお、これが水鏡だな」
日照りの神「こうして見ると、美しいものよ」
日照りの神「だが・・・」
日照りの神「ふふっ、忌々しい水龍よ 砕け散るが良い」
〇神社の本殿
紫苑「くそ!くそ! 水鏡が割られた!!」
リン「ううっ、 お姉ちゃん、お父さん・・・」
紫苑(リンだけでも絶対守る!)
影「・・・」
紫苑「っ誰だ!」
清継「・・・紫苑、リン」
紫苑「清継!無事だったのか!」
リン「清継・・・ お姉ちゃんとお父さんが・・・っ」
リン「妖がいるの! 助けて・・・」
清継「・・・」
紫苑「清継?」
清継「・・・」
清継「あの妖は俺の式神だ」
紫苑「なっ」
リン「えっ?」
紫苑「なんの冗談だよ・・・」
日照りの神「ふふっ、清継 その人間どもを殺してやろう」
清継「あぁ、好きにしろ」
リン「清継・・・!」
紫苑「お前が! 裏切ったのかぁぁ!」
清継「じゃあな、リン」
リン「清継・・・っ!」
紫苑「許さねぇぞ! 清継っっっ!!!」
日照りの神「ふふっ、お主らを殺してやろう・・・」
紫苑(リンをやらせねぇ!)
紫苑「水よ!浄めよ!」
日照りの神「わらわにそんなもの効かぬわ」
日照りの神「あぁ、弱い それに・・・」
日照りの神「そなたは犬臭いのぉ ふん、半端者めが」
日照りの神「消え去れ!」
紫苑「ぐわっ・・・!」
リン「紫苑!」
リン「紫苑!しっかりして!」
紫苑(あぁ、ダメだ・・・ 頭がぼーっとする・・・)
紫苑(俺、死ぬのか? でも・・・)
紫苑(リンだけは・・・)
紫苑(俺はどうなってもいいから・・・)
紫苑(誰か、リンを守ってくれ・・・)
紫苑(頼むよ・・・)
紫苑(神様・・・)
白蛇「──」
紫苑(蛇?)
〇神社の本殿
日照りの神「まさか・・・!」
白蛇「久しぶりの再会だ」
白蛇「”日照りの神”よ」
白蛇「・・・」
白蛇「さぁ、後のことは頼んだよ、 雨の巫女とその式神・・・」
紫苑「えっ・・・?」
白蛇「──日照りの神よ」
白蛇「ここは我が領域だ これ以上、お前の好きにはさせぬ」
白蛇「出ていってもらおう・・・」
日照りの神「ぎゃ・・・!」
紫苑(き、消えた・・・)
紫苑(蛇も狐の妖怪も、清継の気配も・・・)
紫苑(全部消えた・・・)
紫苑(リン!リン・・・!)
リン「紫苑!しっかりして!」
紫苑(くそっ、体が動かねぇ 声も出ねぇ・・・)
紫苑(大丈夫だ、リン・・・ 俺がついてる・・・)
リン「紫苑!死なないで!」
紫苑(俺はお前を・・・ ひとりはさせない・・・)
紫苑(絶対に・・・)
リン「紫苑!紫苑──!」
〇古風な和室(小物無し)
それから・・・
紫苑「・・・」
紫苑「──」
紫苑「リン!」
紫苑「夢・・・?」
リン「おはよう、紫苑・・・」
リン「全部、夢だったら良かったのにね」
紫苑「・・・!」
リン「お父さんとお姉ちゃんはダメだった」
紫苑「そ・・・んな・・・」
リン「あの日から5日 でも奴らは来ない」
リン「あの蛇の妖怪が、 奴らを倒してくれたのか・・・」
リン「それとも水鏡を壊して、 目的を果たしたからなのか、 分からないけれど」
リン「・・・」
紫苑「くそっ、くそっ・・・!」
紫苑「俺にもっと力があればっ!」
リン「・・・」
リン「水鏡が割られてしまった・・・」
リン「私は、雨呼びの巫女として、 なすべき事を果たさなければならない」
紫苑「成すべきこと?」
リン「うん、新しい水鏡を作るの」
リン「そうしないと、この国とその周辺は 向こう100年もの間、 雨が降ることはない・・・」
紫苑「えっ、そうなのか・・・」
紫苑「水鏡はどうやって作るんだ?」
リン「まず東の涼尾山へ行って、 鏡石を取って来なければならないの」
リン「だから私、旅に出ようと思うの」
紫苑「・・・! だったら俺が取ってくるよ」
紫苑「旅なんて危ないこと、 リンにさせられない!」
リン「ううん、ご祈祷をあげて初めて、 鏡石が姿を現すらしいの」
リン「だからこれは、雨呼びの巫女の血を引く 私にしかできないの」
紫苑「・・・」
紫苑「だったら俺もついていく」
リン「・・・でもこの旅の最後は──」
リン「──」
紫苑「・・・?」
リン「いいえ──」
リン「本当は付いてきてほしいの・・・」
リン「だって私の家族は 紫苑だけになっちゃったから」
紫苑「っ! 当たり前だろ!付いて行くに決まってる!」
紫苑「大丈夫だ! 一人には絶対にさせないから!」
リン「ありがとう、紫苑」
リン「あなたが生きていてくれて・・・」
リン「本当にありがとう・・・」
〇神社の本殿
数日後──
紫苑「荷物は、忘れ物はないか?」
リン「ええ、大丈夫」
紫苑「じゃあ行こうか」
リン「あっ!待って!」
紫苑「ん?」
リン「・・・」
リン「お父さん、お姉ちゃん、お母さん・・・」
リン「行ってきます・・・」
紫苑「・・・」
リン(そして、きっと私はもう、 ここへは戻って来れない)
リン「・・・」
リン(だけど、見守っていて下さい)
リン(そして、 水鏡を持って帰ってくる紫苑のことを、 ずっと護ってやって下さい・・・)
リン「・・・」
紫苑「・・・」
リン「龍神様、行ってきます」
リン「・・・」
リン「もう、いいよ 行こっか」
紫苑「済んだか? もう、いいのか?」
リン「うん、もう大丈夫だよ」
紫苑「よし・・・、じゃあ出発だ」
リン(さようなら、みんな・・・)
リン(さようなら)
前半で人物の相関関係の描写がしっかりしていたので、後半の流れにも説得力があり、ドラマチックな急展開に引き込まれました。最終的には再びリン(雨呼び)と清継(日照り)が対決する展開の予感がします。冒頭のエピソードのオオカミと紫苑の関連も気になるところです。